(社説)自民3戦全敗 政権運営、反省の時だ
                             朝日新聞 2021年4月26日

 菅政権下で初となる三つの国政選挙で自民党が全敗した。とりわけ前代未聞の大規模選挙買収事件を受けた広島での敗北は、金権政治に対する有権者の厳しい姿勢の表れに違いない。菅首相は一連の審判を重く受け止め、政権運営全般の反省につなげねばならない。
 きのう投開票された3選挙のうち、収賄罪に問われている吉川貴盛元農水相の議員辞職による衆院北海道2区補選は、「勝ち目がない」とみた自民党が早々に候補者擁立を見送り「不戦敗」に。残る参院の長野選挙区補選と広島選挙区再選挙が与野党対立の構図となった。
 長野は急逝した立憲民主党の羽田雄一郎氏の地盤を引き継いだ弟の立憲新顔が勝った。自民は長野の情勢も厳しいとみて、公職選挙法違反の有罪が確定した河井案里氏の当選無効に伴う広島に力を注いだが、野党共闘候補に及ばなかった。
 広島はもともと、衆院の7小選挙区のうち六つを押さえる「自民王国」である。地力の差がありながらの敗北は、事件へのけじめも疑念解消への取り組みも不十分な、自民と政権に対する有権者の強烈なしっぺ返しといえる。
 カネを受け取った自民党県連所属の県議と広島市議計24人は刑事責任を問われず、現職にとどまっている。選挙前に河井夫妻に渡した1億5千万円の使途の解明に、党本部が主体性を発揮した様子もない。再選挙の陣頭指揮をとった党広島県連会長の岸田文雄前政調会長は、「自民党を変えていかなければならない」と訴えたが、真相解明と再発防止の具体策がなければ、信頼は取り戻せない。
 首相として初めて臨む国政選挙で、秋までに必ずある衆院選の前哨戦だというのに、首相が応援演説に出向くなど、先頭にたって支持や理解を呼びかける場面は最後までなかった。敗れた際の打撃を和らげたいという思惑からか。コロナ対応や米国訪問があったとはいえ、腰が引けた印象は否めない。
 有権者の判断材料は「政治とカネ」の問題に限るまい。3度目の緊急事態宣言に追い込まれたコロナ対策をはじめ、これまでの政権運営に対する総合評価の表れとみるべきだ。首相にはその謙虚さを求めたい。
 一方、共闘が功を奏し、3勝した野党も慢心は禁物だ。長野では、立憲の候補者と共産、社民の地元組織が結んだ政策協定に国民民主が反発し、推薦を一時白紙とする混乱があった。近づく衆院選に向け、選挙区での候補者の一本化と同時に、共通の公約づくりや政権の枠組みに対する考え方のすり合わせを急がねばならない。

 
(社説)衆参3選挙で自民全敗 政権半年への厳しい審判
                                           毎日新聞 2021年4月26日

 菅義偉政権の半年に対する厳しい審判だ。首相は結果を重く受け止めなければならない。
 内閣発足後初の国政選挙となった衆参3選挙で、自民党が候補を立てなかった衆院北海道2区補選を含めて全敗した。
 与党が補選・再選挙で1勝もできないのは異例の事態だ。とりわけ保守地盤である広島の参院再選挙で、敗れた打撃は大きい。
 買収事件で有罪が確定した河井案里元議員の当選無効に伴う再選挙だった。「政治とカネ」の問題が最大の争点となった。
 しかし、自民党の二階俊博幹事長は事件を「他山の石」と評し、首相も選挙応援に入らなかった。政治不信の払拭(ふっしょく)に取り組む姿勢が全く見えなかった。
 全敗は何より、半年間の政権運営が招いた結果である。
 まず、新型コロナウイルス対策だ。対応が再三後手に回り、3回目となる緊急事態宣言の発令に追い込まれた。感染対策の「切り札」と位置づけるワクチンも、海外からの調達に手間取り、国民にいつ行き渡るのか見通せていない。
 日本学術会議の会員候補6人を任命しなかった問題は、拒否の理由を説明せず、全く解決していない。放送事業会社に勤める長男が総務省幹部を接待した問題についても、「長男は別人格」とかわし、真相解明に向けて消極的な態度を貫いた。
 首相は「当たり前の政治」を掲げ、国民目線の政策をアピールしてきた。しかし、実際の政権運営は、国民感覚からかけ離れたものだった。
 この半年間で浮かび上がったのは、国民と向き合わずに、説明に意を尽くさない独善的な首相の政治姿勢である。
 衆院議員の任期満了まで半年を切った。今回の全敗を受けて、自民党内で「菅首相で総選挙が戦えるのか」との声が強まる可能性がある。
 ただし、今は、コロナの感染爆発を抑えられるかどうかの瀬戸際である。衆院解散をちらつかせたり、政権延命を画策したりするような状況ではない。
 首相はまず喫緊の課題であるコロナの収束に全力で取り組み、有権者の不安や不信に応える責任がある。


 (社説)衆参で自民3敗 政権批判と受け止めよ
                                                 東京新聞 2021年4月26日

 25日に投開票が行われた衆参三選挙区での補欠選挙と再選挙は、いずれも野党系候補が勝利した。自民党は不戦敗を含めて全選挙区での敗北となり、菅政権への厳しい民意が反映された形だ。
 昨年9月に就任した菅義偉首相(自民党総裁)にとって初の国政選挙。自民党は公認候補を擁立した参院広島選挙区の再選挙と参院長野選挙区で敗れ、衆院北海道2区の補欠選挙では候補者擁立を見送った。首相にとって不戦敗を含む3選挙での自民敗北は、今後の政権運営や、10月に任期満了となる衆院の総選挙に向けて大きな痛手となるに違いない。
 特に、参院広島は大規模買収事件で有罪が確定した河井案里前参院議員の当選無効、衆院北海道2区は鶏卵汚職事件で収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農相の議員辞職に伴う選挙である。
 いずれも、離党したものの自民党議員による「政治とカネ」の問題が発端であり、自民党内に残る旧態依然の金権体質が、選挙の主要争点になった。
 自民党は参院広島再選挙で、経済産業省の官僚出身者を擁立。地元の岸田文雄前政調会長ら党幹部が現地入りして必勝を期したが、有権者の支持は得られなかった。
 立憲民主党の羽田雄一郎元国土交通相の死去に伴う参院長野補選では元衆院議員を擁立して臨んだが、強固な地盤は崩せなかった。
 首相をはじめ自民党は、政治とカネの問題を巡る厳しい世論を深刻に受け止めるべきである。
 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、感染拡大防止や医療態勢の逼迫(ひっぱく)解消に向けた有効な手だてを講じられない政権に対する不信感も、与党・自民党への厳しい判断につながったのだろう。
 三つの国政選挙は、衆院選や7月4日投開票の東京都議選の行方を占う前哨戦とも位置付けられ、発足半年の菅政権の政権運営や政治姿勢を問う選挙でもあった。
 不戦敗を含む全敗を受けて、自民党内で菅氏の下では衆院選は戦えないとの意見が出てくれば、首相交代論が一気に高まり、9月に行われる党総裁選での菅氏再選は難しくなるかもしれない。
 一方、野党側にも課題を残した選挙でもあった。立憲民主、共産、国民民主、社民の野党各党は三選挙区とも野党「統一候補」を立てて臨み、勝利したが、共産党の協力を巡って陣営内に亀裂も残した。次期衆院選で野党共闘を進めるには、選挙態勢の立て直しが急務となるだろう。

 
 (主張)自民党「3敗」 有権者の厳しい声を聞け
                                          産経新聞 2021年4月26日

 菅義偉首相にとって初の国政選挙となった参院長野選挙区補選と広島選挙区再選挙、衆院北海道2区補選の3つの選挙で自民党が全敗した。
 「政治とカネ」の問題や3度目の緊急事態宣言の発令という新型コロナ対策などをめぐり、有権者が厳しい判断を突きつけたといえよう。
 自民党内に緩みや驕(おご)りはなかったか。菅首相や与党幹部は政権に向けられた国民の厳しい声に真摯(しんし)に耳を傾けねばならない。
 3つの国政選挙は、与野党とも今秋までに行われる次期衆院選の前哨戦として位置づけ、党幹部が連日選挙区入りしながらの総力戦となった。
 衆院北海道2区補選は鶏卵汚職事件に絡み、収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農林水産相の議員辞職に伴って行われた。自民党は不戦敗を決め込み、公明党も自主投票とした。これでは与党として国民に訴えるものがないと言っているのも同然である。参院長野は羽田雄一郎元国土交通相の弔い合戦の色合いが強かった。
 「政治とカネ」が最大の争点となった参院広島再選挙は、公職選挙法違反で有罪判決が確定した河井案里前参院議員(自民離党)の当選無効を受けて行われた。与党にとって逆風だったが、それをはね返せなかったのは、有権者に場当たり的な対応を見透かされていたからではなかろうか。
 自民党候補は選挙戦序盤に封印していた「政治とカネ」の問題について、終盤で党本部の批判に転じるなど、真摯にこの問題に向き合ったとは言い難かった。
 折からのコロナ禍で政府は東京など4都府県に25日から緊急事態宣言を適用した。変異株が猛威を振るい、いっこうに収束する気配を見せない。ワクチン接種も他の先進諸国に比べ遅々として進んでいない。感染者の増加に伴い、病床も逼迫(ひっぱく)している。
 ウイルスと闘うのに与党も野党もない。菅首相が責任政党のトップとして、常に謙虚な姿勢で国政に臨むのは当然だ。医療体制に万全を期すなどコロナ対策に全力を挙げてほしい。
 3カ月後には東京オリンピック・パラリンピックがある。菅首相に求められるのは、目先の弥縫(びほう)策ではなく、コロナ禍への不安を取り除き、国民の健康と命を守る施策である。内外の諸課題にも果敢に取り組んでもらいたい。