連載原発のたたみ方 14
 「再処理」稼働25年、廃止に70年 
 
                                           毎日新聞 2020年11月26日

 原発で使った核燃料をリサイクルする「再処理工場」。日本で初めて稼働した茨城県東海村の施設では廃止作業が進む。2007年まで約25年稼働したが、廃止作業には3倍の時間がかかるとみられている。その理由を記者が探った。

東海村工場、費用も膨大

 日本原子力発電の東海第2原発をはじめ、東海村の海沿いには多くの原子力施設が並ぶ。その中にある日本原子力研究開発機構の「東海再処理施設」は1981年に稼働を始めた。
 この施設が建設されたのは、核燃料をリサイクルする「核燃料サイクル政策」を国が推し進める上で、使用済み核燃料から再利用できるプルトニウムを取り出す技術を確立するためだった。各原発などから使用済み核燃料を計1180トン受け入れた。プルトニウムを取り出すと高レベルの放射性廃液が生じるので、ガラスに閉じ込めて核のごみにする「ガラス固化」の技術開発もしていた。 しかし、11年の東京電力福島第1原発事故に伴い、安全対策の強化を迫られた。稼働し続けるには1000億円以上とみられる対策費が必要なことから、原子力機構は経済性を考慮して廃止を決めた。

 18年から廃止作業を進めながら、施設内の機器類を解体するための研究や技術開発もしている。再処理施設の名称は、今は「再処理廃止措置技術開発センター」に変わっている。
 10月末、記者が現場を訪れた。センター内の中心施設に入るまで、身分証チェックの門を3度くぐらなければならなかった。使用済み核燃料から取り出されるプルトニウムは、核爆弾にも転用可能だ。原子力機構のセキュリティー担当者は「セキュリティー対策が入念で、通常の原子力施設より1段多くチェックしています」と教えてくれた。
                         廃止作業中の東海再処理施設=日本原子力研究開発機構提供

 ●まず廃液のガラス固化
 18年に廃止計画がスタートしたとはいえ、本格的な作業が始まるのは10年後の28年ごろの予定だ。というのも、施設内にはまだ、高レベルの放射性廃液が約36万リットルも残っている。
 まずはこの廃液すべてをガラスで固めなければならない。「そのために、廃液の貯蔵やガラス固化をする施設だけは最低限の安全対策が必要で、その工事を進めている段階です」。原子力機構の中野貴文・廃止措置推進室室長代理は、そう説明した。耐震のために想定する最大の地震の揺れ「基準地震動」は約1・5倍に引き上げることにした。
 津波対策は防潮堤ではなく、施設出入り口に設ける海水流入の防止装置や漂流物を食い止める防護柵になる。取材時は、廃液を貯蔵している建物周辺で作業員がショベルカーを使って土を掘り返し、地盤の補強工事をしている最中だった。
 しかし、安全対策工事や廃液のガラス固化などが、約10年で終わるか未知数だ。廃液を溶かしたガラスと混ぜて固める「溶融炉」は故障中だ。復旧させても、約1200度という高温で使い続けると消耗が激しく、残った廃液をすべてガラスで固めるには溶融炉の造り替えが必要になってくる。

 ●ロボット開発これから
 廃液のガラス固化が終わると、本格的な廃止作業の段階に入り、主要施設の除染や機器類を解体する。廃止計画では、28年ごろから約20年かける予定だ。ここでも、再処理工場ならではの壁が立ちはだかる。
 原発で使い終わった核燃料は、放射性物質が外に漏れ出さないよう、燃料ケースの中に閉じ込められている。再処理工場ではケースごと裁断し、薬液に混ぜてプルトニウムやウランなど再利用できる放射性物質を取り出す。残りが廃液となる。 工場内は放射線量が高くて人が近づけず、作業は全て遠隔操作で実施。機器類には、作業の時に飛び散った放射性物質があちこちに付いている。そのため、どこにどんな放射性物質がどのくらい付着しているか、分析から始めなければならない。まずは分析技術の確立と、高線量下で作業するロボットの開発などをしていく。
 主要施設の除染や機器類の解体が終わると、最後の段階になる。機器類の解体などの時に生じた低レベル放射性廃棄物をセメントで固めたり、関連施設の廃止作業をしたりする。さらに、約40年かかる見通しだ。
 原子力機構は廃止作業が終わるまで計70年かかると見ており、完了は2088年ごろと計画している。かかる費用は9900億円にも上り、すべて税金でまかなわれる。原子力規制委員会の事務局を担う原子力規制庁の幹部は「ガラス固化はトラブルが相次いでおり、溶融炉の建設や解体にも相当の労力がいる。こうした懸念を考えると、100年以上かかってもおかしくない」と話す。
 加えて、ガラス固化された核のごみは持って行く場がなく、最終処分場はこれから決める。その上、機器類の解体などで生じた廃棄物のうちプルトニウムなどが付着したものは、処分方法が具体的に決まっていない。NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸共同代表は「再処理施設の廃止作業には、後先考えずに核燃料サイクル政策を推し進めた矛盾が浮かび上がっている」と指摘する。
 
見通しが立っているとは言いがたい再処理施設の廃止作業。技術が確立されないまま、青森県六ケ所村では日本原燃が再処理工場の本格的な稼働を目指している。【荒木涼子】