連載 原発のたたみ方 10
  住民合意へ取り組み不十分 日本、処分場も決まらず

                                 2020年7月23日 毎日新聞

 世界の原発の廃炉状況
 国内外の原発は、電気を売るための商用炉だけでなく研究用の原子炉を含めると、約440基が稼働している。一方で、安全かつ効率的な廃炉の仕組みが整えられつつある。海外の廃炉事情を見ると、日本の課題が浮かんでくる。
 国際原子力機関(IAEA)などによると、廃炉が終了または作業中の原子炉は、全世界で180基余りに上る(2020年1月時点)。このうち、既に廃炉が完了したのは17基。米国の13基とドイツ3基、それに日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の試験炉「JPDR」(茨城県)だ。
 廃炉の方法は、主に2通りある。10~100年間、安全な状態を保ちながら放射性物質による汚染レベルが下がるまで放置するなどした後、解体を始める「遅延解体」と、運転が終了して間を置かずに解体する「即時解体」だ。日本では遅延解体が選ばれている。米国やフランス、イタリアなどの国では近年、遅延解体より即時解体を優先させる傾向にある。
 その背景には、電力会社だけでなく付近の住民にも、廃炉を早く終わらせることが社会の利益につながるという共通の理解がある。「早く終わらせることで、施設の維持費がかからず、施設が抱える危険性も取り除ける」。プルトニウムなどを扱う技術の実証のために建設され、今は廃炉作業が進む新型転換炉「ふげん」(福井県)の廃炉計画に携わった渋谷進・公益財団法人「原子力バックエンド推進センター」フェローは、そう説明する。
 一方、日本では廃炉で生じる低レベルの放射性廃棄物の処分場が決まっておらず、大きな課題になっている。JPDRでは3770トンが今も敷地内に残ったままだ。
 海外ではどうなっているのか。米国は民間の処分施設が整備されている。英国やフランス、スペインなどでは政府機関が廃棄物処分場を運営しており、ドイツでも同様の施設が計画されている。
 国によっては、放射性廃棄物の管理などで政府が責任を負っている。さらに、欧州では汚染レベルが極めて低い廃棄物のリサイクルも進む。渋谷氏は「スウェーデンなどに金属廃棄物の再利用を専門とする会社があり、分別する仕組みが整っている。日本でも再利用の動きはあるが、解体したがれきも含めて世間の目が厳しい。民間だけではやりきれない部分があり、国と電力会社がより連携してやっていくべきだ」と指摘する。

 ●独、立案に市民も参加
 廃炉の完了した原発が最も多い米国では、1970年代に廃炉が始まった。00年代になると、低レベル放射性廃棄物の処分や規制強化による廃炉経費が増え、遅延解体から即時解体に切り替える事業者もいた。その後、シェールガスのような安い化石燃料の普及により、発電費用が割高な原発の運転終了も相次いだ。廃炉を専門に実施する会社も現れ、解体を短期間で終了させる「廃炉ビジネス」が成り立っている。
 建屋から核燃料を取り出し、内部の原子炉などを解体した後、残った建屋自体を爆破して取り壊す所もある。原子力政策に詳しい小野寺将規・三菱総研研究員は「廃炉作業は住民の不安を伴うこともある。米国では、定期的に廃炉作業の状況の報告や地域の声を聞く場を設け、きめ細やかなコミュニケーションを図っている。それが原発によっては爆破などの大胆な方法も可能にしているのでは」と分析する。
 ドイツ政府は、11年の東京電力福島第1原発事故を受けて22年までの原発からの撤退を決めた。電力会社と役割分担して廃炉を進めている。廃炉計画を立てる時には会合が開かれ、国や電力会社の担当者だけでなく、市民も参加して決めていく。
 廃炉後は、建屋を解体せずに活用して、風力発電や大型船舶の製造工場などが整備される所があるほか、稼働しないまま廃炉が決まった研究炉では、排気筒などを活用して遊園地にした。

 ●お金を生まぬ作業
 こうした海外の状況から、日本の問題点が見えてくる。渋谷氏は「欧米のように環境や制度の準備がままならず、廃炉に関しては発展途上国だ」と話す。特に、原発の建設段階から住民を含め関係者への理解や合意を得る取り組みが不十分で「米国や英国、フランスは法律により地域に委員会を作らなければならず、反対派とも意見を交わす」という。
 「日本の電力会社は、安全対策費に予算を割くなど再稼働する原発に注力しながら、同時に廃炉も進めなければならず、難しい対応を迫られている」。そう見るのは、原子力政策に詳しい川合康太・三菱総研研究員だ。「廃炉という電力会社にとってお金を生み出さない作業を、どのように合理的に安全を保って進めるかが一番の課題だ」【斎藤有香】