日米防衛戦略変更、背景に
                  軍事評論家 前田哲男さん

                               2020年6月17日 朝日新聞秋田県版
 

軍事評論家の前田哲男さん(81)は今回の方針転換について、「日米の防衛戦略の変更が背景にある」と推測する。
前田氏によると、超高速で飛行し、攻撃目標近くで急上昇・急降下するミサイルがすでに開発されており、こうしたミサイルをイージス・アショアでは捕捉や迎撃ができない。「北朝鮮やロシア、中国のミサイル技術が進歩する中、迎撃はますます困難になっており、米国は攻撃を重視するようになった」
 米国は昨年INF(中距離核戦力)全廃条約を一方的に離脱。その後中距離(500㌔~5500㌔)射程の新型ミサイル開発に乗り出しており、米政府高官は、敵基地攻撃能力を有する新型ミサイルの日本配備にも言及するようになった。そうした中で、「米国の戦略家から見ても、イージス・アショアの価値は低下し、時代遅れになっている」と語る。
一方、河野防衛相が計画停止の理由に挙げたブースターの落下問題については、「日米の合意をひっくり返すほどの理由だろうか」と疑念を示した。
「昨年の住民説明会で防衛省は『ブースターは完全に誘導でき演習場内に落下する。心配はいらない』と話していたが、この時点から問題は認識していたはずだ」と指摘。迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)は日米が共同開発してきた経緯があり、日本がブースターの欠点に無知だったとは考えられないという。
 前田氏は「国家の大義のために住民意思を無視して前に進むことが多い防衛省がなぜ今回は違ったのか。ブースターだけの問題に終わると、本質は浮かび上がってこない」とし、今回の決定を理解するためには、ミサイル防衛の全体像を見る必要性を指摘する。   (曽田幹東)