(社説)女川原発 再稼働の同意なぜ急ぐ
                                             2020年11月11日 朝日新聞

 東北電力の女川原子力発電所2号機について、再稼働に向けた「地元同意」を、宮城県の村井嘉浩知事がきょうにも表明する見通しだ。東日本大震災で被災した原発としては初の再稼働手続きである。なぜそれほど急ぐのか。疑問がぬぐえない。
 東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型炉の女川原発は震災で、原子炉建屋の地盤まで80センチに迫る高さ13メートルの津波に見舞われ、2号機を冷やす設備が浸水するなど重大事故寸前だった。東北電は、津波の想定を23・1メートルに引き上げ、耐震性も高めることにした。
 原子力規制委員会の6年余りの審査を経て、新規制基準に適合すると認められたのが今年2月末。直後に資源エネルギー庁長官が県を訪れて再稼働に同意するよう要請した。4月、東北電は、規制委の審査で必要になった追加の安全対策に時間がかかるとして、工事完了が予定より2年遅い2022年度内にずれ込むと発表したが、同意への流れは止まらなかった。
 原発がある2市町のうち女川町では9月、町議会が再稼働に賛成する陳情を採択。もう一つの石巻市は半月後、市長が再稼働に同意する考えを表明した。県議会も10月、再稼働賛成の請願を採択する形で早期の再稼働を「容認」。村井知事はおととい、県内の全市町村長の意見を聴く会も開いた。
 地元が再稼働への同意に傾くのは、地域経済と原発の結びつきが強い面があるからだろう。しかし、県内には不安の声も根強く残る。
 女川原発は牡鹿(おしか)半島の付け根近くにあり、万一の際には、半島の住民の多くが原発近くを通る道路で避難することになる。津波などに襲われれば、海岸近くでは通行できなくなる恐れもある。実際、昨年の台風19号では主要道路が冠水するなどして17時間、通行できなくなった。
 避難道路の整備が課題として残っていることは、政府や東北電も認める。地元は国道バイパスの整備などを県や政府に要望しているが、予算化の見通しは立っていない。
 菅首相は今国会で「しっかりとした避難計画のない中で、再稼働が実態として進むことはない」と答弁した。ならば今の女川も、再稼働の手続きを進められるはずがない。工事完了までの2年間に、実効性ある避難計画を作り上げるのが先決だ。
 女川2号機の安全工事費は共用施設も含め3400億円と、すでに再稼働した原発より1基当たり1千億円以上かかると見積もられている。プレート境界付近にあり、地震や津波のリスクが高いためだ。この事実からも目をそらすべきではない。

  (社説) 女川原発再稼働 不安が拭えぬ知事同意
                                  2020年11月12日 北海道新聞

 宮城県の村井嘉浩知事がきのう、東北電力女川原発2号機(女川町、石巻市)の再稼働を認める地元同意を表明した。
 知事の判断を受け2022年度以降に運転再開する見通しだ。地元同意は東日本大震災の被災原発では初めてで、東京電力福島第1と同じ沸騰水型でも全国初だ。
 福島事故から10年もたっていない。同じ被災地として地域住民が不安に思うのは無理もない。
 これまでに県議会は再稼働の住民投票条例案を否決し、重大事故時の広域避難計画にも疑問が出たが、県は解消しないままだ。
 性急な知事の判断は理解に苦しむ。県民と向き合おうとしない姿勢は地域に禍根を残すだろう。
 村井知事は地元2市町長との会談後、「原発には優れた電力の安定供給性があり、地域経済の発展にも寄与する」と述べた。
 女川2号機は震災時、原子炉建屋地下に浸水したほか、外部電源喪失の恐れもあった。国会の事故調査委員会は、事故を免れたのは「単なる幸運」としている。
 国内原発で最も高い29メートルの防潮堤や蓄電池整備などの安全対策を講じることで、原子力規制委員会は2月に審査合格を与えた。
 広域避難計画は福島事故を受け、対象を原発の半径30キロ圏に広げた。住民は7市町約20万人に及ぶ。計画では車で圏外に避難するが、周辺は山が迫るリアス海岸で道路は曲がりくねり、幅が狭い。
 計画通りでも移動に6時間ほどかかり渋滞も予想される。国は住民説明会で「訓練などを通じて実効性を高める」と述べるのみだ。
 計画への懸念は県議会で再稼働賛成派からも指摘された。30キロ圏内の町長からは「避難道路の整備など課題が山積している」との声が出る。これでは再稼働を検討する以前の問題だろう。
 東北地方は秋田県に国内有数の洋上風力が集積し多様な電源構成が進む。電力は不足していない。
 山形県の吉村美栄子知事は「隣県への影響に十分配慮してほしい」と注文を付けた。当然だ。
 地元同意の流れは、9月に女川町議会が容認したことで加速した。商工団体などが再稼働の陳情を提出したのがきっかけだ。地域経済はサンマ漁不振にあえぐ。
 後志管内神恵内村が高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を受け入れた経緯と酷似する。
 新型コロナ禍で地域の疲弊は進む。そこにつけ入るかのような原子力行政の手法は許されない。

  (社説)女川原発同意/再稼働の歩みを着実に進めよ
                                     2020年11月12日 読売新聞

 東北電力女川原子力発電所が再稼働に大きく近づいた。政府は他の原発についても、安全性を確認しながら、一歩ずつ再稼働を進めるべきだ。
 宮城県の村井嘉浩知事は、地元の女川町長、石巻市長との3者会談に臨み、女川原発2号機の再稼働に同意する考えを表明した。県議会や市町議会などの意向も踏まえ、丁寧に意見を集約したことは、評価に値しよう。
 東北電力は、安全工事が終わる2022年度以降の再稼働を目指す。地元の同意を得たのは、東日本大震災の被災地では初めてだ。電力を安定的に供給するという観点でも、意義は小さくない。
 女川原発は震災後、様々な安全対策を講じてきた。海抜29メートルの防潮堤を造り、電源車の配備や耐震工事も進めている。これらの積み重ねが認められ、原子力規制委員会の安全審査に合格した。
 ただ、原発周辺のリアス式海岸では、狭く曲がりくねった道路が多い。万一、事故が起きた場合、円滑に避難できるか不安に感じる住民もいるという。国は自治体と協力し、避難対策の改善を続けていくことが大切だ。
 菅首相は、50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げた。太陽光などの再生可能エネルギーは、出力が安定しないという弱点がある。二酸化炭素を排出せず、電力を安定供給できる原発の重要性は増している。
 その一方、原発の再稼働は、18年6月の玄海原発4号機(佐賀県)以来、途絶えている。東京電力福島第一原発事故後、廃炉が決まったものを除く33基のうち、再稼働にこぎ着けたのは9基のみだ。
 柏崎刈羽原発(新潟県)や日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)は、規制委の安全審査を通過したものの、地元の同意を得られるめどが立っていない。
 女川原発は、福島第一原発と同程度の津波に見舞われたが、敷地が海抜14・8メートルの高さだったため、主要施設は浸水を免れた。津波で家を失った住民が敷地内で避難生活を送った時期もある。
 こうした経緯もあり、原発は住民生活や地元経済に欠かせない存在になっていた。他の原発についても、再稼働に向けて、住民の理解を得るための地道な取り組みを続ける必要がある。
 海外では、原子力技術を積極的に活用し、最新式小型炉などの開発にも余念がない。日本は、原子力を温暖化対策や産業競争力強化の有効な手段ととらえ、戦略的に活用していく姿勢が重要だ。


 (主張) 女川原発の同意 グリーン社会への弾みに
                                                2020年11月12日 産経新聞

 東北電力女川原子力発電所2号機(沸騰水型・出力82.5万キロワット)の再稼働が確実になった。
 同機は今年2月、原子力規制委員会によって新規制基準への適合性が認められている。それに加えて立地自治体の女川町、石巻市と宮城県の各首長による3者会談で11日、懸案の地元同意が表明されたためである。
 女川原発では防潮堤建設などの安全対策工事が続いており、運転再開は2年以上先になりそうだが、東日本大震災の津波で被災した原発の再稼働が視野に入ったのは初めてのことである。
 地元同意には、原発による地域経済の活性化を求める地元の声が後押しした部分が大きく、その点が特筆に値しよう。
 菅義偉首相は2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を宣言しているが、原発の再稼働は9基止まりで足踏み状態だ。
 脱炭素と電力の大量安定供給を両立させ得る原発の再稼働が続かなければ、50年の目標どころか「パリ協定」で世界に公約している30年度時点での26%削減の達成さえもおぼつかない。
 それには全17基が停止したままの沸騰水型原発の再稼働促進が必要だ。沸騰水型原発は、大事故を起こした福島第1原発と同タイプということもあって安全審査が遅れがちだった。その意味でも女川2号機の再稼働に確かな展望を開いた地元同意の意義は大きい。
 沸騰水型の安全審査では、日本原子力発電・東海第2原発(茨城県)と東京電力・柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の方が進捗(しんちょく)していたのだが、地元同意の壁が再稼働の前に立ちはだかっている状態だ。
 今回の女川2号機への地元の温かい反応が、これら3基の原発の膠着(こうちゃく)状態打開への触媒となることを期待したい。日本の東半分に多い沸騰水型の再稼働は「西高東低」になっている原子力発電のアンバランスの是正にも働く。
 世界の潮流はコロナ禍で冷え込んだ経済の回復と地球温暖化防止の両立を目指すグリーン社会への移行である。原子力発電はその実現に欠かせない。
 女川原発は9年前の大震災で震源に最も近い原発だったが、激烈な揺れにも巨大津波にも負けなかった。その事実をいま一度、思い起こしたい。

 (社説)女川再稼働に同意/事故の不安除く責務は残る
                                     2020年11月12日 河北新聞

 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に同意する考えを、村井嘉浩宮城県知事がきのう表明した。立地自治体の女川町、石巻市の首長との3者協議を行い、結論を出した。
 梶山弘志経済産業相に来週伝えるという。再稼働の前提となる「地元同意」手続きが終わることになる。
 東日本大震災で被災した原発の再稼働同意は初めてだ。女川2号機は過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉で、この型でも国内初となる。
 河北新報社が3月に行った世論調査で「安全性に不安がある」として6割の県民が再稼働に反対している。他にも避難計画の実効性などに懸念の声が強い。課題が解消されないまま、同意に踏み切ったことは残念でならない。
 東北電は安全対策工事が終わる2022年度以降の再稼働を目指す。県にはそれまでに最低限、事故の際の避難道路整備のめどを付け、不安を取り除くことが求められる。
 村井知事は県議会が再稼働の賛成請願を採択したのを受け、県内全首長の意見を聴く市町村長会議を9日に開いた上で3者協議に臨んだ。
 地元同意の当事者について法的な規定はない。知事は県と立地2市町の3者で十分との考えだ。
 ただ前述の世論調査で、3者が適切とする回答は7.6%にすぎない。最も多かったのは「県と県内全ての自治体」で6割に上り、3者に原発から半径30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)の5市町(登米市、東松島市、涌谷町、美里町、南三陸町)を加えた範囲としたのが3割だった。
 原発事故が起きれば被害は広範囲に及ぶ。風評被害や古里に住めなくなることさえあることは、福島第1原発事故で目の当たりにしている。
 立地自治体以外の住民が同意の権利を持ちたいと思うのは当然だ。特に事故の影響が大きいと予想される30キロ圏内の5市町には切実だろう。
 市町村長会議は住民の不安を代弁する機会だった。
 5市町の首長で再稼働反対を明言したのは1人だけ。会議で懸念を示す複数の声も出たが、知事と2市町長の判断に委ねることになった。
 無論、2市町への遠慮があっただろう。しかし、住民の負託を受けた首長のあるべき態度とは言えまい。
 日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)は立地する東海村に加え、水戸市など周辺5市からも実質的に了解が必要とする安全協定を締結した例がある。
 村井知事も「地元同意の範囲は国が決めるべきだ」と述べている。
 震災を教訓に避難計画策定を義務付ける範囲を立地自治体に加え、半径30キロ圏の自治体に広げたのは国自身である。整合性を取るためにも、国は地元同意の範囲を広げる法整備をするべきだ。