(社説)国際女性デー/差別解消への動き鈍い
                                     北海道新聞 2021年3月8日

  きょうは女性の権利向上を目指し、国連が定めた「国際女性デー」だ。日本社会の現状は、ジェンダーギャップ(社会的性差による格差)を克服できないでいる。
 その問題の根深さを露呈したのが、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言だった。
 改革を迫られた組織委は女性理事の割合を約20%から40%超に高めた。だが、これで問題の解消とはならない。意思決定に多様な視点を反映してこそ前進と言える。
 日本では男女の役割意識の改善や女性活躍の実現にはまだまだ厚い壁がある。女性の任用を目的とした法律は努力目標にすぎず、政治や企業で指導的地位にある女性の割合は目標に遠く届かない。
 この現実を打ち破るには、女性候補者や女性役員の割合を一定数割り当てる「クオータ制」の導入を本気で考えることが重要だ。実効性のある仕組みを設けて性差別の解消を目指したい。

 2019年の世界経済フォーラムによる男女平等の日本の順位は153カ国中121位だった。

 政府が目標とした「指導的立場の女性を20年までに3割にする」は実現できず、「20年代の可能な限り早期」に先送りされた。
 菅義偉政権のジェンダーへの感度は鈍い。新しい男女共同参画基本計画では「選択的夫婦別姓」の文言が削除され、後退した。
 多くの女性が結婚後の姓と旧姓の使い分けを巡り悩みを抱える。選択的夫婦別姓制度の導入は男女共同参画の中心テーマのはずだ。
 制度導入に反対する文書に名を連ねていた丸川珠代氏を男女共同参画担当相に就任させたことも政権の意識の低さをうかがわせる。
 07年、当時の柳沢伯夫厚生労働相が女性を「産む機械、装置」に例えた発言をして批判された。それ以後も自民党議員の女性蔑視発言は繰り返された。体質はなかなか変わらない。
 他の先進国はジェンダー平等を持続可能で公正な経済の要件と認識し、男女格差を縮める政策を取ってきた。
 政府は女性活躍推進を掲げてきたが、家事や育児などの負担は女性に重くのしかかったままだ。
 こうした実情を改善し、女性の社会進出を拡大するには、働き方や家庭での男女の役割をさらに見直す必要がある。そのための制度改革がいっそう求められる。

 社会の意識改革や女性の社会進出を阻む課題の解消に、政治が先頭に立って取り組む必要がある。

  (社説)ジェンダー平等 政策の中心に据えねば 
                                   東京新聞 2021年3月8日

 きょう8日は国際女性デー。森喜朗氏の女性蔑視発言に端を発したジェンダー平等を巡る議論は、日本が「後進国」である現実を浮き彫りにした。その背景に政治の不作為を指摘せざるを得ない。
 「女性活躍」は、2012年に発足した第二次安倍政権の看板政策だった。成長戦略の核として掲げられ、15年には「女性活躍推進法」が成立。政府や企業に女性登用のデータ公表など具体的行動が義務づけられた。
 強い要請は経済界には一定の効果をもたらした。
 上場企業の女性役員の割合は、12年の1.6%から20年には6.2%に上昇した。

 それでも、20〜40%の欧米には遠く届かない。管理職ではさらに変化は鈍く、部長職などの女性比率は、16年をピークに一時、下がってもいる。
 日本はこの間、男女不平等の度合いを示す世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数が12年の101位から、19年には120位に悪化した。

 その要因は「政治」分野で153カ国中、下から10番目だ。
 衆議院の女性議員はわずか9.9%。下院がある190カ国中、166位という状況は、先進国としてあまりにも少ない。
 政権は「女性活躍」の旗を振りながら、足元の不平等には目を閉ざしたままだ。政党が候補者を男女均等にするよう求める「政治分野の男女共同参画推進法」が18年に施行されたにもかかわらず、翌年の参院選では与党の自民、公明ともに、女性候補者の比率は逆に下がっている。
 ジェンダー平等を先導する立場の男女共同参画担当相に起用された丸川珠代氏が、選択的夫婦別姓の導入に反対するよう地方議会に求める文書に名を連ねていたことも、とても看過できない。
 遅々とした政権の取り組みに比べ、人々の意識は急速に変化している。医学部入試での女性差別が明らかになり、#MeTooやフラワーデモなどの運動にも共感が集まった。多様性こそが活力や革新を生むとの認識が、性別を問わず広がっている。
 コロナ禍で、女性に対する性暴力やDV、女性の自殺が増えた。経済・社会的に立場の弱い女性は命の危険にもさらされている。
 女性が差別され、不利益を受けているという人権の観点から、ジェンダー平等を政策の中心に据えることが急務だ。政治がどう応えるのか、私たち有権者が厳しく見ていかなければならない。

 (社説)国際女性デーと日本 「おじさん政治」と決別を
                                毎日新聞 2021年3月8日

 きょうは国連が定める「国際女性デー」だ。1904年のこの日、米国の女性たちが参政権を求めてデモをしたことを起源とする。女性差別のない社会に向けて行動することを呼びかけている。

 だが、その理念と大きくかけ離れた現状が日本にはある。

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言は、日本社会の旧弊をあぶり出した。古い考え方のリーダーが、均質な組織を率いる。そこでは挑戦より現状維持が優先され、少数意見は無視されるか排除される。
 森氏の辞任表明後には、自民党の二階俊博幹事長が、男性の多い幹部会議に女性議員を参加させると表明したが、発言権のない「オブザーバー」扱いだったことが批判された。多様な意見を党の運営に生かす視点があれば、このような対応にはならない。
 日本は意思決定の場に女性が少ない。「指導的地位に占める女性の割合を30%に」との目標は2020年までに達成されなかった。
 国会議員の女性比率は衆院9.9%、参院22.6%だ。列国議会同盟によると1月時点で世界190カ国中166位と低い。国民の半数は女性なのに不均衡が際立つ。「おじさん政治」「女性のいない民主主義」と言われる。

 議員候補者の男女均等を目指す法律が18年にできたが、実効性に欠ける。

 議員や候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」を、既に118カ国・地域が採用している。日本も導入すべきだ。
 クオータ制には「女性優遇だ」との批判がつきまとう。だが、そもそも男性を優遇してきた現状を正すための手段である。
 台湾では、女性枠で当選した議員の活動に刺激され、枠外で出馬する女性が増えるという好循環が生まれた。
 政治の場に女性が増えることは、議論の多様性が増すことにつながる。これまで見落とされたり、後回しにされたりしがちだったさまざまな問題に、光が当たることが期待される。
 民主主義の基本的な理念を、率先して実現するのが政治の責務だ。現状を変えるには、まず政治家の意識を変える必要がある。

 (社説)国際女性デー 遅れた「平等」直視したい
                       
        琉球新報 2021年3月8日

 きょう3月8日は国際女性デー。女性への差別に反対し、地位向上を求める日である。
 国連は2021年のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち―コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」に定めた。女性はリーダーシップを発揮できているだろうか。そしてコロナ禍で平等な労働環境と政治参加を手に入れているだろうか。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が「女性の入っている理事会は時間がかかる」などと発言し、辞任に追い込まれた。日本オリンピック委員会(JOC)が女性理事を増やす方針を掲げたことに関連しての発言だった。
 政府はあらゆる分野で「指導的地位に占める女性の割合30%」を目標とするが、達成には遠く及ばない。JOCも女性理事は20%だ。森氏の発言は困難を越えてようやく発言権を得た女性たちをけん制するメッセージだった。男性の多数決に従い、立場をわきまえておとなしくしていろと、女性たちを従来の、男性主体の社会の枠に押し込めようとした。
 森氏は過去に「子どもを一人もつくらない女性が、(略)年取って税金で面倒見なさいというのは、本当はおかしい」と言ったこともある。子どもを産まない女性は国のためになっていない、価値がないという発想は女性の人格すら否定している。
 しかし当時、問題にはなったが、進退にはつながらなかった。今回、辞任に至ったのは女性たちが世論をつくり、五輪開催すら危ぶまれたからだ。変化の兆しが感じられる。
 ただし、日本の女性の地位は国際的にみれば大きく立ち遅れている。世界経済フォーラムが発表した19年の「男女格差報告」で日本は153カ国中、過去最低の121位だ。特に政治分野は144位と深刻で、衆院議員10%、参院23%、閣僚も20人中2人にとどまる。沖縄でも県議会は14%にすぎない。
 男女の候補者数をできる限り均等にするよう求める法律が施行されたが、効果ははかばかしくない。女性候補者の割合を義務づけるクオータ制や割合に応じた政党助成金の配分など諸外国の制度を参考に導入を議論すべきだ。
 コロナ禍は雇用の不安定な女性を追い詰めている。働く女性の半数以上は非正規労働者だが、昨年、同じ非正規でも女性のほうが男性の2倍、減少している。正社員は増えておらず、真っ先に解雇されるのは女性だと考えられる。男性との給与格差も大きい。コロナ禍で大きな影響を受ける層に焦点を当てた支援策を講じなければならない。
 日本社会の男女格差は根深い。男は仕事、女は家庭などの性別役割意識が強く残り、男性に長時間労働を強い、女性の社会参画を阻んでいる。現状を直視し、いかに男女が平等な社会を築けるか、男性も共に考える日にしたい。