(社説)女性の指導者増 目標先送りは無責任だ

                                 2020年7月29日 北海道新聞

 看板倒れと言わざるを得ない。
 内閣府の有識者会議が「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標を先送りする男女共同参画基本計画の素案を公表した。
 目標が社会全体で共有されなかったことが理由という。
 安倍晋三首相は「女性が輝く社会」を政策の柱に掲げてきたはずだ。何が足りなかったのか。
 そもそも安倍内閣の閣僚19人のうち女性は3人だけだ。目標達成への真剣さを疑う。取り組みの甘さに十分な反省もなく、目標をすげ替えるのでは無責任である。
 男女の格差を解消し、性別にかかわらず活躍できる機会を確保することは、多様性が尊重される豊かな社会の実現につながる。
 政府はこれまでの問題点を洗い出し、実効性ある方策を導入して、女性の活躍につなげるべきだ。
 目標は小泉純一郎政権の03年に設定されたが、その後17年間の停滞は数字に表れている。
 現在、女性が衆院議員に占める割合は9・9%、地方議会が14・3%、企業や公務員の女性管理職は14・8%。いずれも目標の30%に遠く及ばない。
 世界経済フォーラムによると、男女平等における国際比較での日本の順位は世界153カ国で121位にすぎず、先進7カ国(G7)でも最下位となっている。
 18年施行の政治分野の男女共同参画推進法は、選挙で候補者数を男女均等にするよう政党に促すものの、努力義務にとどまる。
 自民党の世耕弘成参院幹事長は今回の目標先送りについて「指導的立場に就く層に女性の人材が十分ではなかったのが要因」と述べた。原因は女性の力不足にあると言わんばかりである。
 過去にも党幹部から、子どもを産み育てる役割を女性に負わせようとする発言が相次いだ。与党が政府の足を引っ張っていないか。
 注目すべきは、候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」であろう。既に世界120カ国以上が導入し、女性の政界進出を支えている。日本の国会も導入を検討してはどうだろう。
 コロナ禍において、女性首相が率いるドイツやニュージーランドなどは、国民の側に立った丁寧な説明や素早い対応で感染拡大を抑え込んだ。政治に女性の力が求められる好例と言えよう。
 政府は年内にも新たな基本計画をまとめる見通しだ。国際社会における日本の出遅れをよく認識し、将来像を描いてもらいたい。