(社説)土砂投入2年 理なき沖縄政策改めよ

                                  朝日新聞 2020年12月15日

 「沖縄の皆さんの心に寄り添いながら(負担軽減の)取り組みを進めて参ります」。先の臨時国会の所信表明演説で、菅首相はそう述べた。
 安倍前首相も「寄り添う」を何度も口にしたが、言葉だけとの批判が相次ぎ、やがて使うのをやめた。それを知る菅氏があえて持ち出した以上、何らかの変化があるのではないか――。だが就任から3カ月弱、そんな淡い期待は打ち砕かれた。
 辺野古の工事は民意を踏みにじったまま進み、きのうで土砂投入から2年が過ぎた。来年9月までに予定面積の4分の1の埋め立てを終える計画だ。
 だが投入された土砂の量は、この11月末時点で4%に満たない。水深が深く、マヨネーズ並みとされる軟弱地盤が広がる海域が手つかずだからだ。国の試算でも完工までに12年、1兆円近い費用が見込まれ、米国の著名なシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は、先月発表した報告書で「完成する可能性は低い」と分析している。
 辺野古の新基地計画は本当に理にかなうものなのか。利害やメンツにとらわれず、冷静に検討する必要がある。
 政府は安全保障上不可欠だという。だが近年、中国のミサイル能力の向上を受け、沖縄に基地を集中させることへの懸念が国内外に広がる。海兵隊の戦術の見直しも進行中で、来月にはバイデン政権が発足する。時代に適合し、将来を見すえた安保戦略を練り直さねばならない。
 「寄り添う」発言のまやかしは、辺野古問題の出発点である米軍普天間飛行場の運用をめぐっても露呈している。
 沖縄防衛局によると、同飛行場での航空機の離着陸回数は、嘉手納基地の一部が工事で使えなかったなどの事情はあるが、17年度の1万3581回から19年度は1万6848回と25%近く増えた。学校や保育園の上空を飛ぶ姿も再三確認され、部品落下などの事故が絶えない。
 「普天間の運用を19年2月までに停止する」という政府の約束もほごにされた。県は新たな期限の設定を求めたが、岸信夫防衛相は先月、「辺野古移設への地元の理解・協力が大前提」と取りあわなかった。政府による地盤調査の不備、情報隠し、県民の神経を逆なでする強権措置を棚に上げて、沖縄側に非があるといわんばかりの態度は許されるものではない。
 普天間の危険性除去という原点に立ち、訓練の分散・移転や飛行ルールの厳守、事故の再発防止を米国に申し入れて実現させる。「沖縄の心に寄り添う」とはそういうことだ。国民の代表が集う国会で言明したことを首相は確実に実践してほしい。