(社説)陸上イージス 「導入ありき」の破綻
 
                                朝日新聞 2020年6月17日 

 費用対効果に疑問をもたれながら、「導入ありき」で突き進んだあげく、地元の強い反対に直面し、破綻(はたん)を余儀なくされたとしか見えない。
 安倍政権が17年末に閣議決定し、秋田、山口の東西2基で日本全体をカバーするとしていた米国製の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について、河野太郎防衛相が計画の停止を表明した。
 5千億円を超す費用がかかる一方、運用開始は早くても25年度以降で、周辺国のミサイル技術の急速な進展に対応できるのかも疑わしい。朝日新聞の社説は、巨額の費用に見合う効果があるのか厳しく吟味すべきだとして、計画の見直しを繰り返し主張してきた。
 唐突な表明とはいえ、河野氏の判断自体は妥当なものといえる。政府は早急に国家安全保障会議(NSC)を開き、正式に白紙撤回を決めるべきだ。
 方針転換の理由は、いま一つ腑(ふ)に落ちない。迎撃ミサイルを発射する際、住民らに被害が及ばないようにするには、切り離されたブースターが演習場内や海上に落ちるようにしなければならない。しかし、そのためには大がかりなシステムの改修が必要となり、その費用と期間を考えると、配備は「合理的でない」というのだ。
 だとすれば、「安全に配備・運用できる」としてきた住民への説明は、いったい何だったのか。地元に理解を求める段階で、解決しておくべき課題であることは言うまでもない。
 陸上イージスの導入は首相官邸の主導で決まり、防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画にも盛り込まれた。米国製兵器の大量購入を求めるトランプ大統領への配慮も指摘される。
 安倍首相は先週金曜に河野氏から報告を受けたが、発表は自らが出席した月曜の参院決算委員会の終了後だった。国会での追及を避けるためとみられても仕方あるまい。きのうになって、記者団に対し「地元の皆様に説明してきた前提が違った以上、これ以上進めるわけにはいかない」と語ったが、説明が尽くされたとは到底いえない。
 コロナ対策の予算が膨れあがる今、税金の使い道には厳しい優先順位が求められる。防衛予算も聖域ではない。これを機に費用対効果を一層しっかりと見極めねばならない。
 技術的困難を乗り越えるのに費用や期間がかかりすぎるというのは、沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設も同様である。陸上イージスが合理的でないなら、軟弱地盤の存在が明らかになった辺野古への移設も合理的ではあるまい。こちらもまた、立ち止まる決断を求める。

 (社説)ミサイル防衛/高まる脅威に備え代替策急げ
 
                                読売新聞 2020年6月17日 

 費用対効果を重視し、防衛装備を見直すのはやむを得まい。ミサイルへの対処能力をどう強化するか、代替策の検討を急ぐ必要がある。
 防衛省が、地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の導入手続きを停止すると発表した。事実上の計画断念だろう。
 イージスアショアは、北朝鮮の弾道ミサイルなどを迎撃するため、2025年度に秋田、山口両県に配備し、2基で全土をカバーする計画だ。多数のミサイルの同時攻撃に備える狙いである。
 河野防衛相は、山口県で迎撃ミサイルを発射する際、推進装置が自衛隊の演習場外に落下する恐れが排除できない、と説明した。安全性を担保するためのシステム改修には、数千億円がかかる。
 イージスアショアの経費は、本体2基とミサイルなどで約7000億円に上り、高額過ぎると批判を受けた。計画停止は、これ以上の支出は困難との判断からだ。
 両県では、配備への反発が強まっていた。防衛省が昨年行った調査で、地形の縮尺を誤るミスなどを繰り返したことが大きい。
 政府は、高性能レーダーの開発費などで、既に1700億円以上の予算を投じている。見通しが甘かったと言わざるを得ない。防衛省は猛省すべきだ。
 重要なのは、安全保障上の脅威に対して、説得力のある対処策を打ち出し、着実に能力を向上させていくことである。
 政府は、弾道ミサイル防衛のため、イージス艦を増強し、来年には8隻とする計画だ。日本海に常時配置し、即応できる態勢を整えることが欠かせない。
 米軍は、日本海にイージス艦を展開するほか、早期警戒衛星でミサイル発射を探知する任務を担っている。自衛隊と米軍の共同対処能力を高めたい。
 北朝鮮は、日本を射程に収める約1000発のミサイルを配備しているとされる。昨年は、変則的な軌道の新型ミサイルを発射した。中国は、人工知能を搭載した無人機や、音速の5倍以上で飛行する極超音速兵器を開発中だ。
 新型ミサイルの迎撃に向け、自衛隊は当面、既存の地対空誘導弾を改修して対処する。無人機はレーザーで無力化する方針だ。研究を重ねることが求められる。  米政府を通じて最新鋭の装備を購入する対外有償軍事援助は、米国が価格決定の主導権を持っており、高額になりがちだ。政府は米国と粘り強く交渉し、調達費用の低減を目指さねばならない
 (主張)地上イージス断念/猛省し防衛体制を見直せ
 
                                 産経新聞 2020年6月17日

 河野太郎防衛相が、秋田、山口両県への地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」(地上イージス)配備計画の停止を表明した。
 安倍晋三首相は了承済みで、事実上の計画断念である。国家安全保障会議(NSC)と閣議で近く追認される。

 地上イージスは総合ミサイル防空能力の柱の一つで令和7年度以降の運用が目標だった。陸上自衛隊が東西2カ所で運用することで日本全域を24時間365日守る態勢が整うはずだった。
 ところが、迎撃ミサイルのブースター(補助推進装置)の落下先を制御しきれないという技術的問題が、日米協議の過程で5月下旬に判明した。改修には多額の予算と長い年数がかかる。防衛省はコストに合わないと判断した。
 断念はやむを得ないが、導入に当たった防衛省と国家安全保障局(NSS)の大失態だ。多額の国費が無駄になり、ミサイル防衛が動揺しかねない。ブースターの問題はもっと重視しておくべきだった。猛省して失態の原因を解明すべきだ。今後は防衛力整備にプロらしく取り組んでもらいたい。
 政府が地上イージス断念の代替策を検討するのは当然だが、防衛体制全般の見直しも図るべきだ。中期防衛力整備計画に加え防衛計画の大綱を改定したらどうか。
 北朝鮮などのミサイルの脅威は高まっている。河野氏は「当面はイージス艦でミサイル防衛体制を維持する」と語ったが、その場しのぎであり、ミサイル防衛充実にはつながらない。中国海軍にも備えるべき海上自衛隊の運用強化を阻むことにもなる。
 北朝鮮ミサイルの奇襲的発射に備えるには2隻程度のイージス艦を日本海に配置する必要があり、その運用は海自にとり大きな負担だ。地上イージスがあればイージス艦を中国海軍への対処に振り向けられた。新たな知恵を絞り、予算をかけて北朝鮮と中国双方に対応できる自衛隊を持つべきだ。
 ミサイル防衛という、相手の攻撃を払いのける「拒否的抑止力」は必要だが、それだけでは国民を守れない点を忘れたくない。対日攻撃を独裁者にためらわせる「懲罰的・報復的抑止力」はコストに見合う防衛力の一種だ。その保有のため防衛大綱を改定し、侵略国のミサイル発射基地・装置を叩(たた)く敵基地攻撃(反撃)能力の本格的整備に乗り出すときである。

 (社説)陸上イージス計画停止/判断誤った説明が足りぬ
                                   毎日新聞 2020年6月17日

 河野太郎防衛相が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明した。迎撃ミサイルの技術的な問題を解消する必要があり、多額の費用と期間がかかるからだ、と説明している。
 迎撃ミサイルを発射する場合、途中で推進装置「ブースター」が切り離される。それを陸上自衛隊の演習場内や海上といった安全な場所に確実に落下させることはできないことが、最近分かったという。計画の停止は当然だ。
 ただ、落下地点を制御するのは技術的に極めて難しいという指摘は、当初からあった。甘い見通しのまま計画を推し進めてきた政府の責任は重い。
 陸上イージスの導入は、トランプ米大統領が安倍晋三首相に米国製の装備品購入を迫る中、2017年に官邸主導で決まった。
 秋田県と山口県に1基ずつ置く計画で、25年度の配備を目指していた。約4500億円の経費のうち計1787億円が契約済みで、巨額の費用が投じられてきた。
 安倍首相はこれまで「国民の安全と命を守るため、どうしても必要だ」と訴えていた。今回の計画停止については「前提が違った以上、進めるわけにはいかない」と語ったが、これでは説明になっていない。判断を覆した経緯や原因を自ら説明する必要がある。
 日本のミサイル防衛は、飛来する弾道ミサイルを、海上のイージス艦が発射する迎撃ミサイルと地上配備型迎撃ミサイル「PAC3」の2段構えで撃ち落とす。陸上イージスは、日本海で常時警戒するイージス艦の人員や装備の負担を軽減し、迎撃態勢を強化するのが目的だった。
 だが、北朝鮮は従来とは異なる変則軌道のミサイルを開発している。中国やロシアのミサイル開発はその先を行くとされる。
 米国が主導するミサイル防衛システムでは、これらに十分対応できない懸念がある。ミサイル防衛の有効性は、米国内でも議論が分かれている。
 政府は、来年春で8隻態勢となるイージス艦をさらに増やして対応することを検討している。安全保障環境の変化を見極めながら、必要な態勢と装備をもう一度議論すべきだ。

 (社説)イージス計画停止 政府の説明はうそだった
                                   琉球新報 2020年6月17日

 当然の帰結だが、決断が遅過ぎる。河野太郎防衛相が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明した。事実上の白紙撤回となる。
 迎撃ミサイルの発射後に切り離す推進装置「ブースター」を自衛隊演習場内や海に確実に落とせない技術的な問題が判明したためだ。そんな初歩的なことがなぜ、分からないのか。
 防衛省はこれまで、イージス・アショアは安全に運用することが可能と強調していた。性能を確認せずに、うその説明をしていたことになる。住民の危険を顧みない、でたらめな対応だ。
 安全を確保するにはハードウエアの改修が必要になるという。既に関係経費は4千億円以上に膨らんでいる。実現の時期も見通せなかった。当初から、断念すべき理由はいくらでもあった。
 日本の防衛力整備では、米国から高性能の兵器を調達する「対外有償軍事援助(FMS)」の増加傾向が顕著だ。
 第2次安倍政権以降、一気に増えて、2019年度で過去最高の7013億円に達し、20年度も4713億円を計上した。地上イージスの配備計画では調査費などで、約1800億円分が契約されている。
 FMSは米側の提示額や納期を日本政府が受け入れるため、事実上、米側の言い値だ。それにもかかわらず、米側による納入遅れや過払い金の未精算が頻発している。会計検査院は防衛省に対し、繰り返し改善を求めてきた。国費のずさんな運用は目に余る。
 トランプ米大統領の要求に応じた米国製兵器の「爆買い」の一環と言えよう。
 イージス・アショアが本当に必要だったとは思えない。北朝鮮や中国の最新鋭ミサイルには対応できないとみられていたからだ。導入すれば無用の長物になる可能性が大きかった。
 河野防衛相が16日、代替地を検討しない考えを示し「この投資はすべきではない」と述べたのはその証左だ。
 候補地とされた秋田、山口の両県は米ハワイ、グアムと北朝鮮を結ぶ直線上にある。米国を守るためともいわれる防衛装備に巨額の国費を支出するのは極めて疑問だ。
 計画の停止は技術的な問題が理由とされた。技術的な問題が大きいのは名護市辺野古の新基地建設も同じだ。大浦湾側にマヨネーズ並みの軟弱地盤が存在し、実現性は見通せない。しかも、県民投票で7割超が埋め立てに反対しており、地上イージスの配備候補地以上に民意が具体的でかつ明確に示されている。
 地上イージスの計画停止は技術的問題を理由にしているが、配備候補地の根強い反発が判断を後押ししたことは間違いない。辺野古の埋め立て強行は二重基準と言える。
 沖縄でも、民意を重く受け止め、新基地建設は断念すべきだ。

 (社説)地上イージス 計画撤回を明確にせよ
                                   東京新聞 2020年6月17日

 「イージス・アショア」を、秋田、山口両県に配備する計画が停止された。それ自体は歓迎したいが、導入自体を断念したのか、判然としない。閣議決定により、計画撤回を明確にすべきだ。
 イージス・アショアは地上配備のミサイル迎撃システムで弾道ミサイルを撃ち落とす防衛装備。政府は昨年、秋田、山口両県の陸上自衛隊演習場二カ所を選定し、配備計画を進めてきたが、河野太郎防衛相が十五日、計画停止を表明した。
 ミサイル発射後、「ブースター」と呼ばれる初期加速装置を演習場内に確実に落下させることができないことが判明。改善には十年以上の期間と数千億円の費用が想定され、「コスト、期間を考えれば合理的ではない」との理由からだ。

 そもそも、この計画を強引に進めること自体に無理があった。
 秋田、山口両県への配備は、日本全土を網羅するためと説明されてきたが、ハワイとグアムに駐留する米軍基地を守ることが真の目的では、との疑念は消えない。
 さらにイージス・アショアは価格や納期の設定に米国が主導権を持つ対外有償軍事援助(FMS)での調達だ。二基の取得費用に三十年間の維持・運用費、ミサイル発射装置や用地取得費、施設整備費を含めれば、少なくとも五千億円以上に膨れ上がる。
 海上自衛隊はすでにイージス艦を展開しており、トランプ米政権の購入圧力で新たに地上に配備しても巨費に見合う安全保障上の効果があるのか疑問視されていた。
 防衛省が誤った報告書を作成したり、住民説明会で職員が居眠りしたりする大失態も加わり、演習場近隣の住民や自治体の理解がとても得られる状況ではない。
 新型コロナウイルス対策への巨額の支出で財政状況は厳しくなっており、費用対効果が疑わしい計画は取りやめ、国民の命や暮らしを守るために振り向けるのは当然だ。河野氏の判断は妥当である。
 ただ、正式な手続きを経なければ計画断念にはならない。来年度概算要求に関連予算を盛り込まないだけでなく、防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画に明記された地上イージス計画を削除して、閣議決定をやり直すべきだ。
 費用対効果の疑わしい防衛政策を、住民の反対を押し切って強行する構図は、沖縄県名護市での米軍新基地建設も同じである。
 地上イージスでできた計画の停止が、辺野古でできないはずがない。河野氏の英断を期待したい。