(社説)柏崎刈羽原発/再稼働の「資格」なし
                                              東京新聞 2021年3月18日

 新潟県の東京電力柏崎刈羽原発で安全対策上の重大な不正や不備が相次ぎ、原子力規制委員会は、事実上、再稼働を凍結することにした。そもそも東電に、原発を運転する資格があるのだろうか。
 「組織的な管理機能が低下し、防護措置の有効性を長期にわたり適切に把握しておらず…」。東電に対する規制委の評価は、ここに極まった感がある。“赤点”だ。
 原子力施設ではテロ対策などのため、監視カメラやセンサーなどを随所に設置して、外部からの不正な侵入を防いでいる。
 東電によると、昨年三月以降、そのうち十六カ所が相次いで機能不全に陥り、危険な状態が三十日以上続いた場所もあったという。
 東電は規制委に不備を報告し、「代替措置を講じている」と説明したが、規制委の抜き打ち検査などにより、不十分であることが判明した。


 「核物質防護上、重大な事態になり得る状況にあった」と規制委は指摘する。由々しきことだ。
 柏崎刈羽原発ではことし一月、所員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正入室した問題が発覚した。
 同じ月、7号機の再稼働を急ぐ東電は、安全対策が「完了した」と発表したが、その後、止水工事や火災防護工事など、三月までに四件もの「未完了」が相次いで見つかった。
 東電の小早川智明社長は、福島第一原発事故から十年にあたり「事故に至った根本原因や背景要因からの学びを、私たちの日常業務に生かす」と訓示した。その言葉がむなしく響く。東電に原発を操る資格がないのは明らかだ。
 一方、これほどの不正や不備を抱えた原発が、3・11の教訓を踏まえたはずの新規制基準に「適合」すると判断したのは、当の規制委だ。
 安全性を保証するものではないとは言うものの、「世界一厳しい」とされる規制基準への「適合」判断は、事実上、原発再稼働の“お墨付き”とされている。
 昨年暮れ「規制委の判断に看過しがたい過誤、欠落がある」として、大阪地裁は規制委による関西電力大飯原発3、4号機の設置許可を取り消した。地震の揺れの強さ、活断層の有無、火山の影響…。電力側の提出データに多くを依存する原発規制のあり方自体も見直すべきではないか。

 
(社説)ずさんな東電テロ対策 原発を扱う資格あるのか
                                               毎日新聞 2021年3月18日

  目を覆うばかりの、安全意識の欠如である。
 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)で、敷地内への侵入を検知する設備に複数の故障が見つかった。
 原発には大量の核燃料がある。このため法令に基づき、核テロを防ぐ「核物質防護規定」が定められている。にもかかわらず柏崎刈羽では、第三者の侵入を防げない状態が少なくとも3年前から放置されていた。
 きっかけは今年1月、設備の一部を作業員が誤って壊したことだった。原子力規制庁は他設備も調べるよう求め、不備が判明した。

 それがなければ、穴だらけのセキュリティー対策が見過ごされていた可能性もある。
 原子力規制委員会は今回の事態を「最悪」レベルと判断した。徹底的な調査で問題点を洗い出し、厳正に処分すべきだ。
 東電は、柏崎刈羽7号機の再稼働を目指している。安全審査に合格し、早ければ今夏に営業運転する構想も描いていた。

 だが、現場では安全を軽視した、驚くような不祥事が相次いで起きている。
 昨年秋には、所員が同僚のIDカードを不正に使い、原発の心臓部にあたる中央制御室に入っていた。「完了」と報告した安全対策工事のうち、実際には4件が終わっていないことも判明した。
 今回の法令違反を受け、梶山弘志経済産業相は「このままでは再稼働できない」と語った。
 不祥事の背景について東電の小早川智明社長は、意思疎通の不足を挙げている。核物質を扱う事業者としての責任感が、経営陣から作業員まで共有されているとは思えない。
 それでも、福島第1原発の廃炉費用を稼ぎ出すために柏崎刈羽を動かすしかないというのだろうか。そんなおごった考えから、最優先すべき安全文化がないがしろにされたとすれば言語道断だ。
 福島の事故の反省が生かされないどころか、現場の危機意識のなさが問題を放置し、不信を増幅させるという悪循環が起きているのだろう。
 再稼働の審査もやり直すべきではないか。こうしたずさんな実態を改めない限り、東電に原発を動かす資格はない。