社説設計変更不承認 「辺野古」見直す契機に
                               2021年11月26日 東京新聞

 沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設を巡り、軟弱地盤を改良するために防衛省が申請した設計変更申請を、県が不承認とした。計画のずさんさがあらためて浮き彫りになった形だ。
 危険な米軍普天間飛行場(宜野湾市)の早期返還を実現するためには、時間のかかる現行計画を日本政府が断念し、新たな解決策を検討するための協議開始を米側に提起すべきではないか。
 不承認となったのは、辺野古沿岸部の埋め立て海域東側にある軟弱地盤の改良工事のため、沖縄防衛局が申請した設計変更。
 この海域には最深で水面下90メートルまでマヨネーズ並みと形容される軟弱地盤が広がるため、地盤固めのために約7万本もの砂ぐいなどを打ち込むという。
 しかし、工事は70メートルまでとしており、その妥当性を示す詳細な地盤データは示されていない。
 防衛省は、土木工学の専門家による技術検討会に妥当性を認めてもらったとの立場だが、外部の専門家からは震度1の地震で護岸が崩壊するとの指摘も出ている。
 この海域は希少生物の宝庫でもある。防衛省はサンゴ約7万5千群体の移植をするとしているが、その技術は確立されていない。
 県の不承認を受けて、国は法的な対抗措置をとる方針だ。辺野古を巡る県と国との過去の訴訟は国の勝訴が続いており、今回も勝訴できるとの判断だろう。
 仮に国が勝訴しても、米軍による新基地使用開始は裁判決着時点から12年以上先になる。現段階で9300億円と見積もられる総事業費もさらに膨らむだろう。
 2013年、当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)県知事が辺野古埋め立てを承認して以降、安倍、菅両政権は、県民投票などで繰り返し示された辺野古反対の民意を無視して工事を強行してきた。岸田政権も普天間返還には「辺野古移設が唯一の解決策」との姿勢を堅持している。
 当初は5〜7年とされた普天間返還も、日米合意から25年が経過する。もはや辺野古に固執していては、普天間飛行場の一日も早い危険除去は実現しない。
 この際、辺野古での新基地建設は白紙に戻し、代替施設の建設とは切り離し、普天間返還を検討してはどうか。米海兵隊の戦術転換や部隊再編の流れを見極め、現行計画とは異なる新たな解決策を見つけるべきだ。

 社説辺野古設計変更不承認 知事の決定を支持する
                               2021年11月26日 琉球新報

  米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画を巡り、玉城デニー知事は25日、沖縄防衛局が県に申請していた設計変更を不承認とした。
 大浦湾側の埋め立て予定海域には、地盤の強さを示すN値がゼロという「マヨネーズ状」の軟弱な地盤があり、飛行場の建設に不適な場所なのは明らかだ。まして県民の多くが望んでいない新基地であり、前例のない難工事に膨大な税金をつぎ込む必要はない。県の不承認は当然だ。
 設計変更が認められない以上、新基地は完成しない。国は直ちに工事を止めるべきだ。だが、防衛省は対抗措置をとる構えだという。翁長前県政が埋め立て承認を取り消し・撤回した時のように、内閣が一体となって県の判断を封じることが想定される。
 対話を求める玉城知事の訴えに耳を貸さず、沖縄に基地建設を押し付ける政府の姿勢は民主国家とは程遠い。まず工事を止め、県と話し合うことだ。
 軟弱地盤は最も深い地点で海面下90メートルに達する。しかし、国内にある地盤改良船が工事できるのは最深で70メートルであり、政府が計画する改良工事の深度も70メートルまでだ。完成したとしても沈下や液状化の恐れがある。未改良部分を残した不確実な設計変更を認めるなどあり得ない。
 環境・景観の改変は沖縄中に広がる。砂などで作った杭(くい)約7万1千本を海底に打ち込んで地盤を固めるため、新たに約3533千立方メートルもの海砂の採取が必要となる。変更申請には埋め立て土砂の増量も盛り込まれている。本部・国頭地区だけだった土砂の調達先は、沖縄戦で犠牲となった人々の骨が残る本島南部や宮古島、石垣島を含む7地区市町村に拡大する。
 軟弱地盤の改良工事に伴い、当初は3500億円以上としてきた総工費は9300億円と大幅に膨れ上がる。工期も12年に延び、工事が予定通りに進んだとしても普天間飛行場の返還は2030年代まで実現しない。普天間の危険除去という名目は既に説得力を失っている。費用も工期も政府の試算なので、さらに増大すると見ていい。
 沖縄防衛局は201812月に辺野古側の埋め立て海域に土砂投入を始めたが、その後になって当時の安倍晋三首相が大浦湾側の軟弱地盤を認めた。埋め立ての既成事実化を急ぎ、不都合なデータの公表を遅らせていたとしかいえない。設計変更を認めれば、いったん始まると止められないという悪しき公共事業の典型をのさばらせることになる。
 沖縄全体で米軍、自衛隊の基地機能が強化され、演習が激化している。「抑止力」の名の下に県民の民意を無視して、沖縄が戦争に巻き込まれる危険性が高まっている。住民の安全を守るためにも、新たな軍事基地を受け入れるわけにはいかない。玉城知事の不承認の決定を支持する。

 社説[辺野古 知事不承認]民意背負い「自治」貫く
                               2021年11月26日 沖縄タイムス

 名護市辺野古の新基地建設で、玉城デニー知事は沖縄防衛局が地盤改良工事のために申請していた設計変更を不承認とした。
 県が承認しなければ大浦湾側の埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤の改良工事には着手できない。

 工事強行の瑕(か)疵(し)は明らかだ。

 不承認の理由として、知事は軟弱地盤が海面下90メートルまで広がっていると指摘される地点で必要な調査がされておらず「地盤の安定性が十分に検討されていない」と説明した。
 絶滅危惧種のジュゴンへの影響について「適切に情報収集がされていない」と環境保全上の問題点を指摘した。
 新基地完成まで不確実性があるとし「普天間飛行場の危険性の早期除去につながらず合理性がない」とも強調した。
 計画のずさんさを一つ一つ指摘し、政府の「辺野古ありき」の姿勢を批判したのである。
 民意を背負った知事として自治を貫く覚悟がにじみ出る会見だった。
 新基地建設を巡っては翁長雄志前知事が3年前、防衛局の工事は環境保全に配慮していないことや軟弱地盤などの問題が判明したとして、埋め立て承認を撤回すると表明した。
 県のトップが2度にわたり新基地建設を認めない意志を示した事実は極めて重い。
 岸田文雄首相は真(しん)摯(し)に受け止め、今度こそ県との協議を始めるべきだ。まずは全ての工事を止め、協議のテーブルに着いてもらいたい。

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 玉城知事は会見で、沖縄戦戦没者の遺骨が混じる土砂が埋め立てに使われる可能性がある点にも言及した。
 本島南部など変更申請で新たに盛り込まれた候補地からの採取は認められないとの認識を強く訴えた。「人道上、許されるはずはない」との指摘はもっともだ。
 そもそも日米両首脳が「普天間飛行場の5~7年以内の全面返還」に合意したのは25年も前だ。一向に進まないのはどういうことなのか。
 この間、普天間周辺の住民は危険にさらされ続けた。つい最近も住宅密集地にオスプレイから金属製の水筒が落下したばかりだ。
 仮に新基地ができて普天間飛行場が返還されたとしても沖縄に残る米軍専用施設の割合はほとんど変わらない。
 新基地計画は沖縄の負担軽減に資することが少ない半面、米軍の意向に沿った軍事上の必要性を優先した「基地再編恒久化」計画になっている。

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 「2022年度またはその後」へと先送りされた普天間飛行場の返還時期は、軟弱地盤が見つかったことで「早くても30年代半ば」へと大幅にずれ込んだ。
 どことどこを比べて辺野古に決めたのか明確な説明もなく政府は「辺野古が唯一の選択肢」と繰り返す。今回の不承認は、そのように思考停止する政府への異議申し立てでもある。
 いつまで沖縄の犠牲を前提にした安全保障政策を続けるつもりなのか。国会でも徹底的に議論すべきだ。

 社説辺野古不承認 国の強権が招いた混迷
                               2021年11月27日 朝日新聞

 政府は、自らの不誠実な姿勢と強権的な振る舞いが、この事態を招いたと猛省すべきだ。
 米軍普天間飛行場の辺野古への移設計画をめぐり、政府が申請していた設計変更を玉城デニー沖縄県知事は不承認とした。埋め立て予定海域に広がる「マヨネーズ並み」とも言われる軟弱地盤を改良するための変更とされたが、約1年半に及ぶ審査を経て、知事は海底調査や環境保全策が不十分と結論づけた。
 そもそも政府の対応は理解し難いものだった。
 軟弱地盤の存在を早期に把握しながら公にせず、18年12月に埋め立て土砂を海に投入する工事を始めた後に、ようやく事実を認めた。県民のみならず国民全体を愚弄(ぐろう)する行いだ。
 今回の申請について、知事が「不確実な要素を抱えたまま見切り発車したことに起因する」と述べ、政府を改めて厳しく批判したのは当然である。
 隠蔽(いんぺい)だけではない。
 予定海域の東端の護岸建設場所には、海面下90メートルまで軟らかい粘土層が続くことを示すデータがある。ところが政府は、そこから数百メートル離れた海底の調査をもとに、70メートルの深さまで改良工事を行えば足りると主張している。知事はこれについても、「最も重要な地点で必要な調査がなされず、地盤の安定性や災害防止の検討が十分でない」と指摘した。
 調査のずさんさは国会でも取りあげられたが、政府から納得のゆく説明はついにされなかった。いずれにせよ難工事は必至で、米国のシンクタンクは「完成の可能性は低い」とし、議会からも懸念の声があがる。
 ほかにも、付近に生息するジュゴンやサンゴへの影響、完工後に想定される地盤沈下、予定を大幅に上回る1兆円近い経費など、新基地建設に関する疑念は枚挙にいとまがない。にもかかわらず「辺野古が唯一の解決策」を繰り返し、県民投票などで示された民意を無視して突き進む政府は、思考停止に陥っていると言わざるを得ない。
 辺野古にこだわり続けるかぎり、原点である「普天間の危険除去」は放置されたままだ。先日も所属するオスプレイが金属製の水筒を住宅地に落下させる事故を起こした。政府の試算でも辺野古の工事完了に12年はかかる。それまで住民は、墜落の危険やくらしを脅かす騒音を甘受せよというのか。
 今回の知事の判断に政府は対抗措置をとる構えだが、そんなことをすれば、安倍・菅政権時代に刻まれた県との溝はさらに深まる。首相が交代したいまこそ、「原点」に立ち返り、米国および県とともに、実効ある負担軽減策を探るべきだ。
 主張辺野古の設計変更 知事は不承認を撤回せよ
                               2021年11月27日 産経新聞

 沖縄県の玉城デニー知事が、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画で防衛省が申請した設計変更を承認しないと発表した。今後、国と県との法廷闘争に発展するとみられ、移設がますます遅れる恐れがある。
 玉城氏は本気でこの問題を解決しようとしているのか。市街地に囲まれた普天間飛行場の危険を取り除くには、辺野古への移設が唯一の解決策だ。そのことは日米両政府が繰り返し確認している。
 玉城氏は不承認を撤回し、国と協力して移設を急ぐべきだ。
 設計変更は、移設に向けた辺野古の埋め立て予定海域で軟弱地盤が見つかったため、防衛省が令和2年4月に申請していた。
 玉城氏は今回、不承認の理由として「最も重要な地点において必要な調査」が実施されていないことや、「ジュゴンに及ぼす影響について適切に情報」が収集されていないことを挙げた。
 前者について防衛省は、複数の地点の地質調査を実施し、強度を算出している。後者については平成31年3月以降、周辺海域でジュゴンは確認されていない。
 岸信夫防衛相は「不承認の理由をしっかり精査していく」と述べた。今後、行政不服審査法に基づく対抗措置をとるとみられる。
 一方、県は対抗措置が認められた場合、提訴する構えだ。
 またも不毛な法廷闘争を繰り返すのか。辺野古移設をめぐる国と県との訴訟で、これまで最高裁を含め計9回の判決が下されているが、いずれも県が敗訴している。これ以上、裁判で移設を遅らせることは許されない。
 国にも問題はある。そもそもの原因は、事前の地質調査が十分でなく、埋め立て開始後に設計変更を余儀なくされたことだ。当初5年と見積もっていた工期が9年3カ月に延び、3500億円以上だった総工費の試算が、9300億円に膨れ上がった。
 国は猛省し、移設工事の意義を丁寧に説明するとともに、一日も早く、確実に完成させなければならない。そのためには県の協力が不可欠である。