[社説] 辺野古設計変更 「不要不急」の極みだ
                              東京新聞 2020年4月22日 

 そもそも不要な工事であり、急ぐ手続きではない。防衛省が辺野古新基地建設で設計変更を沖縄県に申請した。県をはじめ全国がコロナ禍に立ち向かっている。政策の優先順を見誤ってはならない。
 設計変更は、辺野古の埋め立て面積の四割余、六十六ヘクタールの海底に広がる軟弱地盤の改良のためだ。
防衛省は2013年に県から埋め立て承認を受け、翌年からのボーリング調査で軟弱地盤の存在を把握したが、昨年1月まで公式に認めず、埋め立てを既成事実化するために改良対象区域外で土砂投入を強行した。
 それだけでも信義違反なのに、昨年末にようやく示した新たな工期の見通しでは、新基地の供用開始は最短でも30年代前半。当初から10年以上遅れ、辺野古を移設先としている普天間飛行場(宜野湾市)はそれまで返還されない。
 砂の杭(くい)など7万1000本を打ち込む地盤改良は、環境への負荷が甚大であるにもかかわらず、防衛省は環境影響評価をやり直さない。
 技術上、改良できる限界の深度70メートルを超えて地盤の弱さを示すデータがあることも無視だ。設計変更を認めた防衛省の技術検討会は、一部委員に辺野古関連業者との癒着が指摘され、省側が誤った資料を提出しても問題にしない。
 この間に防衛省は、当初設計で着手した護岸建設が立ちゆかなくなり、途中で放り出してもいる。
 理不尽だらけで建設ありきの自己目的化した工事の進展を、県が認めるはずもない。県は、軟弱地盤の存在を見越すなどして18年に埋め立て承認を撤回した。これを恣意(しい)的な法運用で無効にした政府には、訴訟で対抗している。
 県が設計変更を認めない場合、政府は県を相手に訴訟に持ち込む考えだが、対立を延々と続けて安全保障政策が成り立つのか。
 地方自治法上、国と地方の関係は対等だ。政府は県が下す判断を尊重しなくてはならない。それ以前に埋め立て工事を棚上げし、普天間と辺野古の今後について、県と真摯(しんし)に話し合うよう望む。
 コロナ禍では、沖縄の感染者が百人を超え、県独自の緊急事態宣言が発令された。辺野古関連業者にも感染者が出て工事は十七日から中断され、反対派市民らも座り込みを自粛している。
 報道によれば、韓国政府は最新鋭戦闘機調達などを含む国防費を削減し、コロナ禍対策に充てるという。一兆円近くかかる辺野古工事を強引に進める局面か、日本政府は冷静に判断すべきだ。

 
[社説] 辺野古の設計変更申請 無理な計画をなぜ進める

                                毎日新聞 2020年4月22日

 米軍普天間飛行場の辺野古移設計画について、政府が沖縄県に設計変更を申請した。埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤の改良工事のためだ。
 軟弱地盤に7万本超の砂のくいを打ち込んで地盤を固める。費用は当初予定の2・7倍の約9300億円に膨らむ。移設時期も当初の「2022年度以降」から30年代以降に大幅にずれ込む。
 工事は技術的にも政治的にも実現が遠のいている。巨額の費用を投じ、県民の理解を得ないまま強行する合理性があるのだろうか。
 軟弱地盤の最深部は、海面から90メートルに及ぶ。しかし、現在の技術では作業船から70メートルまでしか、くいを打ち込めない。
 政府は、70メートルより下は「非常に固い粘土層」なのでそこまで改良すればよいと説明する。一方で、軟らかい粘土層である可能性を示すデータが、外部の専門家の分析で出ていた。
 工事の根本にもかかわらず、防衛省は取り合わず、再調査を拒んだ。技術的な検討をする有識者会議も「再検討を要しない」と防衛省の見解を追認した。
 玉城デニー知事は、申請を承認しない考えだ。国と県は再び法廷闘争に入るとみられ、工事はさらに遅れる可能性がある。普天間周辺の住民はこの間も、激しい騒音や事件・事故などの危険にさらされ続ける。
 日米両政府が普天間の「5~7年以内の返還」で合意したのは24年前だ。県民は「辺野古ノー」の意思を繰り返し示してきた。昨年2月の県民投票では、埋め立てに「反対」が72%に上った。
 こうした民意は置き去りにされた。政府は軟弱地盤の存在を早くから把握していたが、昨年はじめまで明らかにしなかった。駆け込みで工事を始め、既成事実の積み上げを図った。不誠実な姿勢が国と県の亀裂を深めている。
 沖縄県の有識者会議は先月、実現困難な辺野古移設に固執するのではなく、日米両政府と県で協議会を作って普天間の機能を県外や国外に移転できるかを検討すべきだと提言した。
 今の計画を「唯一の解決策」と繰り返すだけでなく、普天間の危険性を速やかに取り除くという原点に立ち戻り、考え直すべきだ。