連載 原発のたたみかた 7
 廃炉の波よせる福井・若狭湾 かつて「銀座」、交付金依存

                              毎日新聞 2020年4月23日 

 廃炉になる原子炉は、検討段階を含めると25基以上になった。影響は地元地域に及び、自治体への交付金が先細りするなど経済的な自立に悩んでいる。計15基が並び「原発銀座」と呼ばれる福井県の若狭湾岸にもその波は押し寄せ、苦慮する姿が垣間見える。

建設に原発関連の交付金が使われた「うみんぴあ大飯」
=福井県おおい町で

 ●大きな複合施設

 福井市から南西へ車で1時間40分ほどの所にある福井県おおい町。きらびやかな若狭湾を望む海岸線沿いの道から海側へ曲がると、整った外観の複合施設が見える。「うみんぴあ大飯(おおい)」だ。道の駅があり、普段は若狭湾の新鮮な魚介類や、収穫されたばかりの旬の野菜が並ぶ。施設はホテルや入浴施設だけでなく、マリーナも併設。ドライブの途中に立ち寄る人々らでにぎわう。
 町の第三セクターなどが運営する。人口約8000人という町の規模を考えると、いささか大きな施設にも思えるが、町に関西電力大飯原発があることで支払われる原発関連の交付金を整備費などに充てたことで運営できている。
 1970年に日本原子力発電の敦賀原発1号機(同県敦賀市)が運転を始めてから半世紀。県内に建設された原子炉は、廃炉作業が進む日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」と新型転換炉「ふげん」の研究炉2基も含め計15基にもなる。電力業界が「地域との共生」を声高に唱える中、立地自治体には電源3法(電源開発促進税法、特別会計法、発電用施設周辺地域整備法)に基づく交付金が支払われている。主なものが「電源立地地域対策交付金」だ。
 県によると、2018年度までに支払われた電源立地地域対策交付金などの総額は、県全体で約5420億4000万円。そのうち、市町村分だけで計約2409億9500万円になり、大規模施設など「ハコモノ」の建設などに投じられた。交付金の財源は電気代に上乗せされる税金で、現在の税額は1000キロワット時当たり375円になる。

 ●「作業終了まで払って」
 しかし、福島第1原発事故の影響で、県内では7基の原子炉で廃炉が進む。大飯1、2号機でも4月から廃炉作業が本格化した。そうなると、自治体は電源立地地域対策交付金などに頼れなくなる。
 その影響を和らげるため、新たに設けられた廃炉交付金が支払われることになった。ただ、10年間の期限付きで、廃炉の届け出の翌年度から段階的に減額され、最終的にはゼロになる。おおい町の収入の6割以上は原発関連の交付金などが占めており、廃炉は町の財政を直撃。17年度の交付金などの総額は約21億8300万円だったが、18年度には約2億6400万円減の約19億1900万円に。今後も減少していく見通しだ。
 おおい町などの県内の立地自治体は「(30~50年とされる)廃炉作業が終わるまで交付金を支払ってほしい」と国に求めている。だが、経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「交付期間の延長は検討していない。急激な影響を和らげるため、新たに廃炉交付金の制度が設けられており、短期間での自立を促している」と話す。

 ●「ビジネスチャンスに」

 廃炉による影響を受けているのは立地自治体だけではない。
 おおい町の隣、高浜町にある関電の高浜原発。3、4号機は再稼働した。1、2号機も再稼働に向け準備しており、廃炉の予定はない。4月中旬、原発入り口の門を眺めていると、重機が行き交い敷地内から「ゴー」という作業音が聞こえてきた。同じ日、大飯原発の入り口の門に行くと、作業員らを乗せたバスなどが出入りしていたが、高浜原発より静かな感じがした。
 廃炉が決まると、定期検査や安全対策工事に関わる仕事が少なくなる。おおい町の商工会関係者は「関連企業だけでなく、作業員が利用する飲食店など幅広い産業にまで影響はある」と話す。
 そのため、立地自治体を活性化させようと、県は3月にまとめたエネルギー計画で、廃炉ビジネスを基本戦略の一つに位置づけた。廃炉が決まった原子炉7基の解体費用だけでも2771億円が見込まれる。
計画では、作業の元請けや1次下請けに地元業者が参入するなどし、廃炉作業に携わる企業の半数以上が県内の業者になることを目標にしている。
 廃炉に関するノウハウを持つ地元業者の連合体を作り、将来的には県外の廃炉ビジネスへの進出も狙っている。杉本達治知事は「ビジネスチャンスでもある」と話す。ただ、県によると、原発の停止期間が長引いたことで現場の作業員は減少している。地元には「廃炉の中長期的なビジョンが見えず参入の障壁になっている」という声もあり、ある県職員は「参入意欲は必ずしも高くない」と明かす。
 三菱総合研究所の小野寺将規・原子力安全事業本部研究員は「廃炉費用は1基あたり500億円程度とされるが、長期間でのもの。汚染レベルの高い所の解体などは主要メーカーなどに発注される可能性が高く、地元企業への発注には限度がある」と指摘。「地元の中小企業への経済的なプラス効果は、必ずしも大きくはないとも考えられる」としている。
 廃炉という現実を前に、いかに未来を描けるか。原発を抱える地域は岐路に立っている。【岩間理紀】