(社説)女性差別発言 森会長の辞任を求める
                                              朝日新聞 2021年2月5日

 そうでなくても懐疑論が国内外に広がるなか、五輪の開催に決定的なマイナスイメージを植えつける暴言・妄言だ。すみやかな辞任を求める。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務める森喜朗元首相の女性蔑視発言である。
 日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会に名誉委員として出席して、次のような耳を疑う見解を口にした。
 女性がたくさん入っている(スポーツ団体の)理事会の会議は時間がかかる。女性は競争意識が強く、1人が手を挙げて発言すると自分も言わなければと思うのだろう。規制しないとなかなか終わらない――。
 森氏はきのう会見し、反差別や男女平等原則の完全実施をめざす五輪精神に反するものだったと謝罪。発言を撤回したが、会長職の辞任は否定した。

 それで許されるはずがない。
 こんなゆがんだ考えを持つトップの下で開催される五輪とはいったい何なのか。多くの市民が歓迎し、世界のアスリートが喜んで参加できる祭典になるのか。巨費をかけて世界に恥をふりまくだけではないのか。疑念が次々とわいてくる。
 JOCをはじめとするスポーツ団体は、20年代のできるだけ早い時期に女性理事を40%とする目標を立てている。昨年末に決まった政府の男女共同参画基本計画にも明記された。
 背景には、女性の社会進出を進めるという世の中全体の要請に加え、女子選手への相次ぐ暴力的指導やパワハラ、セクハラなど、スポーツ界が抱える深刻な問題がある。コンプライアンスの向上が求められるなか、女性指導者の育成と女性幹部の登用は喫緊の課題だ。
 にもかかわらず組織委の会長がその取り組みを揶揄(やゆ)し、女性理事ひいては女性全般を侮辱したのだ。責任は極めて重い。
 問われるのは森氏だけではない。発言があった際、出席していたJOCの評議員らからは笑いがおき、たしなめる動きは一切なかった。山下泰裕会長以下、同じ考えの持ち主と受け取られても言い訳できない。
 この問題はさっそく国会の質疑でも取りあげられた。菅首相は「あってはならない発言」と述べたものの、森氏の進退については言及を避けた。
 7年前に組織委が設立された際、会長の引き受け手がなく、政府主導で森氏に就任を要請した経緯がある。何としても五輪を開催したい首相としては、森氏の謝罪―続投で事態の沈静化を図りたいのだろうが、それでは世論との乖離(かいり)は深まるばかりだ。開催都市の女性首長である小池百合子都知事の見識も問われる局面である。

 
(社説)森会長の女性蔑視発言 五輪責任者として失格だ
                                                毎日新聞2021年2月5日 

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と述べた。
 日本オリンピック委員会(JOC)評議員会での言葉だ。女性理事を40%以上に増やす話し合いが行われた場だった。女性を差別した発言であり、到底許されない。
 森氏は「女性は誰か一人が手を挙げて言うと、自分も言わないといけないと思うのだろう」「『女性を増やす場合は発言時間の規制を促しておかないと終わらないので困る』と(誰かが)言っておられた」とも語った。
 人のふるまいを性別によって分類し、やゆした発言だ。性差別に当たり、看過できない。会議では森氏の発言をいさめる参加者はおらず、笑いさえ漏れた。このことも深刻だ。
 森氏は「組織委にも女性がおられるが、みんなわきまえておられる」とも話した。会議での自由な議論の必要性を否定し、異論を認めない姿勢を示すものだ。
 五輪憲章は性別や人種、民族、国籍、宗教などあらゆる差別を許さない理念を掲げている。東京大会も多様性と調和が基本コンセプトだ。
 批判を受け、森氏は記者会見を開いて発言を撤回し、謝罪した。だが、何が不適切だったかと問われ、「男女の区別をする発言」と答えた。辞任を否定し、記者の質問に「面白おかしくしたいから聞いているんだろう」と声を荒らげる場面もあった。問題の本質を理解しているとは思えない。
 海外メディアも相次いで報道し、米紙ニューヨーク・タイムズは東京大会が新型コロナウイルスの影響による延期に加え、新たな問題に直面したと伝えた。
 開催可否を巡り森氏は別の会合で「コロナがどうであろうと必ずやり抜く」と述べ、批判を浴びた。国民の不安への配慮を欠いたためだ。反発した人気タレントが聖火リレーの走者を辞退した。
 組織委の会長は国民の納得が得られる対策を講じ、開催への道筋を探るべき立場にある。
 五輪精神を傷つける自らの発言が開催への障害となっていることを自覚すべきだ。一連の言動は、東京大会を率いる責任者としては失格だ。

 
(社説)女性蔑視発言の森喜朗氏 五輪の顔として適任か
    
                         東京新聞 2021年2月5日

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、女性蔑視と受け取れる発言をした。謝罪会見で発言を撤回したが、大会の「顔」として適任なのか。疑問は解消されないままだ。
 問題となったのは、競技団体での女性理事任用に関し「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。誰かが手を挙げるとみんな発言したがる」とする発言だ。
 森氏は会見で発言を撤回したものの、女性任用に後ろ向きの姿勢を重ねて示すなど、どこまで反省しているのか疑わしい。
 森氏の発言は多くの女性を侮辱し、男女平等をうたう五輪憲章や世界の潮流に反する。憲章は冒頭に七つの根本原則を掲げ、人種や言語、宗教などと並び性別による差別を禁じている。
 欧州各国や韓国では、一定割合の女性を任用する「クオータ制」が社会のさまざまな組織に導入され、一部では男女同数にする「パリテ」も進んでいる。
 これに対し、スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」のまとめでは、男女の不平等を示す「ジェンダー・ギャップ指数」は153カ国中、日本が121位。特に政治と経済の分野で著しく低い。原因は国会議員や閣僚、会社の管理職の女性の少なさだ。森氏発言は図らずも、日本の遅れを世界に示したことになる。
 さらに発言は、女性蔑視にとどまらず、開かれた場での議論を尊ぶ民主的なルールにも反する。
 会議で参加者が意見を述べるのは当然だ。森氏発言の根底にあるのは、事前の根回し通りに事を進めたいとの思考だろう。
 密室での打ち合わせは権力者の独善に陥りやすい。公開の場で多様な意見を出し合い、皆が納得するプロセスが大切、との現代社会の合意を軽んじている。
 コロナ禍が深刻化する中、大会開催方針が硬直化しているように映るのも、独善的な運営に陥っているからではないか。
 新型コロナウイルスの感染拡大で開催準備は困難になり、国民の大会への支持も落ち込んでいる。立場上、大会の「顔」である森氏の発言でさらに開催への支持が落ち込み、国内外の批判が高まることも予想される。
 森氏のスポーツを愛する思いは分かるが、大会は単なるスポーツの祭典でなく平和や平等、友情や連帯など人類共通の価値観に貫かれた特別な存在だ。森氏は辞任を否定したが、会長は大会の意義を深く理解する人物であるべきだ。

 
(社説)森喜朗氏の発言/五輪トップに不適格だ
        
                    北海道新聞 2021年2月6日

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言し、翌日記者会見で謝罪、撤回に至った。
 だが、記者に「面白おかしくしたいから聞いてるんだろ」などと反省の色がうかがえない言動を繰り返し、内外の批判が高まる異常な状況となっている。
 事態の深刻さを理解していないのではないか。五輪の機運を大きく損ないかねない。
 発言は女性蔑視ととらえられても仕方なく、到底許されない。
 男女共同参画の取り組みや、男女格差解消を目指す世界の潮流に逆行するばかりか、いかなる差別をも否定する五輪憲章に反する言動だと受け取られている。
 東京大会の実務を担うトップにふさわしくなく、辞任すべきだとの声がやまない。当然だろう。
 森氏は、会長としての適格性が厳しく問われる局面に立たされていると自覚しなければならない。
 発言は日本オリンピック委員会(JOC)の評議員の会合で出た。JOCは女性理事を40%以上とする目標を掲げており、森氏はあいさつで言及した。
 その際、組織委の女性たちは「みんなわきまえておられて」とも述べた。議論を封じる結果を招きかねず、極めて不適切だ。そもそも多様な意見が活発に出るのは会議として望ましい。居並ぶ男性から異論も出ず形式的に終わるのをよしとするのなら、早々に認識を改める必要がある。さらに問題なのが、この場面でJOCの評議員から森氏をいさめたり、疑問を呈したりするなどの発言がなかったことだ。米紙は「誰も異論を唱えなかった」とのネットの声を取り上げた。JOCは森氏を容認していると世界に認識されかねない。 JOCの女性理事は現在約20%だ。増加に向けた工程表を示すなど、信頼回復に向けた行動を早急に起こすべきではないか。
 東京大会を「どんなことがあってもやる」と公言する森氏に反発したタレントが、聖火リレーの走者を断る事態も起きた。東京都には抗議電話が相次ぎ、大会のボランティア活動を辞退するとの連絡も寄せられている。
 首相時代から失言の多かった森氏だが、今回の発言の波紋はもはや世界に広がっている。
 コロナ禍に加え、森氏の不適切な発言により日本のイメージダウンは避けられない。「五輪の顔」の役割など期待できまい。

 
(社説)森氏の女性発言/五輪会長として不見識すぎる
                                                読売新聞 2021年2月6日

 世界が注目する祭典を主導する立場として、あるまじき発言である。
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が、日本オリンピック委員会(JOC)の会合で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。女性は競争意識が強い」と述べた。
 女性差別と受け取られても仕方がない不見識極まりない発言だ。男女平等をうたった五輪憲章にも反している。森氏が謝罪した上で、撤回したのは当然である。
 JOCや各種スポーツ団体は、女性の理事らの割合を4割に増やすことを目指している。スポーツ分野での女性の活躍を後押しし、セクハラ防止などコンプライアンスの向上を図る意義は大きい。
 森氏の発言は、JOCが役員改選に向けて、まさに女性理事を増やそうと、議題の一つにした公の会合で出たものだった。
 日本で女性の参画が遅れているのは事実だろう。スイスの民間研究機関「世界経済フォーラム」によると、政治や経済などに関わる男女平等の度合いを示す指数で、日本は153か国中、121位にとどまっている。
 この不名誉な現状を改めようと、官民で現在、意思決定への女性参画を進める努力をしている最中だ。森氏の発言が、こうした機運への冷や水となったのは間違いない。組織委や東京都には、苦情や抗議が殺到しているという。
 差別発言は、海外メディアにも報じられた。森氏の発言が、あたかも日本を代表する意見だと誤解されないよう、大会関係者は、丁寧に説明を尽くす必要がある。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、森氏の謝罪を受け、「問題は終結した」との立場だ。事態を早期に収拾し、五輪本番に向けた準備を急ぎたいのだろう。
 森氏は辞任を否定しているが、大会運営を担う組織のトップとして、自覚を欠いている。開幕を5か月半後に控えたこの時期に、失言で混乱を招いた責任は重い。発言の影響を踏まえて、身の処し方を再考すべきではないか。
 新型コロナウイルスの感染が拡大し、五輪開催に懐疑的な人が増えている。国内での感染を抑え込み、海外の選手に安心して入国してもらえる環境を整えられるかどうかの正念場を迎えている。
 政府と東京都、組織委などが緊密に協力して、安全な大会の実現に向けた精緻(せいち)な計画をつくらなければならない。感染症対策に最優先で取り組み、不安の払(ふっ)拭(しょく)に努めることが大切である。

 (主張)森氏の問題発言/組織委もJOCも猛省を  
                                              産経新聞 2021年2月6日

 どこまで東京五輪・パラリンピックを逆風にさらすつもりか。
 女性蔑視と受け取れる発言をしたとして、謝罪した大会組織委員会の森喜朗会長である。
 3日に行われた日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、森氏は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し、女性理事が意見を述べる際の時間制限などにも言及した。
 組織委の女性理事について「わきまえておられて、的を射たご発信をされて非常にわれわれも役立っている」とした発言も看過できない。組織運営への女性の参画や男女平等は、国際オリンピック委員会(IOC)が掲げる理念でもある。いかにも女性を見下ろした森氏の物言いが、世論の強い反発を買ったのは当然だ。
 森氏は誤解を生んだとして、4日に発言を撤回したが、問題の根本を分かっていない。世論が批判するのは、女性起用への森氏の認識に対してである。発言を「誤解」したからではない。
 男性中心で行われてきた競技団体の組織運営は、閉鎖的な体質を生み、助成金の不適切受給やパワーハラスメントなど、規範意識の薄さは目に余るものがあった。女性参画は組織運営に多様な意見を反映させ、風通しをよくするための時代の要請といえる。
 東京大会では、女性選手の比率が史上最高の48・8%となる。男女がほぼ同数となる歴史の転機の重みを、森氏が理解しているとは言い難い。政官財界との太い人脈を生かし、開催準備を推し進めてきた功績は否定しない。だが、その発言が事あるごとに物議を醸しても周囲が止められず、野放しになっていたことも事実だろう。
 角が立つ物言いを、世間が受け入れたわけではない。森氏がトップに立つことが開催機運の障害となっている現実を、組織委は自覚してほしい。
 JOCも同罪である。臨時評議員会では、森氏の発言をとがめる声は出なかった。山下泰裕会長が5日になってやっと発言を疑問視する見解を示したのは、当事者意識の深刻な欠如を物語る。
 ただでさえ、新型コロナウイルス禍が広がる中での五輪開催準備には批判が強い。組織委やJOCには猛省を求めたい。これ以上向かい風が強まれば、開催への機運は本当にしぼんでしまう。

 
(社説)森氏の蔑視発言/根深い性差別の解消図れ
                                             西日本新聞 2021年2月6日

 まさに耳を疑う言葉である。首相まで経験した人物が立場をわきまえず、自覚なく性差別に根ざした見解を公の場で語る。そんな社会から私たちは脱却しなければならない。
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の発言が国内外で批判されている。
 日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと述べた。JOCが女性理事の割合を40%に引き上げる目標を掲げ、役員選考の見直しを進めていることを受けたものだった。
 性別や人種など属性に基づき物事を決め付けるのは差別や偏見そのものだ。既に日本社会でも共通認識となっている。会議の発言時間に長短はあっても、それは個人差だろう。
 会議の在り方としても、根回しがなされて予定調和で終わるより、多角的な視点から活発な意見が出て結論を導く方が組織や社会にとって有益なはずだ。
 だからこそ、国内外で女性の登用を進め、社会的地位を向上させる取り組みが長年続いている。日本でもようやく、社会的少数派を排除せず多様性を尊重しようという価値観が定着しつつあるのではないか。
 JOCがよって立つ五輪憲章にも、あらゆる形態の差別の禁止が明記されている。女性は意見を控えよと言わんばかりの森氏の発言は、その精神や世界の潮流に逆行するものだ。
 森氏は発言を撤回して謝罪したが、五輪運営の最高責任者として資質に欠けると言わざるを得ない。辞任にも値しよう。
 森氏はこれまでも女性を侮辱するようなものをはじめ失言や問題発言を繰り返してきた。それでも、今回の問題を個人の資質で済ませてはならない。
 現に、JOCの会議では森氏をいさめる発言はなく、笑いも漏れたという。発言に違和を感じながらも事を荒立ててはならないと受け流す。今もそれをよしとする風潮が残る。そうした振る舞いこそが、差別や偏見を温存すると考えるべきだ。
 日本は男女平等の観点では著しい後進国だ。世界経済フォーラムの指標で153カ国中121位にとどまる。現職国会議員に女性は14%にすぎない。政府が2003年に掲げた「20年までに女性の管理職登用を30%程度」との目標も達成できず、昨年末に期限は先送りされた。
 こうした社会変革の遅れが森氏のような発言を生む土壌になっている。菅義偉首相は森氏の発言を「あってはならない」と述べた。それでは不十分だ。政府は今回の問題を教訓に、性別により理不尽な扱いをされない社会づくりを加速すべきだ。