(社説)沖縄3区補選 「辺野古が唯一」脱せよ
                           2019年4月22日       朝日新聞 

 政府がむき出しの力で抑えつけようとしても、決して屈しないし、あきらめない。県民のそんな思いが改めて示された。注目の衆院沖縄3区補選は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設反対をかかげる屋良朝博(やらともひろ)氏が、安倍政権が推した元沖縄北方相・島尻安伊子氏を破って当選した。昨秋の知事選で、政権側の候補は移設の是非を語らない「辺野古隠し」に徹し、批判を浴びた。島尻氏は今回、普天間の危険性を取り除くためだとして容認姿勢を明確にしたうえで、経済振興策などを訴えた。だが有権者には届かなかった。

 当然の結果ではないか。
 2月の県民投票では、辺野古の海の埋め立てに反対する票が7割以上を占めた。しかし政権は一顧だにせず、3月下旬には新たな海域への土砂投入を始めた。3区の有権者を対象に朝日新聞などが実施した世論調査では、68%が政権の姿勢を「評価しない」と回答。参院選を前にした重要な補選だというのに、首相は応援のために現地に入ることすらできなかった。

 いったい政権は、この問題にどんな展望を持っているのか。
 埋め立て予定海域に軟弱地盤が広がっていることが明らかになった。工事は可能なのか。完成はいつで、事業費はどこまで膨らむのか。政権は具体的な説明をほとんどしていない。はっきりしているのは、当面できる作業を急ぎ、既成事実を積み上げるのに躍起な姿だけだ。

 民意と政権の乖離(かいり)が目立つのは辺野古だけではない。
 沖縄3区には名護市や沖縄市などのほか、米軍北部訓練場を抱える地域も含まれる。16年末に同訓練場の半分にあたる約4千ヘクタールの土地が返還された。ー着陸帯近くの住民は、激しい騒音や事故の不安に悩まされている。普天間と辺野古の関係と同じで、たらい回しでは真の負担軽減にはならないことを、県民は間近な例を通して熟知している。
 玉城デニー知事は就任以来、政府に対し、工事を一時やめて話し合うよう繰り返し求めてきた。だが、かたくなな姿勢は変わらず、今月10日に普天間飛行場の地元宜野湾市長も交えて2年9カ月ぶりに開かれた「負担軽減推進会議」でも、大きな進展は見られなかった。 補選で当選した屋良氏は、記者や研究者として基地問題に取り組み、米海兵隊の運用見直しや普天間の機能分散を提案してきた。政府はそうした見解にも誠実に耳を傾け、今度こそ「辺野古が唯一」の思考停止状態から脱しなければならない。

 (社説)自民補選2敗 参院選に向け慢心を排せるか沖縄

                            2019年4月22日  読売新聞
 
 衆院補欠選挙での2敗は、政府・自民党にとって痛手だ。夏の参院選に向けて、安倍首相は、緩みが指摘される政権の引き締めを迫られよう。2012年の第2次安倍内閣の発足以降、自民党候補が国政選挙の補選で敗れたのは初めてだ。
 自民党議員の死去に伴う大阪12区の補選は、日本維新の会の新人が4候補の争いを制した。統一地方選での府知事・市長のダブル選で勝利し、維新に勢いがあったということだろう。自民党は、前議員の弔い選挙として臨んだが、議席を維持できなかった。党の支持者が他の候補に流れており、地元組織の結束に課題を残した形だ。関西に強い基盤を持つ公明党の支援を受けたものの、届かなかった。

 沖縄3区補選は、県知事に転出した玉城デニー氏の失職によるものだ。選挙区は、米軍普天間飛行場の移設先である名護市を含む。移設反対を掲げる玉城氏の後押しを受けた野党系無所属の新人が、自民党候補を破った。 移設計画への根強い反対を裏付ける結果だが、普天間の危険性を除去しつつ、抑止力を維持する上では、辺野古への移設が現実的な唯一の選択肢である。
安全保障政策は、政府が国際情勢などを勘案し、国民の生命・財産を守るために、責任を持って推進しなければならない。計画の意義や重要性を粘り強く訴え続けていく必要がある。自民党が不利な事情を抱えた両補選の結果は、必ずしも参院選の帰すうに直結しまい。とはいえ、閣僚や副大臣の失言による辞任に対して、有権者が厳しい視線を向けているのは確かだ。
 参院選のカギを握る改選定数1の「1人区」は、世論の風向き次第で勝敗が大きく変わり得る。
 自民党は国政選挙で5連勝しているが、野党の多党化に救われた面もある。内閣支持率は一定の水準を維持しているものの、緩みと慢心を排さなければ、参院選は厳しい戦いを余儀なくされよう。首相が真摯(しんし)な姿勢で政策を遂行できるかが問われる。
 立憲民主、国民民主両党は、大阪12区では独自候補を擁立できず、自主投票に回った。沖縄3区では、辺野古移設反対という旗の下に結束できたが、他の地域で同様の手法は通用しまい。参院選で共闘し、「1強自民」に対抗する結集軸を作れるのか。現状は甚だ危うい。政権批判に終始せず、幅広い支持を得られる現実的な政策を掲げるべきだ。

 (社説)衆院沖縄3区補選 政権に問う3連敗の重み

                       2019年4月22日 毎日新聞

 辺野古埋め立てを既成事実化して住民のあきらめムードを作り出す。そんな戦術が全く通用しないことを、政権はどう考えているのか。衆院沖縄3区の補欠選挙で米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する野党系無所属の屋良朝博(やらともひろ)氏が、自民党公認の島尻安伊子(しまじりあいこ)氏を大差で破り、初当選を果たした。
 玉城デニー氏の知事選出馬に伴う補選だった。沖縄3区は辺野古のある名護市など沖縄本島北部をエリアとする。2014、17年の衆院選で自民党候補を破った玉城氏の後を継ぎ、移設反対派が議席を守った。
 この半年余りを振り返れば、昨年9月の知事選、今年2月の県民投票に続き「辺野古ノー」の民意が三たび示されたことになる。安倍政権としては、沖縄の民意を無視する形で埋め立ての土砂投入に踏み切った上での3連敗である。選挙戦の構図は昨年の知事選と同じく、野党勢力が一致して支援する「オール沖縄」陣営と、自民、公明の与党に日本維新の会が協力する「自公維」陣営との対決だった。
  知事選で自公維は辺野古問題への言及を避ける戦術をとり「争点隠し」と批判された。その際、経済や福祉などさまざまなテーマが争点だと主張したのが菅義偉官房長官だ。今回の補選で島尻氏は、辺野古移設容認をあえて明言して敗れた。もはや論点をずらして結果をぼやかしたり、特殊な地域事情と片付けたりするようなことは許されない。島尻氏は参院議員を2期、沖縄・北方担当相も務めた知名度がありながら、全く及ばなかった。安倍政権がこの結果を真摯(しんし)に受け止めないなら、選挙という民主的手続きが何の意味もないことになる。
 自民党内には沖縄3区の負けを織り込み済みと強がる空気があった。第2次安倍政権以降の国政選挙で自民党は沖縄で敗北が続いても全国的には勝利を重ねてきたからだ。その結果、政権運営に支障さえなければ沖縄の民意は軽んじても構わないという、倒錯した意識が生まれてはいないだろうか。
 政府の正統性は国民に由来する。権力行使の正統性も時々の選挙によってチェックされる。安倍政権は直ちに工事を中止し、沖縄の民意と向き合うべきだ。

 (社説)衆院2補選敗北 自民批判と受け止めよ
                          
                         20190422  東京新聞

 きのう投開票が行われた二選挙区の衆院補選は、いずれも自民党の公認候補が敗北した。選挙区固有の事情はそれぞれあるにせよ、自民党に対する有権者の厳しい批判の表れと受け止めるべきだ。衆院沖縄3区補選は沖縄県知事選に立候補、当選した玉城デニー氏の議員失職に伴うもので、無所属のフリージャーナリスト屋良朝博氏(56)が自民党公認の島尻安伊子元沖縄担当相(54)を破った。沖縄3区には政府が米軍普天間飛行場(宜野湾市)に代わる新基地建設を進める名護市辺野古があり、選挙戦では新基地建設を容認する島尻氏と、反対する屋良氏が激しい舌戦を展開した。在日米軍専用施設の70%が集中する沖縄は長年、重い基地負担を強いられ、県民は新たな基地建設に反対する民意を示してきた。昨年以降だけでも、九月の県知事選で新基地移設に反対する玉城氏が圧勝し、今年二月の県民投票でも七割が反対票だった。
 こうした民意を背景に、沖縄県は政府に計画変更を繰り返し迫ってきたが、安倍内閣は一顧だにせず、埋め立てを強行している。基地負担を強いられる地元の声に全く耳を傾けようとしないのは、民主主義の軽視にほかならない。
 主要野党が推す屋良氏の勝利は新基地への重ねての反対表明であり、建設を強引に進める自民党政権への厳しい批判と受け止めるべきだ。安倍内閣は、沖縄県民に対する高圧的な態度を改め、新基地建設計画の変更を求める県側との話し合いに応じる必要がある。

 一方、大阪12区補選は、日本維新の会新人の藤田文武氏(38)が、自民党新人の北川晋平氏(32)ら三候補を破った。選挙戦最終日に安倍晋三首相自らが北川氏の応援に駆けつけたが、及ばなかった。
大阪都構想を進める維新は、大阪府知事と大阪市長がそろって辞職し、立場を入れ替えて立候補する「クロス選挙」で自民党候補を破った。補選勝利はその勢いに乗った、という事情はある。とはいえ、道路整備を巡り首相や麻生太郎財務相への忖度(そんたく)に言及した塚田一郎元国土交通副大臣や復興以上に自民党議員が大事と発言した桜田義孝前五輪相が辞任に追い込まれたことも自民不信につながったのではないか。地域で相次ぐ自民党敗北は、有権者が長期政権のほころびを敏感に感じ取っている証左だ。首相はじめ自民党執行部は有権者の批判を謙虚に受け止め、強引な政権運営を直ちに改めるべきである。

 (主張)衆院2補選 政権の緩みが敗北招いた

                            20190422  産経新聞

 夏の参院選の前哨戦と位置付けられた衆院大阪12区、沖縄3区の両補欠選挙は、自民党の2敗で終わった。地方には地方の選挙区事情があろう。だが、自民系候補を擁立した衆参補選で8連勝中だっただけに政権与党が足踏みした印象は拭えない。「安倍1強」という長期政権のおごりと緩みが敗北を招いたと受け止めるべきである。参院選はもとより、新天皇即位、改元、日本が議長国として6月下旬に大阪で開く20カ国・地域(G20)サミットなど、政権が取り組むべき重要日程が続く。
 国内外で強い発信力を示す絶好の機会を生かすためには、安定した政権基盤が欠かせない。自民党総裁でもある安倍晋三首相には党内のタガを締め直す強い指導力が求められる。
 大阪は死去した議員の「弔い合戦」だった。本来なら勝って当たり前の戦いに負けた。大阪府知事・市長のダブル選に続く敗北は安倍政権にとって痛手だ。ダブル選でのなりふり構わぬ戦いぶりが、有権者の政党不信を募らせたことはなかったか。自民はダブル選に際し、国政で激しく対決する立憲民主党や共産党とも共闘した。その舌の根も乾かぬうちに、補選では自分のところだけに票を入れてくれと言うようでは、虫が良すぎる。
 野党も同じだ。かつて「唯一の野党」を掲げた共産党系の現職候補が無党派層の票欲しさに無所属で立候補した。有権者無視とみられてもやむを得まい。こうした姿勢も共産党退潮の一因だろう。
 沖縄は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の問題が最大の争点となった。移設に反対する社民、共産両党など県内の首長選で3連勝している「オール沖縄」の勢いが勝った。与党は普天間飛行場の危険を除去するためにも、辺野古移設が重要であることを丁寧に説明していく必要がある。
 先に塚田一郎元国土交通副大臣と桜田義孝前五輪相が問題発言で立て続けに事実上更迭された。自民敗北はその影響もあろう。更迭劇が起きること自体が政権の緩みを象徴している。

 政党が、党利党略でしか動けないようでは国民の支持を得られまい。安倍政権には憲法改正をはじめとした自民党の立党精神に立ち返り、正面からこの国のあり方を問う姿勢こそが求められる。

  (社説)衆院補選屋良氏当選 新基地断念しか道はない

                                2019422 琉球新報

 2月の県民投票に続いて、名護市辺野古の新基地建設に反対する民意が示された。

 21日に投開票された衆院沖縄3区の補欠選挙で、フリージャーナリストの屋良朝博氏(56)=無所属=が元沖縄北方担当相の島尻安伊子氏(54)=自民公認、公明、維新推薦=を大差で下し、初当選したのである。今回の選挙は、玉城デニー氏の知事選出馬で生じた欠員を埋めるもので、屋良氏は玉城氏の後継候補だった。最大の争点である米軍普天間飛行場の移設に伴う新基地建設に対し、屋良氏は反対、島尻氏は容認する姿勢を表明し選挙戦に臨んだ。
 名護市を含む沖縄3区で屋良氏が当選したことは、新基地に反対する有権者の切実な思いの表れと言えよう。政府は選挙結果を尊重し、新基地建設を速やかに断念すべきだ。ここまで再三再四、民意が示されている以上、県内移設を伴わない普天間飛行場の返還に大きくかじを切る以外に道はない。昨年の県知事選で自民、公明などが推した候補者は、辺野古移設を推進する安倍政権の全面的な支援を受けながらも、その是非について最後まで言及しなかった。
 今回、島尻氏が新基地建設への旗幟(きし)を鮮明にしたのは、政治家として当然の態度である。政権側の候補が賛否を明らかにしなかった最近の事例を考慮すると、ようやく正常な形で選挙戦が行われたことになる。屋良氏は「普天間飛行場は米軍の運用を変えるだけで辺野古の海を壊さなくても返還可能だ」などと選挙戦で訴えてきた。辺野古の埋め立て中止と普天間飛行場の即時運用停止のほか、日米地位協定が定める施設管理権の日本への移管、基地の立ち入り権などを定めた基地使用協定の締結などを掲げている。
 基地問題以外では、離島県沖縄の不利性を補う輸送コストの低減、北部を走る路面電車(LRT)構想の提起、北部の医療体制の充実、児童保育の拡充などを公約した。有権者に約束したこれらの政策課題の実現に向けて全力を挙げることは、屋良氏に課された使命だ。
 県選出・在住国会議員は衆院7人、参院3人の10人となり、屋良氏を含む5人が「オール沖縄」系である。玉城知事を支持しない国会議員は自民、維新の5人。このうち4人は比例代表選出であり、沖縄の有権者から直接信任を得ているわけではない。
 国会議員の構成を見ても辺野古新基地建設に反対する民意が大勢を占めていることは明らかだ。駄目押しとなる屋良氏の当選だった。政府は今度こそ沖縄の民意に沿った判断をすべきだ。

 選挙結果は玉城知事に対する信任とも言える。自信を持って政府との交渉に当たってほしい。

 (社説)衆院補選 屋良氏が当選 政権のおごりの結果だ

                                    2019422 沖縄タイムス

 まるで昨年の知事選を再現したような選挙だった。
 衆院3区の補欠選挙は「オール沖縄」勢力が推すフリージャーナリストの屋良朝博氏(56)が初当選を果たした。
  「オール沖縄」勢力は、急逝した翁長雄志前知事から玉城デニー知事へのバトンタッチに成功し、玉城氏が知事に転じたことで実施された補選にも勝利し、県内における政治基盤を固めたことになる。 屋良氏は新聞記者として長く基地問題に取り組んできた。しかし政治経験はなく、一般的にはほとんど無名。知名度不足や組織体制の不備は明らかだった。
 相手候補の島尻安伊子氏(54)は沖縄北方担当相まで経験し、国政与党が全面的にバックアップ。菅義偉官房長官が来県し支援を訴えたほか、3区14市町村のうち13市町村長が支持するなど強大な組織力を誇った。
 一騎打ちの戦いで、屋良氏が勝利を収めた要因は何か。
 昨年の知事選を含めこれまでの選挙と決定的に違ったのは、島尻氏が米軍普天間飛行場の辺野古移設について「容認」の姿勢を鮮明に打ち出したことだ。

 有権者は「新基地ノー」「辺野古埋め立てノー」の意思を明確にしたのである。
 選挙期間中、本紙などが実施した調査で、安倍政権の基地問題への姿勢を「評価しない」と答えた人が68%にも上った。選挙結果は、2月の県民投票で辺野古埋め立てへの「反対」が投票者の7割超に達したにもかかわらず、政府が工事を続行したことへの抗議の意思表示でもある。昨年の知事選がそうであったように、今回の選挙も「新しい政治の始まり」を予感させるものがあった。
 新基地建設を巡る屋良氏の主張は、海兵隊の運用見直しによる「辺野古不要の普天間返還プラン」だ。
 単に反対を訴えるのではなく、辺野古とは異なる選択肢という新たなアプローチで無党派層を含む有権者の幅広い支持を得た。振興策についても、政府とのパイプを強調する島尻氏に対し、屋良氏は県を通さず市町村に直接交付する補助金創設など国の関与の強まりを問題視した。一方、島尻氏の敗因は無党派層に支持が広がらなかったことにある。子どもの貧困対策に直接タッチしてきた実績を打ち出したが浸透せず、辺野古を巡る過去の言動のマイナスイメージも付いて回った。
 補選の結果、沖縄選挙区は衆院4議席、参院2議席のうち5議席が、新基地に反対する議員で占められることになる。
 安倍政権は、一連の選挙で示された「沖縄の民意」に真摯(しんし)に向き合うべきである。日米両政府は19日、ワシントンで開かれた安全保障協議委員会(2プラス2)で「辺野古が唯一の解決策」だと再確認したという。沖縄社会に楔(くさび)を打ち込むための「恫喝(どうかつ)」というほかない。
 辺野古問題は、県との話し合いの中からしか解決の道を見いだすことはできない。