(社説)連合初の女性会長 格差解消の先頭に立て
                               2021年10月7日 中國新聞

 連合はきのうの定期大会で、退任する神津里季生(こうづ・りきお)会長の後任に、ものづくり産業労働組合(JAM)出身の芳野友子副会長を選んだ。結成から30年が過ぎ、8代目の会長になって初めて、女性が約700万人を抱える組織のトップに立った。
 世界経済フォーラムの男女格差報告(ジェンダー・ギャップ指数)によると、日本は下位に低迷している。今年は120位と順位を一つ上げたが、政治や経済の分野での女性の進出は大幅に遅れたまま。先進国では最下位クラスにとどまっている。
 そんな中、政治への影響力もある労働界最大のナショナルセンターのトップに女性が就任した意味は大きい。社会を前進させることにもつながるはずだ。ジェンダー平等を掲げる連合としても、男女間の格差解消という目標の実現に向けた大きな一歩にしなければならない。

 ただ連合は、内外に多くの課題を抱えている。

 今深刻なのは、新型コロナウイルスの感染拡大で弱い立場の労働者にしわ寄せが集中していることだろう。派遣やパートといった非正規労働者たちで、その大半を女性が占めている。職ばかりか、住む所まで失うケースも少なくないようだ。
 安定して長く働ける環境をどう整えるか。残念ながら政府の対応は心もとない。苦境にあえぐ人や、外国人労働者をはじめ少数者の立場に立って支援の手を差し伸べてこそ、労働組合の存在意義は増すに違いない。
 神津会長時代を含め、連合は近年、非正規労働者の取り込みを進めてきた。さらに組織化の努力を続ける必要がある。
 男女間の賃金格差の解消も、急がなければならない。厚生労働省の調査では、フルタイム労働者の女性の賃金は男性の74%程度にとどまっていた。先進国では、韓国に続いて最低レベルだった。労組はもちろん、政府も経営者も格差を解消する責任を負っている。
 多くの労働者は賃上げに強い関心を持っている。注目されるのは、政府自ら経済界に賃上げを求める「官製春闘」の今後だろう。安倍政権が2014年から乗り出し、7年続けて2%以上の引き上げを実現した。しかし、豊かさを実感できている労働者は少なかろう。企業の努力で労働者への配分をもっと増やすことが求められている。
 というのも、企業は内部留保を膨らませているからだ。20年度末で484兆円を超え、9年間で200兆円も積み増した。「成長の果実が中間層や中小企業、地方に分配されていない」と岸田文雄首相が訴えるのも当然ではないか。
 芳野氏は、連合内部の混乱に手を焼きそうだ。旧同盟系の民間労組と旧総評系の官公労組との対立である。支持政党が立憲民主党、国民民主党に分かれ、股裂き状態のまま、今月末に前倒しされた衆院選に臨むことになりそうだ。
 来年夏には、各産別の組織内候補が立民、国民両党に分かれた参院選が待ち構える。対立をどう調整し、組織をまとめ上げるか。引き継いだ宿題は重い。
 まっとうな賃金を確保することで、働く者の生活や命を守り職場環境も整えていく。労働組合の原点を踏まえながら、弱者の代弁もする。課せられた使命を忘れてはならない。

 (焦点連合 初の女性会長・芳野氏選出 男性中心、変化に期待
                                            2021年10月7日 毎日新聞

 日本労働組合総連合会(連合)は6日の定期大会で、ものづくり産業労働組合(JAM)出身の芳野友子副会長(55)を次期会長に選出した。1989年の連合発足以来、初の女性会長となった。任期は2年。JAMは中小メーカーが大半を占める産業別労働組合(産別)で、芳野氏がどのように連合を率いるのか、その手腕に注目が集まる。

組織率低下、非正規対応遅れ
「私自身が700万組合員のトップにふさわしいのか。不安はたくさんある。しかし(組織内で女性の昇進を阻む見えない障壁を意味する)『ガラスの天井』を突き破るチャンスを逃してはならないと思い、覚悟した」。6日の定期大会で、芳野氏は連合初の女性会長に就任する意気込みをこう述べた。中小企業中心の産別出身者として初めての会長でもある。
 芳野氏が選出されるまでには異例の経過をたどった。連合会長にはこれまで、政治的な影響力や春闘など重要な労使交渉をリードする力を期待される立場として、電機や鉄鋼などの大企業の労組からなる主要産別の会長経験者が就任してきた。連合の役員人事は主要産別の代表者からなる役員推薦委員会で事前調整するのが慣例で、今回の選考でも主要産別の出身者が有力視されていた。
 しかし衆院選を前に、候補者やその出身産別の政治的路線対立で調整が難航。JAMでも会長を経験していない芳野氏に白羽の矢が立ったのは「誰もが連合会長という『火中の栗』を拾いたくない中で、初の女性会長という話題性で乗り切る案が急浮上した」(連合関係者)というのが大方の見方だ。
 こうした経緯は、連合自体の弱体化や地盤沈下を象徴しているともいえる。厚生労働省の調査によると、雇用者に占める労働組合員を示す「組織率」は17%にまで低下。連合は結成当時に800万人以上の組合員を抱えたが、現在は700万人前後まで減少した。大企業の正社員が組合員の大半を占め、非正規やパート労働者は1割あまりとみられる。パートや派遣、フリーランスなど多様な働き方への対応が遅れており、労働運動の中で連合の求心力は低下している。
 新型コロナウイルスの感染拡大による雇用環境悪化の影響で、特に子育て世代や高齢単身の非正規女性の失業が目立った。連合は非正規やフリーランスの組織化を急務とし、神津里季生(こうづりきお)前会長は「全ての労働者の待遇底上げを目指す」と強調してきたものの、各産別が正社員の雇用維持を中心課題とする中で、コロナ禍における労働問題や生活困窮対策で連合が存在感を発揮したとは言いがたい。
 女性比率の低さも課題だ。組合員のうち女性は364%で、産別の役員比率は164%にとどまる。芳野氏はJAMで子育てとの両立やハラスメント対策などに取り組んだ。連合副会長として内閣府の男女共同参画会議の議員も務め、非正規女性の待遇改善を訴えてきた実績がある。今年6月、連合は「20249月末までに女性を三役(会長・会長代行・事務局長)に登用し得る環境整備」など女性登用の計画を策定。芳野氏は取りまとめに尽力し、結果的にこの計画も会長人事に影響を与えた。
 コロナ禍で非正規労働者への差別や働く女性の苦境がクローズアップされる中で、芳野氏の就任は「時代の要請だ。男性正社員中心の労働運動を変えるために会長を支えたい」(女性組合員)と期待の声も高い。コロナ収束が見通せない中、芳野氏が時代の要請に合った運動方針を示せるかどうかが試金石となる。【中川聡子】

立憲、関係こじれ警戒
 連合の会長人事が難航した背景には、衆院選に向けた立憲民主党と共産党の接近がある。神津氏が率いる執行部は、共産への反発が根強い民間労組から「立憲に肩入れしている」と反発を受けていただけに、会長交代で神津路線が修正される可能性がある。立憲内では連合との関係がぎくしゃくすることを警戒する声が出ている。
 芳野氏は6日の定期大会で「今期は衆参の選挙がある。運動を展開しなければいけない」と意気込んだが、連合が支援する立憲や国民民主党には言及しなかった。立憲の枝野幸男代表、国民の玉木雄一郎代表は、大会日程が新型コロナの影響で短縮されたこともあり、いずれも出席せず祝辞を寄せた。
 会長人事に関し、立憲の福山哲郎幹事長は5日の記者会見で、昨年9月の旧立憲民主党と旧国民民主党の合流に触れ、「神津氏の力がなければ今の立憲という政党はできなかった。感謝を申し上げる以外ない」と強調。連合の新執行部との連携に意欲を示したが、難航する会長人事へのコメントは避けた。
 立憲は31日投開票される予定の衆院選で「政権の選択肢になる」(枝野氏)として、議席の大幅増を目指す。与党と接戦が予想される選挙区では共産との競合を避け、候補一本化に向けた環境整備を進めてきた。
 98日には立憲、共産、社民、れいわ新選組の4党が、野党共闘を支援する「市民連合」が各党と個別に協定を結ぶ形で、消費税減税など6項目の共通政策をまとめた。同30日には枝野氏が共産の志位和夫委員長と会談し、政権交代が実現した場合、共産から「限定的な閣外協力」を受けることで合意した。
 立憲が共産と共通政策を直接結ばず、連立内閣の可能性を避けたのは、労働運動を巡って共産と対立してきた連合に配慮した面が大きい。それでも、連合内では共産アレルギーが根強く、立憲内にも「衆院選を前に連合内の不満が高まるのはまずい」(党関係者)との関係悪化を懸念する声はくすぶっている。
 さらにUAゼンセンなど有力な民間労組出身の議員が多い国民民主は、共産との連携に否定的だ。玉木氏は4日、「(連合本部だけでなく)地方連合会でも共産との距離に懸念を持つ関係者もいる」と立憲をけん制した。
 今回の連合会長の選考過程では民間労組関係者の名前が複数取り沙汰され、難航した。
 新執行部は事務局長を官公労から起用するなどバランスに配慮した。神津氏は928日の記者会見で「組織の方針にのっとって運営している。人が代わっても考え方に変化はない」と強調したが、立憲、国民との連携を両立させるのは容易ではない。【佐野格】