(社説)米核実験75年/「称賛」間違った認識だ

                                 2020年7月21日 北海道新聞

 根本的に間違った認識であり、許し難い主張だ。
 米国のトランプ大統領が、人類史上初の核実験を行ってから75年を迎えたのに合わせて声明を発表し、この実験を「素晴らしい偉業だ」とたたえた。
 核実験が「第2次大戦の終結を促し、世界の安定、科学の革新、経済的繁栄の時代を切り開いた」からだという。
 米国は実験直後の8月6日に広島、9日に長崎に原子爆弾を投下し、計21万人が亡くなった。大勢の人々を無差別に殺傷し、その放射線はいまだに被爆者の体に深刻な影響を及ぼしている。
 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が「腹の底から湧き上がる怒りを抑えることができない」との談話を出したのは当然だ。
 この核実験こそが人類滅亡の恐怖の始まりとなった。核兵器は非人道的であり、人類と共存できない。トランプ氏は認識を改め、発言を撤回すべきである。
 核実験は1945年7月16日、米西部ニューメキシコ州の「トリニティ・サイト」で実施された。
 戦後、米国と旧ソ連は核軍拡競争を続け、人類が何回も破滅するほどの核兵器を開発してきた。冷戦後は削減が進んだが、それでも世界の核弾頭数は約1万3千発に上り、米ロだけで9割を占める。
 声明でトランプ氏は米国が92年以降、核爆発を伴う核実験のモラトリアム(一時停止)を行っているのに、中国とロシアは続けているとして不満を示し、両国に新たな核軍縮の枠組みを呼びかけた。
 だが、トランプ氏のこれまでの言動からは核軍縮に本気で取り組む意思はみじんも感じられない。
 米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、条約は昨年失効した。残る唯一の核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)は来年2月に期限が切れるが、米国は延長に消極的だ。
 核実験の再開を検討し、爆発力が低く「使える核兵器」と称される小型核の開発も進めている。
 このままでは核使用のハードルがますます下がることになりかねず、極めて危うい。米国は核軍縮に踏み切る必要がある。
 理解に苦しむのは、安倍政権が今回の声明に沈黙を保っていることだ。毅然(きぜん)と抗議するのが唯一の戦争被爆国としての責務である。
 日本政府が背を向けている「核兵器禁止条約」は既に40カ国が批准し、残り10カ国で発効する。今年こそ日本は批准し、核廃絶の理想をリードするべきだたる姿勢を示していかねばならない。