社説 地上イージス 導入の是非から見直せ

                               東京新聞 2020年5月8日

 地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」は、そもそも日本の安全保障に必要不可欠な防衛装備なのか。もはやどこに配備するかの問題ではなく、導入の是非から問い直すべきだ。
 弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とすミサイル防衛システムを、従来の艦艇ではなく、地上に配備するのが「イージス・アショア」だ。政府は秋田、山口両県の陸上自衛隊演習場二カ所に配備する現行計画のうち秋田市の新屋演習場への配備を断念した。
 新屋演習場への配備には住民や自治体が市街地に近いなどとして反対。加えて、防衛省は選定の妥当性を示す報告書を作成する際、現地調査をせず、インターネット上の地図データを使用して縮尺を間違えた上に、住民説明会で職員が居眠りをする大失態を演じた。地元の強い反対を踏まえれば、配備断念は当然だ。
 ところが、新屋演習場に代わる候補地については秋田県内の別の国有地を軸に選定するという。これではとても納得がいかない。

そもそもイージス・アショアは日本の安全保障に不可欠なのか。
 安倍内閣は2017年12月、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威を念頭に、2基導入の方針を閣議決定したが、北朝鮮を起点にすると、秋田の先にはハワイ、山口の先にはグアムがある。
 日本国民を守るためと言いながら、ハワイとグアムに駐留する米軍基地を守るのが真の狙いと勘繰られても仕方があるまい。
 さらに、イージス・アショアは高額で、2基の取得費用に30年間の維持・運用費、ミサイル発射装置や用地取得費、施設整備費を含めれば、少なくとも5千億円以上に膨れ上がる。
 米国が価格や納期の設定に主導権を持つ対外有償軍事援助(FMS)での調達でもあり、貿易不均衡の是正を主張するトランプ米大統領からの購入圧力か、大統領への忖度(そんたく)を疑わざるを得ない。
 海上自衛隊はすでに弾道ミサイルを迎撃するイージス艦を配備しており、新たに地上に配備しても巨費に見合う安全保障上の効果が期待できるのだろうか。
 日米同盟の強化を掲げる安倍晋三首相は政権復帰した13年度予算以降、防衛費を増額し続けてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大による影響が収まらない中、費用対効果が疑わしい計画を漫然と続けていいとは思えない。貴重な財源は国民の命や暮らしを守るためにこそ振り向けるべきだ。

  社説 陸上イージス配備 立ち止まり考える機会に
                                               毎日新聞2020年5月9日

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を秋田市の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場に配備する計画が見送りになった。
 地元の強い反対を踏まえて方針を転換した。当然の判断だ。
 北朝鮮の弾道ミサイルを、地上の高性能レーダーで探知し、迎撃ミサイルで撃ち落とすシステムである。西日本では、山口県の陸自むつみ演習場に置く方針だ。
 周辺の住民は、レーダーの強い電波が体や生活に与える影響を不安に思っている。有事の際に、他国からの攻撃の標的になりかねないという懸念も訴えてきた。
 防衛省は、東日本では新屋が「唯一の適地」と結論付けたが、その調査報告書には重大な誤りが多数見つかった。直後の住民説明会では職員が居眠りをしていた。
 政府は秋田県内で別の配備先を検討する方針だ。しかし、ずさんな調査や不誠実な態度で地元の納得が得られるはずがない。
 日本のミサイル防衛は、海上のイージス艦が発射する迎撃ミサイルと、地上配備型迎撃ミサイル「PAC3」の二段構えだ。
 陸上イージスの導入が決まった2017年当時、北朝鮮は頻繁に弾道ミサイルを発射していた。しかし、イージス艦は4隻しかなく、日本海での常時警戒は負担が重かった。
 このため、地上にも同じようなシステムを配備して態勢を強化することを決めた。その後、イージス艦は増え、一部が訓練や整備中でも日本海に常時配備できる8隻態勢に近づいている。
 陸上イージスは、システムの価格が当初想定より大きく膨らんでいる。2基の配備と運用には5000億円超かかるとされている。米国製武器の購入を迫るトランプ米大統領の圧力が影響したと指摘されている。
 運用開始は早くても25年度以降とみられ、急速に進むミサイル開発に対応できるのかという問題もある。北朝鮮は従来型とは異なる変則的な軌道の弾道ミサイルを開発している。現在のシステムでは撃ち落としにくいとされる。
 安全保障政策は、不断の検証が必要だ。陸上イージスを配備して巨額の費用に見合う効果があるのか。これを機に、計画の妥当性を改めて考えるべきだ。