検証
  行き場ないMOX燃料 伊方原発で初取り出し 長期保管、危険性高く
                                毎日新聞2020115

  四国電力は14日、定期検査中の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)で、使用済み核燃料の交換・保管作業を公開した。ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電で、本格的な営業運転後初めて、使用済みMOX燃料を取り出した。政府は使用済みMOXの再利用を目指すが、実用化は不透明で行き場がない。当面は3号機の使用済み核燃料プールで長期保管される。
 14日午前、伊方原発3号機の原子炉建屋。作業員がクレーンを操作すると、長さ約4・1メートル、重さ約700キロの細長い核燃料が炉心から1体ずつ引き抜かれ、建屋内のプールに移されていった。
 四電によると、13日夜に取り出し作業を開始。16日までに使用済みMOX16体を取り出し、3月上旬に新しい5体を装着する予定だ。取り出した使用済みMOXを十数年程度、このプールで冷まし続ける。
 しかし、プールでの保管が長期化することに原子力規制委員会は懸念を示す。2011年の東京電力福島第1原発事故の時のように停電になると水温を維持できず、冷却できなくなる恐れがあるからだ。更田(ふけた)豊志委員長は「安全上の観点から言えば、いたずらに多くの(使用済みMOXの)集合体が保管される状態というのは好ましくない」と話す。
 その上、使用済みMOXの発熱量は使用済み核燃料の約3~5倍になる。このため、冷却装置の故障など事故やトラブルがあれば、危険性は使用済み核燃料より高くなる。
 にもかかわらず、ある電力会社の社員は「使用済みMOXを冷やした後のことまでまだ考えが及んでいない」と打ち明ける。使用済み核燃料の再利用は進んでおらず、どの原発でもプールは既に使用済み核燃料で満杯に近い状態。電力各社は保管に苦心している。

 電力会社大手でつくる電気事業連合会は、各原発の計16~18基でMOX燃料を使うプルサーマル発電をする方針を示している。これまでに東電柏崎刈羽3号機や中部電力浜岡4号機などでプルサーマル発電を予定、計画していた。ただ、福島第1原発事故が影響し、現在までにプルサーマル発電をする原発が再稼働したのは、伊方のほか、関西電力高浜3、4号機(福井県)と九州電力玄海3号機(佐賀県)の計4基しかない。
 今後、プルサーマル発電が進めば、使用済みMOXも増える。だが、各社はプールに保管スペースを確保するため、空気で冷やす「乾式貯蔵」施設に発熱量が下がった使用済み核燃料を移すなどして対応するのが精いっぱいになっている。【中川祐一、木島諒子】

 技術、費用に難題だらけ 「使用済み」の再利用
 政府は「資源を有効利用する」として、使用済みMOXをさらにMOX燃料に加工して再利用することを目指している。使用済み核燃料や使用済みMOXを核のごみとして直接処分することになれば、核燃料の再利用を前提とする原子力政策が揺らぐからだ。
 現在も使用済みMOXから再利用できる核物質の取り出しに取り組んでいるのは、日本とフランスの2カ国。経済産業省資源エネルギー庁は19年度から24年度まで、使用済みMOXの再利用に関係する基礎研究に予算を付けることにしており19、20年度で計14億円を計上している。
 しかし、日仏とも取り組みは試験的な程度にとどまる。「実用化できるほどの研究実績はまだない」(日本原子力研究開発機構の担当者)と、技術開発の先行きは不透明だという。政府のエネルギー基本計画でも「技術の動向などを踏まえながら、研究開発に取り組む」という説明にとどまる。
 仮に再利用の技術開発が順調に進んでも、各原発の再稼働が進まない中、事業化の費用がまかなわれない可能性もある。使用済み核燃料の再利用だけでも多大な費用がかかるためだ。
 使用済み核燃料や使用済みMOXを加工してMOX燃料にする事業費は、各原発で燃料を使い終わる度に、量に応じて電力各社が支払うことにしている。使用済み核燃料から再利用できる核物質を取り出す再処理工場は、日本原燃が青森県六ケ所村に建設中で、完成してから約40年間の事業費やその後の廃炉費用などは計9兆円ほどと試算されている。
 だが、これまでに集められた資金は3兆円余り。再処理工場の地元では使用済みMOXの取り扱いを認めておらず、新たな別の再処理工場が必要になることから、さらに費用はかさむ。
エネ庁の担当者は「日本では再処理できていない使用済み核燃料が約1万9000トンあり、そのうちMOX燃料への加工分の再処理が先になる。使用済みMOXは微々たるもので再利用の検討は急いでいない」と話す。
 三菱総合研究所によると、日本を含めてこれまでプルサーマル発電をしてきたのはベルギーなど10カ国。今も実施しているのは仏など6カ国だけだ。そのうち、ドイツとスイスは原発から撤退する方針を示している。
 プルサーマル発電に必要なMOX燃料を作る工場があるのは仏のみ。日本など各国は仏に加工を任せている。英国にもあったが、福島第1原発事故後は唯一の大口顧客だった日本の原発がほとんど再稼働しなくなり、商業的な見通しが立たないことから閉鎖された。
 長崎大核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎・副センター長は「日本の原子力政策は見直しの時期に来ている。使用済み核燃料の貯蔵の仕方や使用済み核燃料を直接核のごみとして処分する制度など、これらの議論を始めることが望ましい」と指摘した。【荒木涼子、岩間理紀、斎藤有香】

 ■ことば
 MOX燃料とプルサーマル発電
 使用済み核燃料に化学的な処理をしてプルトニウムなど再利用できる核物質を取り出し、ウランを混ぜて加工した酸化物による燃料。MOX燃料を使った発電がプルサーマル発電になる。核燃料の再利用を通じて出た大量のプルトニウムは核兵器への転用が各国から懸念され、政府はプルサーマル発電で消費するとしている。