本棚 民主主義は終わるのか 瀬戸際に立つ日本』=山口二郎・著

                        毎日新聞202022日 東京朝刊 
(岩波新書・924円)

 安倍晋三首相は、憲政史上の最長の在任記録を更新した。その首相について、著者は厳しい批判をする。「議会政治の崩壊現象」をもたらし、「国会論戦における言葉を破壊し、無意味にした」「首相や閣僚のせいで、日本語の通じない国会が当たり前となった」。三権の一角を壊したとしたら大罪である。さらに「無責任さ、傲慢さ、知性の欠如」を指摘する。経済や外交などの施策でも評価は極めて低い。
 こうした首相批判は、著者のみならず多くの識者が展開してきた。的を射た議論も多いのだが、それらを読んだり聞いたりするたびに「どうしてその内閣がこんなに長く続くのか。なぜ支持率は安定しているか」という疑問がわく。
 本書によれば、原因の一つは国民の意識、行動だ。国政選挙の低投票率などから「主権者としての最低限の行動力や批判性が低下している兆候」がある、という。政権交代の受け皿となる野党がない、ということもしばしば指摘されるところだ。著者はこれらの問題も含めて「民主主義を終わらせない」ために五つの提言をする。市民の意識、投票行動にどう響くか。注目したい。(栗)