(社説)大飯原発判決/揺らぐ規制委への信頼

                                   北海道新聞 2020年12月5日

 形式上審査に合格さえすれば、原発再稼働の安全性は保証されるという、国の原子力政策を根本から揺るがす判決だ。
 関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の耐震性を巡り、住民らが原発設置許可の取り消しを求めた訴訟の判決で、大阪地裁はきのう、原子力規制委員会の判断は違法として許可を取り消した。
 東京電力福島第1原発事故を踏まえ、原発再稼働の新規制基準が定められて以降、運転差し止めを命じた判決はあるが、許可自体を取り消す司法判断は初めてだ。
 規制委の審査に合格した原発は全国で16基に及ぶ。これらの安全性にも疑義が生じかねず、各地で行政訴訟が相次ぐ可能性もある。
 国は判決を真摯(しんし)に受け止め、規制委はより厳格に判断する仕組みを再構築すべきだ。
 大飯3、4号機の耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)について、関電は最大856ガルと設定し、規制委は2017年5月、これを適正と判断した。
 これに対し、住民側は地震規模や基準地震動が過小評価され、耐震設計は不十分と訴えていた。
 大阪地裁はこの主張を認め「規制委の判断は地震規模の想定で必要な検討をせず、看過しがたい過誤、欠落がある」と指摘した。
 判決によると、規制委が定める審査ガイドラインは過去の地震規模の「ばらつきも考慮する必要がある」としている。にもかかわらず再稼働判断は、これらを「何ら検討せず」示されたという。
 自らの内規も守れないようでは、規制委への信頼は失墜する。他の原発審査でも同様の例がないか、再検証が必要だろう。

 規制委は発足時「国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」との理念を掲げた。

 だが、ここ数年の間に、東日本大震災で被災した東北電力女川2号機(宮城県)や、東電の柏崎刈羽6、7号機(新潟県)の再稼働を認めた。稼働40年と老朽化した原発の運転も20年間延長した。
 いずれも地域住民などから安全性や事故時の避難態勢に疑問の声が出されていた。多様な意見に耳を傾けていたとは言い難い。
 安倍晋三前首相は「世界で最も厳しい水準」と繰り返し強調した。菅義偉政権もこれを踏襲する。こうした政権の後押しが、規制委審査を絶対視する新たな「安全神話」を生んではいまいか。
 福島第1事故から来年で10年がたつ。「想定外」を再び言い訳にすることは許されない。

 (社説)大飯原発設置許可取り消し 規制委は疑問受け止めよ

                               茨城新聞 2020年12月5日

 関西電力大飯原発3、4号機の耐震性を巡り、福井県などの住民らが起こした訴訟の判決で大阪地裁は、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は誤りだとして、設置許可を取り消した。
 これまでにも個々の原発の安全性を判断して運転差し止めを命じた司法判断はあったが、今回の判決は異なる重大な意味を持つ。判決が原子力規制委の審査自体に「看過し難い過誤、欠落がある」とまで断じ、規制の在り方に強い疑問符を付けたからだ。
 国が控訴すれば判決の効力は直ちに生じないが、関電は司法判断を謙虚に尊重し、運転は見合わせるべきだ。
 関電の原発は、テロ行為に対応できる「特定重大事故等対処施設」建設工事が遅れているほか、配管の傷といったトラブルなど問題だらけだという事情もある。
 東京電力福島第1原発事故以前、炉心溶融や放射性物質の大量放出などの重大事故への対策は電力会社の自主的取り組みに任されていた。事故の反省を踏まえ、国は新規制基準を2013年に施行し、以降は義務化。自然災害やテロへの対策も必須とし、独立性を高めた新たな規制当局として原子力規制委が審査に当たっている。
 規制委は今回の判決の疑問を重く受け止めなければならない。新規制基準の下、同様の計算手法で基準地震動を算出してきた多くの原発の信頼性についても影響が及ぶことは避けられない。
 国は、今後の裁判の行方にかかわらず、判決の趣旨に沿ってそれぞれの原発で本当に安全と言えるのかを再検討し、その経過と結論について住民に丁寧に説明していく責務がある。
 判決は、原発に頼った電源構成には常に「訴訟リスク」による不確定要素がつきまとうことを改めて突きつけた。
 福島第1原発事故まで、原発を巡る訴訟で裁判所は科学論争への深入りを避け「国の判断には合理性がある」といった住民敗訴の判決を繰り返してきたが、事故後に一変した。上級審で翻されるなどしたため運転禁止が確定した例はないものの、地裁レベルでは運転差し止めを認めた判決や仮処分決定が幾つもあった。
 大飯原発3、4号機を巡る14年の福井地裁判決が最初の例で、関電高浜原発3、4号機についても15年に福井地裁、16年に大津地裁が差し止めの仮処分決定をした。四国電力伊方原発3号機については広島高裁が17年に運転差し止めの仮処分決定をし、今年1月にも仮処分の即時抗告審で広島高裁が運転を認めない決定をした。
 そもそも国は、原発をどのように活用しようとしているのか。
 菅義偉首相は50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする政策目標を掲げた。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入拡大を軸にするとしつつ、原発については「原子力を含むあらゆる選択肢」と言及するにとどまった。
  政府のエネルギー基本計画がうたっている30年度の原発の発電比率20〜22%という数字は実現性に乏しいが、一向に見直されず放置されてきた。首相の意欲が本物なら、福島第1原発事故後、国民の間に高まる原子力見直しの世論に正面から向き合い、将来像を示すべきだ。

 (社説)原発許可違法 安全審査を検証せよ
                                             朝日新聞 2020年12月5日 

 原発の安全性を審査し、運転にお墨付きを与えてきた原子力規制委員会の仕事の進め方に対し、重大な疑義が突きつけられた。福島第一原発の事故後に再稼働した原発は本当に安全といえるのか。原子力行政の再点検が迫られている。
 福井県にある関西電力大飯原発3、4号機について、大阪地裁はきのう、規制委が17年に出した設置変更許可を取り消す判決を言い渡した。福島の事故後に策定された新規制基準とそれに基づく「審査ガイド」が求める検討をしていないと指摘し、「規制委の調査審議と判断の過程には看過しがたい過誤、欠落があり、不合理」と断じた。
 原発の地震対策では、電力会社が原発を襲う最大の揺れとして「基準地震動」を想定し、それを踏まえた安全対策を示して規制委に再稼働を申請する。規制委は、その想定が適切か、対策は十分かなどを審査し、新規制基準に適合すると判断すれば必要な許認可を行う。
 関電は大飯3、4号機周辺の断層の長さや幅を仮定して、そこから起こりうる地震規模を算出し、基準地震動を定めた。
 これに対し、近隣府県の住民らが疑問を投げかけた。関電が示した地震規模は平均値でしかない。審査ガイドは「ばらつきも考慮されている必要がある」と明記しており、実際の地震はもっと高い値になることも想定される。関電の数字をそのまま受け入れた規制委の許可は違法だ――と主張した。
 国側は「関電は余裕をもって計算しており、あえて『ばらつき』を考慮する必要はない」などと反論したが、判決は住民側の主張に軍配をあげた。福島の事故後、規制委が自ら審査ガイドに「ばらつき」条項を追加した経緯を踏まえ、決められた手続きに忠実・厳格であるよう求めたといえる。
 規制委は判決を踏まえ、まず大飯3、4号機の審査過程を検証する必要がある。また他の原発に関する審査でも、同様の不備があった可能性がある。そうした原発の周辺に住む人々に不安が広がることも予想される。真摯(しんし)な対応を求める。
 大飯3、4号機は定期検査中でいまは稼働していないが、関電が運転の再開を急いではならないのは当然である。
 福島の例を引くまでもなく、地震や津波、火山噴火など、想定を上回る規模の災害が襲ってくる恐れは常にある。だからこそ、万が一にも事故があってはならない原発については、安全側に立って基準を定め、それに基づいて審査や規制に当たらなければならない。再稼働を進める政権は、この原則をいま一度胸に刻むべきだ。

  (主張)原発許可取り消し/実態無視の異様な判決だ
                                             産経新聞 2020年12月5日

 大阪地裁が4日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の原子炉設置変更許可を取り消した。
 原子力規制委員会の安全審査に過誤があるとして、福井県などの住民が国に対して求めた請求を認めたものだ。
 原子炉の設置許可は、原発存立の根本に関わる事項である。
 国が控訴して当然の前代未聞の判決である。
 判決のポイントは、平成23年の東京電力福島第1原発の過酷事故を踏まえて設置された原子力規制委員会が両機に対して行った耐震性の審査のプロセスに不合理な点があるとしている点だ。
 「規制委の調査審議および判断の過程には、看過しがたい過誤、欠落があるものというべきである」と断じている。
 具体的には、原発の敷地における地震の揺れを推定する計算式の用い方に対してのクレームだ。
 計算式から求められる解は、地震動の平均値であって、それを上回る揺れのばらつきの評価などが必要であるのに、それが欠落した規制委の検討は「審査すべき点を審査していないので違法である」と強い調子で論難している。
 だが、裁判長は原発の安全対策の基礎となる基準地震動の算定に当たって規制委が関電をはじめとする電力会社に求める厳しい要請を軽視していないか。
 規制委は電力会社が提示する断層の長さなどについて、より大きい地震動が推定されるように拡大設定を指示するのが常である。
 揺れのばらつき幅を包含する、さらなる安全重視の姿勢に立った慎重な審査がなされているとみるべきだろう。この現実から目をそらせた判決は問題だ。
 最高裁は平成4年、伊方原発訴訟の上級審判決で安全基準の適合性について「科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う行政側の合理的判断に委ねると解するのが相当である」との見解を示している。
 今回の大阪地裁判決は、原発の安全性そのものではなく、規制委という行政側の判断の瑕疵(かし)の有無に焦点を絞ったものだが、最高裁の考えの恣意(しい)的な否定と言わざるを得ない。
 近年の原発訴訟からは「司法リスク」という言葉が生まれている。原発の活用に当たって国が明確な姿勢を示すことが必要だ。

 (社説)大飯原発許可取り消し/指弾された規制委の姿勢
                                             毎日新聞 2020年12月5日

 福井県の関西電力大飯原発3、4号機について、設置許可を取り消す判決を大阪地裁が出した。東京電力福島第1原発事故以降、国の設置許可が取り消されたのは初めてだ。
 耐震設計の目安になる「基準地震動」の妥当性が焦点だった。原発で想定される最大の揺れだ。過去の地震データの平均値に基づいて算定されている。
 原子力規制委員会が定めた審査ガイドは平均値だけでなく、データの「ばらつき」も考慮するよう求めている。
 しかし、関西電力は、3、4号機について、平均値を超える可能性を算定に反映させる「上乗せ」をしていなかった。平均値では過小評価になると原告側は主張していた。
 判決は、規制委が上乗せの必要性について検討していなかったことを「看過しがたい過誤や欠落」と指弾した。2017年5月に出した設置許可は不合理であり違法であると結論付けた。
 福島原発事故を経験し、規制委は原発の再稼働を認めるための新規制基準を策定した。当時の田中俊一委員長は「世界最高レベルの厳しさ」と自負した。
 だが大阪地裁は、規制委が自ら作ったルールを守っていないと厳しく批判した。
 大飯3、4号機は現在、定期検査中で稼働していない。国側は控訴するとみられ、直ちに判決が確定するわけではない。
 しかし、国内の原発の大半は大飯原発と同様の方式で基準地震動が算定されている。判決が確定すれば、規制委は審査のやり直しを求められるのは必至だ。
 規制委は、福島原発事故の教訓から原発の安全性や信頼を回復する責任を負ってきた。今回の判決は、安全審査にあたっての取り組みが不十分であることを明らかにした。規制委は重く受け止めるべきだ。
 福島事故後、原発の運転を差し止める司法判断が相次いでいる。ただ、運転停止が確定したケースはない。
 規制委は教訓を忘れず、安全性の向上を絶えず追求しなければならない。そうしなければ、原発に対する国民の信頼を取り戻すことはできない。