社説核禁条約と日本 独新政権に続く決断を
                               2021年12月6日 東京新聞

 米国の「核の傘」の下にあるドイツの新政権が、核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加する方針を決めた。核軍縮で主導的な役割を果たすための画期的な決断として評価したい。唯一の戦争被爆国である日本こそ、参加すべきではないか。ドイツに続いてほしい。
 今年1月に発効した核禁条約は核兵器の開発、試験、所持、使用を広く禁止している。来年3月、初の締約国会議がオーストリアで開かれる予定だが、核保有国や日本は参加していない。
 このため、非現実的で軍縮につながらないとの批判もあるが、世界には、米ロを中心に一万発以上の核兵器が存在する。偶発的な事故が、核戦争に発展する可能性も否定できない。

 中でも欧州はロシアの核の脅威にさらされ、対抗して英仏も核を保有する「核の密集地帯」だ。

 ドイツ自身は核を持たないが、北大西洋条約機構(NATO)の一員として冷戦時から国内に米国の戦術核が配備され、日本同様、米国の「核の傘」の下にある。
 欧州では連立政権が発足するドイツに加え、NATO加盟のノルウェー、非加盟のスイスとスウェーデン、フィンランドも相次いで核禁条約締約国会議へのオブザーバー参加を表明した。
 核による「恐怖の均衡」を打ち破るには、以前から続く軍縮の枠組みでは不十分、との認識が高まっている証拠だろう。
 被爆地・広島選出の岸田文雄首相は、核兵器廃絶を「ライフワーク」としているが、核禁条約については「重要な条約」と言うだけで参加への明言を避けている。
 核増強を進める中国や北朝鮮の存在があるとはいえ、これでは核保有国と非保有国の「橋渡し役」を果たしているとは言えまい。
 連立政権に参加する公明党は、会議へのオブザーバー参加を政府に求めている。市民団体の調査によると、自民党を含む衆院議員の過半数が条約批准かオブザーバー参加に賛同している、という。
 日本政府もその動きに加わり、「核なき世界」実現に努めるべきではないか。賢慮を求めたい。

 社説)独の核禁止会議参加/被爆国日本の不在は異様だ
                                2021年12月6日 河北新聞

 核軍縮の前進へインパクトの強い大胆な政策転換である。国際的な潮流となるよう追従する動きに期待したい。
 今月発足するドイツの新政権を担う社会民主党(SPD)と緑の党、自由民主党の3党が核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバーとして参加することで合意した。
 3党は政策合意書で、国際的な核軍縮の進展に「指導的な役割を果たしたい」と強調し、「核なきドイツ」を目指すと宣言した。唯一の被爆国ながら条約に背を向け続ける日本とは対照的だ。
 ドイツは米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だ。日本と同様に米国の「核の傘」の下にあり、国内の基地には米戦術核兵器が配備されている。
 第1回締約国会議は来年3月、ウィーンで開催予定だ。オブザーバー参加表明はNATO加盟国ではノルウェーに次いで2カ国目。欧州では、非加盟のスイスとスウェーデン、フィンランドも参加する方針を明らかにしている。
 オブザーバーとはいえ、核廃絶の立場を鮮明にすることになる。先進7カ国(G7)の一員で欧州の盟主であるドイツの参加は、核廃絶論議の膠着(こうちゃく)状態を打開する突破口になり得よう。
 広島、長崎と2度も原爆を投下され、惨禍を経験した日本こそ、核軍縮を先導する役目を担うはずだが、米国との同盟関係におもねり、条約の批准どころか、オブザーバー参加にも終始後ろ向きだ。
 ドイツ新政権の政策合意について、日本政府は「(条約への)参加よりも、唯一の戦争被爆国として、核兵器国を核軍縮に一層関与させるよう努力しなければならない」(松野博一官房長官)との立場を繰り返した。
 1月に発効した核禁止条約に50超の国と地域が批准しているが、米ロなど核保有国は加わっていない。保有国の不在が条約不参加の理由にはなるまい。核軍縮に関与させる「努力」もあいまいだ。
 オブザーバー参加すれば、被爆者が今なお背負う苦しみを訴えることもできようが、その機会を逃すことになる。
 広島出身でカナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(89)は10月、岸田文雄首相に手紙を送った。
 「日本が条約に加われば、世界全体に大きな波及効果をもたらし、核保有国さえ動かします。広島選出の総理大臣が決断せずに、いったい他に誰がするのでしょうか」
 首相はかねて「核なき世界」を目指すと言明している。実現の方策を自らの言葉で語るべきだ。
 核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」。非核三原則が国会で決議されてから50年になる。以来、歴代政権は国是として堅持してきた。
 政府は国是に基づき、核廃絶の議論に率先して加わり、国際社会に核兵器の非人道性をアピールすべきである。