検証 核融合実験炉 「地上の太陽」着工 技術や費用、実現まで高い壁
                                               2020年9月24日 毎日新聞

  欧州連合(EU)と日本、ロシア、米国、韓国、中国、インドが共同で開発を進める国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」の組み立て作業がフランス南部サンポールレデュランスで始まった。核融合炉は「地上につくる太陽」と形容され、無尽蔵のエネルギーを生み出す可能性がある。だが技術的な課題が多く、実現までのハードルは高い。人類は「夢の炉」を手にすることができるのか。

 「今日は歴史的な瞬間。技術革新の積み重ねで、この瞬間を迎えられることを感謝したい」。現地で7月28日に開かれた組み立て開始を祝う式典で、運営主体であるITER機構のベルナール・ビゴ機構長は感慨深げに語った。式典の様子はネットで中継され、日本の研究者らも東京都内で見守った。
フランス南部サンポールレデュランスのITER建設地=ITER機構提供
 核融合は太陽内部で起きている現象で、原子核同士が衝突、融合し、巨大なエネルギーを生み出す。核融合炉では重水素とトリチウムを燃料にするが、いずれも地上で得られるため、実現すれば世界のエネルギー問題の多くが解決する「夢の炉」と言われる。
 ITERは1980年代に共同研究の構想が始まり、2006年にEUと6カ国が建設、運転、廃止措置などを実施する協定に署名した。炉の本体は直径30メートル、高さ30メートル、重量2万3000トンで、部品は各国がそれぞれ自国で開発・製作を進め、フランスの建設用地に搬入した。日本は加熱装置などを担当した。協定から14年をかけ、ようやく組み立て開始にこぎ着けた。
 だが完成までには多くのハードルが待ち受ける。参加国が別々に製造した部品を誤差なく組み合わせるには高度な技術が求められる。実験が始まっても、核融合反応に必要とされる、数億度の高温で原子核が高速で飛び交うプラズマと呼ばれる状態を作り出し、維持するのは至難の業だ。
 実験炉であるITERは、実際には発電は行わず、高温のプラズマを作るために投入したエネルギーの10倍のエネルギーを300~500秒間生み出すことが目標。だが、これまで世界の研究では、投入エネルギーの1・25倍を0・1秒維持するのがやっとだ。

    

 当初20年ごろとされていたITERの実験開始時期は既に25年にずれ込んでいる。約50億ユーロ(6000億円)と見積もられた総工費も、現在は200億ユーロ(2兆5000億円)に跳ね上がった。総工費の9・1%と定められた日本の負担も上昇している。
 それでも世界各国の研究者が集まり、実験を続けるのは、「安全で無尽蔵のエネルギーが実現する可能性がある」(那珂核融合研究所の栗原研一所長)からだ。
 日本はITERの経験を踏まえ、35年ごろ、実際に発電する「原型炉」計画に移行するかを判断する。さらに電力会社が商業ベースで発電を行う「商業炉」では、原発と同等の電力を供給するにはITERの6倍の300万キロワットの出力が必要とされる。順調に進んでも、商業炉での発電開始は50年以降となる見通しだ。【パリ久野華代】













日本、茨城に実験拠点

 日本はITER計画と並行して、EUと共同で核融合炉の技術基盤を確立するための研究「幅広いアプローチ」も進めている。2019年度は日本側で72億9200万円の予算を計上した。
 その最大の拠点、茨城県那珂市にある那珂核融合研究所では今年3月、日・EUの実験装置「JT―60SA」が完成した。ITERと同様のプラズマ制御方法を採用し、本体は直径14メートル、高さ15メートルとITERより一回り小さい。ITERより高圧力の環境で実験するのが特徴だ。
 将来、核融合炉の商業化に向けては、建設コストの低い小型炉の開発が必要となる。だが小型炉で十分な核融合反応を確保するには、炉の圧力を高めなければならない。高圧力のJT―60SAによる研究は、低圧力のITERの研究と補完関係にある。また、ITERでは開発を担当しなかった部品の研究を進められるメリットもある。運転条件を多様に変えやすい重水素のみを燃料に用いるため、「自転車に例えれば、小回りの利く前輪」(花田磨砂也・同研究所副所長)としての期待もかかる。
 同研究所では、実験装置「JT―60」が1985年に運転を開始。後継であるJT―60SAは今秋から冬にかけて稼働し、実験を開始する。【荒木涼子】

 安全、安価なエネルギー
 核融合炉は原発と比べ安全で、無尽蔵のエネルギー源となり得るが、コストに見合うだけの実現性があるかどうかが評価の分かれ目だ。

 核融合は、原子核同士が衝突して結び付き、別の重い原子核になる反応だ。核融合炉では、重水素とトリチウムの原子核が衝突し、ヘリウムの原子核と強力な中性子が生まれる。この中性子を壁にぶつけ、発生する熱を取り出す。
 だが、原子核同士は本来、プラスの電気を帯び離れ合うため、地球上では衝突しにくい。核融合炉では、物質をセ氏1億度以上に熱して原子核が超高速で運動するプラズマという状態を作り、反発力に打ち勝たせる。
 ただ、このプラズマの維持、制御も困難を極める。プラズマは分散しやすく、容器に閉じ込めても内壁に触れれば急速に冷える。このため容器内では磁力などで宙に浮かせる必要がある。東京大の藤堂泰客員教授(プラズマ物理学)は、「短時間の制御は進展したが、長時間保てるようにするのが大きな課題だ」と解説する。
 それでも、核融合炉が実現すればメリットは大きい。核融合炉で燃料に使われる重水素は海水1トン当たり約33グラム含まれ、トリチウムも鉱物や海水から入手できる。計算上、これらの混合燃料1グラムから、石油8トン分のエネルギーが得られる。地球温暖化の原因となる二酸化炭素も排出せず、原発で問題になる高レベル放射性廃棄物も発生しない。
 筑波大の坂本瑞樹教授(核融合科学)は、「再生可能エネルギーを基幹エネルギーとするのは難しく、原発、火力発電の問題点を解決できるのが核融合発電だ」と期待する。
 核融合の特徴は、原発などで使われる核分裂と比較することでも際立つ。
 原発では、中性子をウランの原子核に衝突させて核分裂させ、この時、放出される熱エネルギーを利用する。核分裂時には新たな中性子も放出され、それがまた、近くの別の原子核に当たり、次の核分裂が起きる連鎖反応が続く。
 これに対し、燃料となる原子核同士がぶつかることで起こる核融合は、1度きりの反応で、炉の暴走につながる連鎖反応が起きない。だが、すでに技術が確立している原発に対し、核融合炉は、プラズマ制御や多量の中性子線に耐えられる材料の開発など技術的課題が多い。新しい課題が見つかるたびに、研究費が膨らむことも悩みの種だ。
 東北大の明日香寿川(じゅせん)教授(環境政策学)は、「核融合発電が実現すると言われる今世紀後半よりも前に、再生可能エネルギーが課題をクリアし、相対的に核融合発電の意義が低下している可能性がある」と指摘する。【荒木涼子】

安全、安価なエネルギー

 核融合炉は原発と比べ安全で、無尽蔵のエネルギー源となり得るが、コストに見合うだけの実現性があるかどうかが評価の分かれ目だ。

 核融合は、原子核同士が衝突して結び付き、別の重い原子核になる反応だ。核融合炉では、重水素とトリチウムの原子核が衝突し、ヘリウムの原子核と強力な中性子が生まれる。この中性子を壁にぶつけ、発生する熱を取り出す。

 だが、原子核同士は本来、プラスの電気を帯び離れ合うため、地球上では衝突しにくい。核融合炉では、物質をセ氏1億度以上に熱して原子核が超高速で運動するプラズマという状態を作り、反発力に打ち勝たせる。

 ただ、このプラズマの維持、制御も困難を極める。プラズマは分散しやすく、容器に閉じ込めても内壁に触れれば急速に冷える。このため容器内では磁力などで宙に浮かせる必要がある。東京大の藤堂泰客員教授(プラズマ物理学)は、「短時間の制御は進展したが、長時間保てるようにするのが大きな課題だ」と解説する。

 それでも、核融合炉が実現すればメリットは大きい。核融合炉で燃料に使われる重水素は海水1トン当たり約33グラム含まれ、トリチウムも鉱物や海水から入手できる。計算上、これらの混合燃料1グラムから、石油8トン分のエネルギーが得られる。地球温暖化の原因となる二酸化炭素も排出せず、原発で問題になる高レベル放射性廃棄物も発生しない。

 筑波大の坂本瑞樹教授(核融合科学)は、「再生可能エネルギーを基幹エネルギーとするのは難しく、原発、火力発電の問題点を解決できるのが核融合発電だ」と期待する。

 核融合の特徴は、原発などで使われる核分裂と比較することでも際立つ。

 原発では、中性子をウランの原子核に衝突させて核分裂させ、この時、放出される熱エネルギーを利用する。核分裂時には新たな中性子も放出され、それがまた、近くの別の原子核に当たり、次の核分裂が起きる連鎖反応が続く。

 これに対し、燃料となる原子核同士がぶつかることで起こる核融合は、1度きりの反応で、炉の暴走につながる連鎖反応が起きない。だが、すでに技術が確立している原発に対し、核融合炉は、プラズマ制御や多量の中性子線に耐えられる材料の開発など技術的課題が多い。新しい課題が見つかるたびに、研究費が膨らむことも悩みの種だ。

 東北大の明日香寿川(じゅせん)教授(環境政策学)は、「核融合発電が実現すると言われる今世紀後半よりも前に、再生可能エネルギーが課題をクリアし、相対的に核融合発電の意義が低下している可能性がある」と指摘する。【荒木涼子】

安全、安価なエネルギー

 核融合炉は原発と比べ安全で、無尽蔵のエネルギー源となり得るが、コストに見合うだけの実現性があるかどうかが評価の分かれ目だ。

 核融合は、原子核同士が衝突して結び付き、別の重い原子核になる反応だ。核融合炉では、重水素とトリチウムの原子核が衝突し、ヘリウムの原子核と強力な中性子が生まれる。この中性子を壁にぶつけ、発生する熱を取り出す。

 だが、原子核同士は本来、プラスの電気を帯び離れ合うため、地球上では衝突しにくい。核融合炉では、物質をセ氏1億度以上に熱して原子核が超高速で運動するプラズマという状態を作り、反発力に打ち勝たせる。

 ただ、このプラズマの維持、制御も困難を極める。プラズマは分散しやすく、容器に閉じ込めても内壁に触れれば急速に冷える。このため容器内では磁力などで宙に浮かせる必要がある。東京大の藤堂泰客員教授(プラズマ物理学)は、「短時間の制御は進展したが、長時間保てるようにするのが大きな課題だ」と解説する。

 それでも、核融合炉が実現すればメリットは大きい。核融合炉で燃料に使われる重水素は海水1トン当たり約33グラム含まれ、トリチウムも鉱物や海水から入手できる。計算上、これらの混合燃料1グラムから、石油8トン分のエネルギーが得られる。地球温暖化の原因となる二酸化炭素も排出せず、原発で問題になる高レベル放射性廃棄物も発生しない。

 筑波大の坂本瑞樹教授(核融合科学)は、「再生可能エネルギーを基幹エネルギーとするのは難しく、原発、火力発電の問題点を解決できるのが核融合発電だ」と期待する。

 核融合の特徴は、原発などで使われる核分裂と比較することでも際立つ。

 原発では、中性子をウランの原子核に衝突させて核分裂させ、この時、放出される熱エネルギーを利用する。核分裂時には新たな中性子も放出され、それがまた、近くの別の原子核に当たり、次の核分裂が起きる連鎖反応が続く。

 これに対し、燃料となる原子核同士がぶつかることで起こる核融合は、1度きりの反応で、炉の暴走につながる連鎖反応が起きない。だが、すでに技術が確立している原発に対し、核融合炉は、プラズマ制御や多量の中性子線に耐えられる材料の開発など技術的課題が多い。新しい課題が見つかるたびに、研究費が膨らむことも悩みの種だ。

 東北大の明日香寿川(じゅせん)教授(環境政策学)は、「核融合発電が実現すると言われる今世紀後半よりも前に、再生可能エネルギーが課題をクリアし、相対的に核融合発電の意義が低下している可能性がある」と指摘する。【荒木涼子】