原発のたたみ方/18止
 専門家に聞く 更田豊志・原子力規制委委員長 自律と規制、ベストミックス探る

                                              毎日新聞 2021年3月25日

東京電力福島第1原発内で建設中の「大型廃棄物保管庫」。汚染水から取り除いた放射性物質を含んだ廃棄物を保管する
=福島県双葉町で2021年2月12日、滝川大貴撮影

ふけた・とよし

=内藤絵美撮影 拡大
=内藤絵美撮影

 1957年水戸市生まれ。87年に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に入所。原子力基礎工学研究部門副部門長などを経て、2012年9月に原子力規制委員会が発足した当初から委員。17年から現職。

廃棄物 建屋の解体、計画的に
 原子力規制委員会は、再稼働を目指す原発の安全審査だけでなく、廃炉が決まった原発についても作業が安全にされるのか、廃炉計画などをチェックする役割も担う。更田豊志委員長が感じている廃炉の課題とは――。
 
 ――政府・東京電力の福島第1原発の廃炉工程表では、冷温停止となった2011年12月から30~40年後に「廃炉を完了する」とうたっています。しかし、廃炉作業は当初の計画から遅れ、順調とは言えません。

 ◆実は、私は今の時点で30年や40年といった期間、そして廃炉後の姿についてギリギリと議論を詰めていくことに、あまり意味があるとは思っていない。というのも、福島第1原発は現在のところ安定化が進んで、敷地外の人の健康に悪影響を与えるリスクや、敷地外の環境を汚染するリスクは非常に小さくなった。
 だが、廃炉作業そのものはまだまだこれから。むしろ作業が進むにつれて困難さは増していく。規制委として、目の前の「敵」との戦いへ神経を集中しているという状況だ。

 ●期間は決められぬ
 ――ただ、最終的な目標を明確にすることで、具体的な計画を立てたり作業の進み具合を評価できたりします。
 ◆技術だけを考えるのなら、そうした理屈は分かる。だが、多くの福島の方が望んでいるように「福島第1原発を更地にして返す」というのを最終的な廃炉完了後の姿とするならば、どこかへ放射性廃棄物などの処分地を設けるという議論を含めて、考えなければならない。それこそ技術だけの問題ではないし、期間を決められるものではない。
 長期の姿を描こうとすれば、どうしても目標として一定の年数を掲げることが必要になるだろう。けれども、30年、40年という目標の現実性や具体性について問いかけることは、かえって事故の被害にさいなまれている方々に対してどうだろう、と思っている。
 ――事故後、国内のさまざまな原発で廃炉が決まりました。廃炉の課題をどう考えていますか。
 ◆廃炉そのものは、諸外国での事例もあれば、国内でも日本原子力発電の東海原発(茨城県東海村)での経験もある。試験炉でいえば、旧日本原子力研究所のJPDR(東海村)の解体経験もある。廃炉技術そのものは、こうした事例に学びつつ、ということになるだろう。
 廃炉そのものに技術的な困難があるというより、むしろ廃炉に伴って発生する放射性廃棄物をどう処分していくかということの方がハードルは高いと思う。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場と違って、事故を起こしていない原発は核燃料を取り出してしまえば、そこまで強烈に放射性物質で汚れていない。そういった意味で、放射性廃棄物の長期保管なども可能だろうと思っている。
 ――すると、東海村の日本原子力研究開発機構の「東海再処理施設」は再処理工場なので、廃止作業は原発より課題が多くなりますね。
 ◆これはもう桁違い。再処理工場の廃止措置(廃炉)の難しさは、発電所とは比べものにならない。放射線量の高いセシウムなど放射性物質をたっぷり含んだ使用済み核燃料を、わざわざ切って溶かしているので、溶かした液が流れた配管は全て放射性物質で汚れている。廃止措置のかなりの部分を遠隔操作で進めなくてはならないし、出てくる放射性廃棄物の量も費用面も比較にならない。

 ●乾式貯蔵推進を
 ――各地の原発で廃炉が決まり廃炉の監視という点でも規制委の重要性が増しました。廃炉の監視で重視している点は?
 ◆電力会社には、建屋や機器の解体を計画的に進めてもらいたい。やっぱり、いたずらに廃炉を長期化してほしくはない。計画通りに進めるという点では(放射性レベルが極めて低い廃棄物を一般廃棄物と同様に扱う)「クリアランス」などは安全性の確認が必要なので、規制委も努力する必要がある。廃炉に関して、規制委の役割は以前に比べて大きなものになったと思っている。
 それと電力各社に求めているのは、使用済み核燃料を空気で冷やす「乾式貯蔵」の推進だ。プールでの貯蔵が危険というわけではないが、福島第1原発事故でも乾式貯蔵していた核燃料は津波に襲われて移動したものの、問題はなかった。プールで冷却した後、空気で冷やしても問題ない温度になった核燃料は、速やかに乾式貯蔵に移行してほしい。
 ――福島第1原発事故を契機に発足した規制委ですが、課題は?
 ◆「私たちの姿勢をどう変えれば電力会社の姿勢が良くなるのか」という点だ。例えば、規制によらない電力会社の自主的な安全対策の一つをとっても、原発事故前の姿勢と変わらない部分がある。だからといって、規制委が非常に高圧的に強く厳しく接すると、電力会社は萎縮し考えなくなる。逆に、電力会社の自主性を非常に重んじる規制委になったとしたらどうだろうか。電力会社の姿勢は良くなるかは分からない。
 原発の地元自治体の意見を聞いていると、求められるのはとにかく「強い規制」「厳格な規制」だ。確かにそれは当然だ。だが、それも極端になると電力会社は何も考えなくなり依存的になる。規制委として、どういった姿勢がふさわしいか。これは永遠のテーマだ。【聞き手・塚本恒】=「原発のたたみ方」は今回でおわります

ふけた・とよし
 1957年水戸市生まれ。87年に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に入所。原子力基礎工学研究部門副部門長などを経て、2012年9月に原子力規制委員会が発足した当初から委員。17年から現職。