(社説)「東海第2」判決/運転差し止めは当然だ
                                        北海道新聞 2021年3月19日

 日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)の安全性を巡り、9都県の住民が運転差し止めを求めた訴訟で水戸地裁はきのう、運転を認めない判決を言い渡した。
 判決は「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い」ことを理由に挙げた。住民の不安に応えた内容だ。

 避難計画に焦点を当てた司法の判断は珍しく、画期的といえる。

 東海第2は1978年稼働の老朽原発だ。だが、原子力規制委員会は原則40年の運転期間を20年延長する異例の許可を出していた。
 東日本大震災では津波を受けたがかろうじて過酷事故は免れた。東京電力福島第1事故の教訓や地元感情を考えれば、本来は既に廃炉作業に入るべき段階にある。
 判決の重みを受け止め、国は住民本位の避難計画がなければ、再稼働論議の入り口にすら立てないことを肝に銘じるべきだ。
 判決では規制委審査を合格した地震規模や耐震設計、津波などの想定は問題視しなかった。
 そのうえで、茨城県の広域避難計画に地震で住宅が倒壊した際の屋内退避方法に言及がないことなどを指摘し、生命や財産など「人格権が侵害される具体的危険がある」と判断した。
 福島事故後の運転差し止めは、関西電力大飯3、4号機での福井地裁判決に次いで2例目だ。
 仮処分決定や許可取り消し判決もあったが、いずれも想定地震規模などの妥当性が争点だった。
 東海第2は東京都心からも近く半径30キロの避難対象地域には全国最多の約94万人が住む。避難先は茨城県と近隣5県にわたる。
 だが、市町村レベルの避難計画策定は進んでいない。判決は確定まで効力が生じないが、早期再稼働は困難な情勢となった。
 原電は1957年に国内で原発を導入する際に設立した専業会社だが、現在は稼働原発はない。
 延命のために再稼働を目指すのは本末転倒だ。福島第1廃炉作業の協力に軸足を移すなど新たな時代の役割を果たすべきだ。
 一方、四国電力伊方3号機(愛媛県)の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分決定に対する異議審では、同高裁がきのう、運転を一転認める決定を出した。
 伊方を巡っては、過去にも高裁の運転差し止め決定が後に覆された。4年間で司法判断が二転三転しており、地元の不信は増す。
 規制委が主導権を握る技術面の可否のみでなく、住民目線の安全確保を第一にした判断が大切だ。

 
(社説)原発裁判/司法判断に翻弄される再稼働
                                               読売新聞 2021年3月19日

 原子力発電所の再稼働は、国のエネルギー政策を左右する問題である。裁判所によって異なる判断が示されるたび、電力会社が翻弄(ほんろう)される状況には、首をかしげざるを得ない。
 茨城県東海村にある日本原子力発電の東海第二原発について、水戸地裁が18日、運転差し止めを命じる判決を言い渡した。「原発そのものの安全性に問題はないが、自治体が策定する地域住民の避難計画が不十分だ」と指摘した。
 東海第二原発は東日本大震災以降、運転を停止している。原子力規制委員会は、震災後の新規制基準に適合すると判断している。防潮堤設置などの安全対策工事は、2022年末に完了予定だ。
 東海第二原発は首都圏にある唯一の原発で、半径30キロ圏内には、全国の原発で最も多い約94万人が住んでいる。人口密集地域が含まれており、判決は特段の配慮が必要だと判断したのだろう。
 避難計画の策定は遅れている。原子力災害対策特別措置法は、周辺の14自治体に計画づくりを求めているが、水戸市や日立市など9自治体では策定されていない。
 自然災害は、いつでも起こり得る。自治体は実効性ある避難計画の策定を急がねばならない。
 ただ、電力会社にとっては、避難計画に関する自治体の対応で再稼働の可否が変わるのは不合理だろう。判決の効力は確定まで生じないが、再稼働への道はさらに厳しくなったと言わざるを得ない。原電側は控訴する見通しだ。
 一方、愛媛県にある四国電力伊方原発3号機については、広島高裁が同じ18日、運転を認める決定をした。広島高裁の別の裁判長が運転差し止めを命じた仮処分決定が一転して取り消された。
 決定は、伊方原発近くに活断層はないとした四電の調査に不合理な点はないと評価した。130キロ離れた阿蘇山の噴火の影響に関しては、四電の想定を過小とは言えないと指摘した。科学的知見を踏まえた妥当な見解である。
 決定は、「独自の科学的知見を持たない裁判所が、住民らに具体的危険があると推認するのは相当ではない」とも言及した。
 東京電力福島第一原発事故の後、多数の訴訟や仮処分の裁判で原発の安全性が争われている。運転を認めない司法判断は、今回の東海第二原発の判決までに7件あったが、大半がその後の裁判で、運転容認に覆っている。
 再稼働の適否を判断するにあたっては、拘束力のある最高裁の判例が必要ではないか。

 (主張)伊方と東海第2/司法の揺れは混乱を招く
                                            産経新聞 2021年3月19日

 広島高裁は18日、四国電力の伊方原子力発電所3号機(愛媛県)に出していた運転停止の決定を取り消した。
 同高裁は昨年1月、住民らが求めた仮処分で伊方3号の運転停止を命じており、四国電力が反論していた異議審の裁判だ。高裁の良識を示す判断として歓迎したい。
 前回の決定で停止中の3号機はテロ対策施設の工事が完了する10月末から再稼働に向かう。四国地方の電力供給は、ようやく割高な火力発電依存から脱却できる。
 伊方3号は原子力規制委員会によって新規制基準への適合性が認められ、平成28年夏に国内4番目の再稼働を果たした原発だ。
 この3号機に対し、住民側は運転停止の法的即効力がある仮処分という訴えを繰り返してきた。
 それに対する広島高裁の仮処分の判断は、今回を含めて約3年間に運転が2回、停止が2回となった。高松高裁では平成30年11月の仮処分で運転を認めている。
 前回の決定では、海底の活断層や阿蘇の巨大噴火などが運転停止の理由となったが、今回の異議審では、いずれも却下した。
 裁判長は、専門家の間でも見解が分かれる将来予測に対し「独自の科学的知見を有するものでない裁判所」が「具体的危険があると事実上推認するなどということは相当でない」とした。
 原発の安全性をめぐる高度な理学や工学と司法の距離の置き方についての分別ある見識だ。
 一方、水戸地裁では同日、日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)の運転差し止めを命じる判決が下された。
 東海第2は、平成30年に原子力規制委員会によって新規制基準への適合と20年の運転延長が認められた沸騰水型原発だ。
 だが、首都圏に位置して半径30キロ圏内に94万人が暮らすことから重大事故時の避難の難しさを指摘する声があった。
 水戸地裁の判決は避難計画策定の遅れ、この一点を論拠として第2原発の運転をしてはならないとするものだ。地震の揺れや津波の規模、火山の影響などに対する第2原発の安全性は全面的に認めた上での差し止め判決だ。
 だが、避難計画の作成は本来、自治体が行うものである。その遅滞や内容の不備を理由に原発の運転を認めない判決は、お門違いであり、理不尽だ。

 社説東海第2運転認めず/避難は可能か、総点検を
                                           茨城新聞 2021年3月20日

 日本原子力発電東海第2原発(東海村)の運転差し止めを求めて茨城県など9都県の住民が起こした訴訟で、水戸地裁は「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い」として運転を認めない判決を下した。
 地震や津波の想定や建物の耐震性が適切かなども問われた訴訟だが、判決は安全性を巡る争点で事業者の原電の主張を認める一方、事故時の避難計画の不備に理由を絞って運転を禁ずる判断を示した。重大事故に備え、自治体が策定する避難計画の実効性は多くの原発で論議の的になっている。判決を、避難計画の実行は本当に可能なのか、全国で総点検する契機としたい。
 原発の安全対策で国際基準となっている考え方は計5層の「深層防護」だ。第1〜3層が故障の防止や事故の被害低減、第4層が炉心溶融(メルトダウン)などの重大事故対策だ。現在ここまでは電力会社が対策を立て原子力規制委員会が審査する。第4層が破られ、原発から大量に放射性物質が漏れた場合、第5層の避難計画が発動される。東京電力福島第1原発事故まで、第4層の重大事故対策は電力会社任せだった。その反省から欧米のように規制対象にすることになり、新規制基準が定められた。だが、第5層の避難計画は規制委の審査対象でなく、自治体任せだ。責任の所在が曖昧で制度的欠陥だとの批判もあり、避難計画の実効性を確保する仕組みを考える必要がある。
  東海村は日本で初めて研究炉の臨界や商業炉の運転を達成した原子力開発の拠点だ。核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)臨界事故という深刻な被ばく事故も経験した。
 3年前、東海第2原発の再稼働について事前了解の対象を県と東海村だけでなく、水戸市など周辺5市にも広げた全国初の安全協定を締結。県と立地自治体の同意だけで再稼働できる従来の在り方でいいのか問題提起した形になった。東海第2原発は避難対象となる30キロ圏の人口が約94万人と全国最多で、避難計画策定が難航している。30キロ圏内の14自治体のうち9自治体は未策定だ。今回の判決の効力は確定するまで生じないが、再稼働のハードルは一層高くなった。
 この判決と同じ日、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた昨年1月の広島高裁の仮処分決定を不服とした四国電の申し立てによる異議審で、広島高裁が異議を認め運転を認める決定をした。伊方3号機については、差し止めの仮処分決定がこれまで2回出され、いずれも翻されるという異例の展開となった。福島第1原発事故後、司法判断が二転三転することが増えた。事故前の裁判所は、科学的論争への深入りを避け、形式的な合法性の判断にとどめる傾向が強く、住民側の敗訴が続いていたが、近年は一変した。福島の事故の深刻さを受け止めた結果だろう。訴訟リスクの面でも、安定電源とされてきた原発の安定性が揺らいでいる。
 政府の現行のエネルギー基本計画は、電源に占める原発の割合を2030年度に20〜22%にする目標を掲げるが、19年度は6%(速報値)にとどまった。今夏といわれる計画改定に向け、原発をどう位置づけるのか国民的な議論が必要だ。

 社説原発訴訟 疑わしきは動かさず
                                             東京新聞 2021年3月20日

 水戸地裁は18日、避難計画の実効性に重大な疑問があるとして茨城県の日本原子力発電東海第2原発の運転を差し止めた。「防災体制は極めて不十分」。疑わしきは動かさず、という判断だ。 
 「実現可能な避難計画およびこれを実行し得る体制が整えられているというには、ほど遠い」と、水戸地裁。避難計画の不備を理由に司法が原発の運転差し止めを命じたのはこれが初めてだ。
 原発30キロ圏内の自治体には、避難計画の策定が国から義務付けられている。だが、首都圏唯一、30キロ圏内に100万人近い人口を抱える東海第2原発だけでなく、各原発の30キロ圏内にある全国の自治体が、避難計画の策定に苦慮していると言っていい。「人口密集地帯の避難が容易ではないのは明らかだ」と断じた今回の判決は、これからの原発訴訟に、少なからず影響を及ぼすだろう。
 「脱原発弁護団全国連絡会」によると、原発の建設や運転、あるいは設置許可の是非をめぐる裁判は、3.11以降、約50件が提起されている。このうち、原発に反対する住民側の訴えを認めた司法判断は、今回の東海第2原発を含め、計7件。昨年から今年にかけては、これで3件が相次いだ。
 3.11以前は、北陸電力志賀原発2号機の運転差し止め(2006年、金沢地裁)など、わずか2件だけだった。
 1992年の四国電力伊方原発訴訟で示された最高裁判断を踏襲し、「原発の安全性判断は、専門家に委ねるもの」という考え方が支配的だった司法の流れに、変化が生まれているようにも見える。
 一方、同日広島高裁は「地震や火山の噴火による具体的な危険がある」として、伊方原発3号機の運転を差し止めた昨年1月の仮処分を自ら取り消した。
 「原発の安全性に影響を及ぼすような大規模自然災害が発生する可能性は、高いとはいえない」というのだが、この判断には疑問が募る。
 「リスクは大げさに考える」。危機管理の要諦だ。いわんや原発の場合、いったん事故が起これば破局につながりかねない。それが福島第1原発事故の重い教訓ではなかったか。
 避難計画にしろ、地震の揺れや火山噴火の影響にしろ、破局につながるリスクがそこにある限り、原発は動かすべきではない。
 住民の安全最優先。「疑わしきは動かさず」とする大原則を司法は確立すべきである。

 社説東海第2判決 実効性ある避難計画を
                              朝日新聞 2021年3月20日

 避難計画に疑問が残る原発の運転は認められない。茨城県にある東海第2原発の運転差し止めを命じる判決を、水戸地裁がおととい言い渡した。かねて指摘されてきた、万一の事態への備えの不十分さを戒める判断である。政府や関係者は重く受け止めるべきだ。
 東日本大震災で被災し、停止している東海第二について、日本原子力発電は安全対策工事を終える予定の来年12月以降の再稼働をめざしていた。判決を不服として控訴したが、再稼働を急ぐことは許されない。
 判決は、原発から30キロ圏内の14自治体の避難計画を検討。9自治体では計画ができておらず、策定済みの5自治体でも、住宅が損壊した際の屋内退避について具体的に触れていない▽道路が寸断された場合の住民への情報提供手段が今後の課題となっている▽自然災害を想定した複数の避難経路が設定されていない、などの問題を指摘。「計画や実行の体制が整えられているというにはほど遠い」と結論づけた。
 東海第2は首都圏にある唯一の商業炉で、30キロ圏内には全国の原発で最も多い94万人が住む。判決も、人口密集地帯ゆえの避難の難しさに言及した。この地での運転継続には無理があると言わざるを得ない。
 ただ、避難計画の不備は東海第2だけの問題ではないことにも留意すべきだ。福井県の若狭湾沿岸部のように原発が集中する地域や、近くの離島や半島の奥など、避難経路や移動手段に不安を抱えるところは多い。
 政府は東京電力福島第一原発の事故後、30キロ圏内の自治体に避難計画づくりを義務づけたが、主体は自治体であり、政府の姿勢は「支援」にとどまる。原子力規制委員会も、避難計画の具体的内容には関与しない。
 今回の判決は、現行の仕組みによる避難計画づくりの限界を浮き彫りにした。政府も責任を負って自治体とともに計画をつくり、その実効性を第三者が検証する。そんな体制を検討する必要がある。
 住民が抱く当然の不安に向き合った水戸地裁判決に対し、愛媛県の四国電力伊方原発3号機の再稼働に道を開いた同日の広島高裁決定には疑問が多い。なかでも、運転を差し止めなければならない具体的な危険があるかどうか、住民側が立証すべきだと判断した点は納得し難い。
 膨大な情報をもつ国や電力会社が危険性がないことをまず立証するというのが、過去の最高裁判例も踏まえて多くの裁判所がとってきた姿勢だ。住民側が「事前差し止めの道を閉ざすに等しい」と強く反発するのは当然で、司法の姿勢が問われる。

 社説東海第2原発差し止め 住民避難の「虚構」を指弾
                              毎日新聞 2021年3月20日

 茨城県の日本原子力発電東海第2原発に対し、水戸地裁が運転差し止めを命じる判決を出した。
 重大事故が起きた場合に備えて実効性のある避難計画が整えられておらず、周辺住民の安全が確保されていないと認定した。
 避難計画の不備だけを理由に、原発の運転を禁止する司法判断は初めてだ。
 原発の安全性に絶対はない。重大事故が起きれば被害は広範囲に及び、周辺住民の避難も困難を極める。10年前の福島第1原発事故は、その現実を示した。
 国際原子力機関は原発に5層の安全対策を課しており、最後の備えとして避難計画がある。現在、原発から30キロ圏内に位置する自治体が策定を求められている。
 東海第2原発は首都圏唯一の原発で、現在は運転停止中だ。30キロ圏内には、全国で最も多い約94万人が住んでいる。
 圏内14市町村のうち、人口約27万の水戸市など9自治体は、避難計画の策定に至っていない。
 判決は、茨城県と残る5自治体の避難計画についても、道路が寸断された場合を想定した複数の避難経路が設定されていないなど、不十分だと指摘した。
 避難対象者が多いため、受け入れ先の自治体との調整や、移動手段の確保に手間がかかる。避難計画をつくること自体が、そもそも難しい。

 判決は、他の原発にも影響を及ぼす可能性がある。
 既に再稼働したり、手続きが進んだりしている原発でも、避難経路や輸送体制が限られ、避難計画の実効性が疑問視されている。
 原発事業者の責任も重くなる。避難計画を策定する主体は自治体だが、これまでより踏み込んで関与していく必要が出てくる。
 避難計画は原子力規制委員会の審査対象になっていない。原発そのものの安全対策にお墨付きが与えられたとしても、いざという時の避難計画が十分でなければ、周辺住民の不安は消えない。
 福島第1原発事故以降で、原発の運転を認めない司法判断は8件目だ。裁判所の目は厳しくなりつつある。
 国は、真摯(しんし)に指摘を受け止め、「脱原発」に向けて政策を見直すべきだ。