連載原発のたたみ方 15
  広大敷地に廃炉施設着々

                                  毎日新聞 2020年12月24日

2021年3月に稼働する予定の伐採木などの廃棄物の焼却施設=東京電力福島第1原発で(東電提供)

 東京電力福島第1原発の敷地内では、廃炉に向けさまざまな施設が整備されようとしている。しかし、そのための敷地の確保は課題の一つで、増え続ける汚染処理水をためるタンクの増設スペースがないほどだ。敷地の活用状況は、どうなっているのか。

東電福島、タンク増設困難
 汚染処理水のタンクが建ち並ぶ福島第1原発。東電は今月、1047基目のタンクの設置を終えた。増設を求める声はあったが、東電の担当者は「廃炉作業を考慮すると難しい」と説明する。
 実際、敷地内の空き地はどのように活用されようとしているのか。福島第1原発の敷地は福島県大熊町と双葉町にまたがり、このうち1~4号機がある大熊町側の西端には、7万平方メートルほどの空き地があった。タンク約330基分に相当する。現在、そこに建設されているのは、2棟の建物からなる「大熊分析・研究センター」だ。
 「第1棟」は3階建て。がれきなど低線量の放射性廃棄物を分析する施設になる。建物はほぼ完成しており、2021年6月ごろに稼働する予定だ。分析施設のうち「第2棟」は地上2階、地下1階建てで、24年ごろから原子炉内で溶け落ちた「燃料デブリ」を分析することになっている。
 11年3月の原発事故で核燃料が溶け落ちた時、核燃料を覆っていた金属製のカバーや、炉心の出力をコントロールする制御棒、建屋床面のコンクリートなども溶けて核燃料と混ざり合った。その後これらが固まったのが燃料デブリだ。強い放射線を発し、硬さは塊の場所によって異なるとみられる。東電が19年に2号機の内部で燃料デブリ付近を調べたところ、放射線量は最大で毎時43シーベルトに上った。
 このため「第2棟」には、強い放射線を遮れるよう厚さ約1メートルの分厚いコンクリートで覆われ、遠隔操作で燃料デブリを取り扱える部屋「ホットセル」がある。こうした部屋を備えている施設は、国内にはほとんどないという。

 ●デブリを分析
 ホットセルでは運び込まれた燃料デブリを切断、研磨して必要な大きさに加工した後、溶かして放射性物質を分離することができる。取り出された燃料デブリを将来、保管したり処分したりするため、燃料デブリの硬さや成分、放射線量などの特徴を詳しく調べる。
 東電には、使用済み核燃料を詳しく分析した経験はなく、分析施設を運営するノウハウも持っていなかった。このため、大熊分析・研究センターの建設と運営は、こうしたノウハウのある日本原子力研究開発機構(本部・茨城県東海村)が担う。東電は保守管理を受け持つ。
 廃炉作業や放射性廃棄物の処分に詳しい佐藤勇・東京都市大教授(核燃料工学)は「ホットセルでの作業は、技術的な習熟が不可欠になる。いざ燃料デブリの分析となれば、原子力機構も人材をかき集めなければならないだろう。人材養成も急務だ」と指摘する。
 東電は、2号機から燃料デブリを取り出す計画を立てている。最初は数グラムを試験的に取り出し、「第2棟」が稼働するまでは茨城県内の原子力機構の施設で分析することを考えている。
 東電の分析・研究施設PJグループの東坂淳グループマネジャーは「放射性物質を敷地の外に運ぶのは非常に厳しい法的規制がかかる。輸送の時間や核物質を守る観点を考慮すると、敷地内での分析が望ましい」と話す。
 一方、5、6号機がある双葉町側の敷地でも、廃炉関連の施設の整備が進む。
 敷地内には、放射性物質による汚染のために伐採された木が、あちこちに積まれたままになっていた。その伐採木を燃やす廃棄物焼却設備が21年3月に完成する見込みだ。燃やした時の排気で放射性物質が大気中に広がらないよう、特殊なフィルターが付いている。その近くには、汚染されたがれきなど放射性廃棄物を切断処理したり、一時的に貯蔵したりする施設も計画されている。

 ●さらに廃液保管も
 ほかにも、東電は廃炉作業のために、燃料デブリを取り出す装置を遠隔操作する作業員の訓練のための施設や、燃料デブリを取り出す資機材を保管する施設などの設置を検討している。
 今後、使用済み核燃料や燃料デブリの取り出しが進めば、それらに対応するため、さらなる敷地が必要になってくる。東電は「使用済み核燃料を一時的に保管する施設用に約2万1000平方メートル、燃料デブリを一時的に保管する施設用に最大約6万平方メートル、合わせて約8万1000平方メートルの敷地が必要」と試算している。汚染処理水のタンク約380基の設置が可能な広さに相当する。
 こうした状況を受け、東電は古い型のタンクを解体した跡地を活用するなどして、この敷地を確保しようとしている。それでも足りない分をどう確保するかは、これから検討していくことになる。
 一方、燃料デブリを溶かして分析するので放射性物質の濃度が高い廃液が生じるが、これも敷地内に保管することになる。強い放射線を放つため、通常のがれきや資材のように処分はできないが、処分方法は決まっていない。
 東京都市大の佐藤教授は「限られた敷地の利用計画について、東電や国は地元も含めてきちんと公開の場で議論し、その過程を見えるようにしていくべきだ」と指摘している。【塚本恒】