社説核兵器禁止条約 ドイツ新政権参加の重み
                               2021年11月28日 信濃毎日新聞

  大胆な政策転換である。12月に発足するドイツの新政権を担う3党が、核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバーとして参加することで合意した。
 9月の総選挙で第1党となった社会民主党(SPD)が、緑の党、自由民主党と結んだ連立政権の政策合意書だ。国際的な軍縮の進展に向けて指導的な役割を担う意思を表明し、核なき世界、核なきドイツを目指すと宣言した。
 ドイツは、米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、日本と同じように米国の「核の傘」の下にある。ドイツ国内の基地には米国の戦術核兵器が配備されてもいる。
 中道左派のSPDと環境政党の緑の党は総選挙の公約にオブザーバー参加を掲げていた。同盟国と緊密に協議しつつ、核禁止条約の理念に沿いたいとする。
 欧州の盟主としてドイツの存在感、影響力は大きい。新政権の政策転換は重い意味を持つ。核の傘に頼る他の国にも参加の動きが広がり、核廃絶に向けて状況を動かしていく突破口になり得る。
 今年1月に発効した核禁止条約は、核兵器を絶対悪として否定し、開発や保有、使用だけでなく、威嚇や援助を含む一切の活動を禁じた。これまでに56カ国が批准の手続きを終え、来年3月に第1回の締約国会議が開かれる。
 核拡散防止条約(NPT)体制の下で棚上げされ続けてきた核廃絶を前に動かす国際社会の強い意思の表れだ。広島、長崎の原爆の惨禍を経験した日本は本来、その動きを率先すべき立場にある。
 にもかかわらず、政府は核禁止条約に背を向け続けてきた。ドイツの新政権が締約国会議に参加する意思を示したことで、その姿勢があらためて問われる。
 広島選出の岸田文雄首相は「大変重要な条約だ」と述べ、安倍、菅政権の姿勢とは一線を画している。外相時代には、最終的に断念したものの、国連での条約制定の交渉会議に加わる意向だったという。それでいながら、首相に就任した後もオブザーバー参加にさえ慎重な構えのままだ。
 広島選出の総理大臣が決断せずに、いったい他に誰がそれをするのでしょうか―。核廃絶を世界で訴えてきたカナダ在住の被爆者サーロー節子さんは岸田首相に送った手紙につづっている。
 ただちに条約を批准するのは難しいとしても、オブザーバー参加をためらう理由はない。核禁止条約を支持する国々との対話に一歩を踏み出すべきだ。