(社説)大飯許可違法 誰がための規制委か

                                  東京新聞 2020年12月7日

関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の安全性に問題があるとして、大阪地裁は国の原子力規制委員会が関電に与えた原発の設置許可を取り消した。国の原子力政策を根元から揺るがす判決だ。
 「原子力規制委員会の判断に看過しがたい過誤、欠落がある」−。大阪地裁は、強い言葉で規制委を指弾した。
 原発の稼働に際し、想定すべき最大の揺れの強さを示す「基準地震動」の算定方法が、最大の争点だった。
 規制委は、関電が算出したデータに基づいて、福島第一原発の事故後に厳格化された新規制基準に「適合」すると判定し、2017年5月に設置許可を出していた。
 しかし、大阪地裁は「関電が算定に用いた数式は、過去に発生した地震の平均値にすぎない。国の審査ガイドにも、ばらつき(平均値からかけ離れた強さ)が出る恐れを考慮するとある」と指摘。「ばらつきによる上乗せの必要性を検討せずに、許可を与えたのは違法である」と断じた。
 大飯原発3、4号機に関しては、元規制委員長代理の島崎邦彦・東京大名誉教授(地震学)も「関電の計算式では、基準地震動が過小評価される恐れがある」と、別の訴訟の法廷などでも証言に立ち、訴えてきた。
 原子力規制委員会は福島第一原発の惨事を踏まえ、「想定外」による事故を二度と繰り返してはならないと、設立された機関のはずだ。過小評価の指摘を見過ごすということは、「想定外」を許容するということにはならないか。
 もしそうなら、規制委の存在自体の基盤が揺らぐ。
 関電が用いた計算式は、国内のほぼすべての原発で、基本データとして重要視されているという。
 福島の事故後に各地で相次いだ運転差し止めの司法判断でも、想定される地震の揺れや火山リスク、避難方法などに関する想定の甘さが指摘されてきた。電力側のデータによって立つ現状も含め、すべての原発で、審査過程の再検証が必要だろう。
 「どこまで巨費をつぎ込めば安定稼働できるのか」
 関電幹部も悲鳴を上げているというが、再生可能エネルギーが世界の主力電源になりつつある今、安全対策に無限とも思える投資をし続けてまで原発の維持を図ることにこそ、どだい無理があるのだろう。今回の司法判断は、国の原発政策そのものにも、疑問を投げかけているようだ。
 形式上審査に合格さえすれば、原発再稼働の安全性は保証されるという、国の原子力政策を根本から揺るがす判決だ。

 (社説)大飯原発許可取り消し/判決の重み受け止めよ       
                                   中國新聞 2020年12月6日

 地震列島の日本に点在する原発の安全性は確保できているのか。行司役である原子力規制委員会の審議過程に「看過しがたい過誤、欠落がある」と指摘する司法判断が示された。
 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)に対し国が与えた設置許可を巡る訴訟で、大阪地裁がおととい出した判決である。福井など11府県の住民ら約130人の訴え通り、許可を取り消した。
 東京電力福島第1原発事故の後、運転差し止めを命じた判決は全国で幾つか出された。しかし事故を受けて強化された新たな規制基準に沿った設置許可を取り消す判断は初めてである。安全審査自体に「ノー」を突き付けた意味は重い。規制委はもちろん、国や電力会社は真剣に受け止めなければならない。
 最大の争点は、耐震設計の目安となる最大規模の揺れ(基準地震動)の値や、これを基に設置を許可した規制委の判断が妥当かどうか、だった。
 関西電力は、基準地震動の最大加速度を856ガルと設定。それを規制委は適正と評価した。一方の原告は、基準地震動の算出過程で用いた過去の地震データには、平均値を大きく上回ったり下回ったりしたものなど「ばらつき」があるのに、考慮されていないと批判していた。
 判決は、基準地震動の妥当性を確認するため規制委が定めた「審査ガイド」に「ばらつき」も考慮する必要があるとの条項が、福島原発事故後に追加されたことに言及。その上で、ばらつきに絡んで、規制委が平均値への数値上乗せが必要かどうか検討せずに許可を出したとして「審査すべき点を審査していないので違法だ」と判断した。安全性をチェックすべき役割を果たしているのか懸念される。
 そもそも電力会社が算定し、政府の規制組織が「お墨付き」を与える基準地震動は、どれほど信頼できるのか。というのも2007年の新潟県中越沖地震で、東電柏崎刈羽原発を襲った揺れは、想定されていた基準地震動を大きく上回ったからだ。地震後、東電は最大2280ガルまで従来の5倍に引き上げた。
 柏崎刈羽原発だけではない。東北電力女川原発(宮城県)と北陸電力志賀原発(石川県)も想定を超す揺れに見舞われたことがある。発生後に「想定外」と弁解しても遅すぎるし、許されまい。規制委は、耐震性について最初から相当厳しいハードルを課すべきではないか。
 「自覚」が足りないのは関西電力も同じかもしれない。昨年「原発マネー」の還流疑惑が発覚。原発の立地する福井県高浜町の元助役から関西電力の役員らが巨額の金品を受け取っていた。今年は役員報酬の補填(ほてん)問題も明らかになった。消費者には電気料金引き上げで負担を強いながら減額した報酬をひそかに補填していたという。こんな役員のいる会社に、危険な放射性物質を扱う原発を運転させても大丈夫か疑問だ。信頼回復は簡単ではあるまい。
 福島第1原発事故から間もなく10年になる。事故の記憶が薄れつつある中、再稼働を推進する政府の姿勢もあって、安全性が軽視されてはいないか。政府からの独立性強化など規制委の在り方も含め、安全確保策の総点検が必要だ。新たな「安全神話」を生まないためにも。