連載 原発のたたみ方
  9 微弱放射性ごみ再利用、低調 一般ごみと同じ扱いに

                                 2020年6月25日 毎日新聞

 原発の廃炉に伴う廃棄物のうち、放射性レベルが極めて低いものを、国の許可に基づき一般廃棄物と同様に扱う仕組みがある。「クリアランス制度」といい、目的は金属などの再利用だ。全国で89万トンが対象になると見込まれる。だが抵抗感が強く、活用は低調だ。
 中部電力の浜岡原発1、2号機(静岡県御前崎市)。2009年11月からの廃炉作業で解体が進み、タービン建屋内には取り外して裁断された配管などが積み置かれている。測定機に通して国の基準以下と確認されれば、再利用することができる。中部電の担当者は「放射線をどの程度出しているのか測るため、評価の対象となるものを保管している」と説明する。
 36年度までを予定している廃炉の工程は、23年度に原子炉本体を解体する段階へ移る。それまでは、原子炉内を通過した水が流れていた配管など、原子炉の周りの設備を取り外す作業が続く。微量の放射性物質が付いた廃棄物が最も多く出る段階で、保管場所をさらに確保するため中部電は16年、敷地に隣接する民有地を購入した。
 クリアランス制度では、廃棄物が人体に影響を与えないよう、人が周辺にいた場合の年間被ばく線量で0・01ミリシーベルト以下という基準が設けられている。この基準に沿って除染されたと原子力規制委員会により確認されれば、一般廃棄物と同様に再利用や処分ができる。浜岡1、2号機の場合、廃炉による廃棄物の総量約45万トンのうち、一般の廃棄物は約35万トン。クリアランス制度によって再利用できるのは約8万トンと見込まれる。残りの約2万トンは制度の対象外の低レベル放射性廃棄物だ。

 ●国内57基で89万トン
 クリアランス制度が導入されたのは05年。老朽化する原発が順次廃炉となって放射性廃棄物が大量発生することを踏まえ、できる限り再利用できるようにした。頑丈に造られた原発は、質の良い鉄材やコンクリートが使われており、那須良・経済産業省資源エネルギー庁放射性廃棄物対策課長は「貴重な金属などを有効活用していきたい」と話す。
 大手電力10社でつくる電気事業連合会によると、原発が廃炉になると、東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型の110万キロワット級1基当たりで、廃棄物の総量は約53・6万トンになる。うち、低レベルの放射性廃棄物は約1・3万トン(2%)、クリアランス制度の対象になる微量の放射性物質が付いた廃棄物は約2・8万トン(5%)で、残りの約49・5万トンは一般廃棄物になる。国内の原発57基が全て廃炉になったと仮定した場合、クリアランス制度の対象となる廃棄物は89万トンに上る。
 廃炉の決定は、日本原子力発電東海原発(茨城県東海村)を皮切りに24基に達している。多くの原発で20年代後半には、制度の対象となる廃棄物が大量発生する段階に入る予定だ。

 ●測定方法に懸念も
 しかし、クリアランス制度の対象になる廃棄物は、微量とはいえ放射性物質が付着している。那須課長は「放射性物質の影響があるというイメージが強く再利用には抵抗感があり、なかなか社会の理解が進まない」という。
 これまでクリアランス制度に基づいて再利用されたのは東海原発だけだが、実績は制度対象の廃棄物4・1万トンのうち約230トンにとどまっている。電事連は「制度による再利用が社会に定着するまでは、電力業界内での再利用にとどめる」とする。
 再利用が進まない中、低レベルの放射性廃棄物を地中に埋めて処分する際に使う金属製容器への活用が模索された。エネ庁の15~17年度の委託事業として、電事連などは日本製鋼所室蘭製作所(北海道室蘭市)で、東海原発から出た金属を再利用した容器の試作品を造る実証実験を実施した。電事連は「実証実験の前と後で製作所やその周辺の放射線量に大きな差はなかった」と説明する。
 原電は東海原発から出た金属を再利用し、ベンチや車止めを製造。これらは原電や電力各社の敷地内で使われている。しかし、11年の福島第1原発事故後には撤去されたものもあり、再利用が進んでいない。エネ庁は工事現場の足場や陸橋などへの活用を目指すが、具体的な再利用の見通しが立たなければ産業廃棄物として処分されることになる。
 廃棄物の放射線量の測定に懸念を示す専門家もいる。廃棄物は一定量があれば、全てではなく一部分を測ればいいとされているためだ。NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸・共同代表は「(測っていない)部分に高濃度の汚染があれば測定をすり抜ける可能性を否定できない」と話す。環境省は「もしもの場合に備えて再利用先までの過程を追跡できるトレーサビリティーを確保する」として、何に再利用されたかのデータベースを作成している。【荒木涼子】