(社説)沖縄県民投票 結果に真摯に向きあえ
                          2019年2月25日   朝日新聞

 沖縄県民は「辺野古ノー」の強い意思を改めて表明した。この事態を受けてなお、安倍政権は破綻(はたん)が明らかな計画を推し進めるつもりだろうか。米軍普天間飛行場を移設するために辺野古の海を埋め立てることの賛否を問うた昨日の県民投票は、「反対」が圧倒的多数を占めた。全有権者の4分の1を超えたため、県民投票条例に基づき、結果は日米両政府に通知され、玉城デニー知事はこれを尊重する義務を負う。知事選や国政選挙などを通じて、沖縄の民意がはっきり示されてきた。 だが、争点を一つに絞り、曲折を経て、全県で実施された今回の投票の重みは、また違ったものがある。自民、公明両党などが「自主 投票」を掲げ、組織的な運動をしなかったことから心配された投票率も、50%を上回った。
 法的拘束力はないとはいえ、政府は今度こそ、県民の意見に真摯(しんし)に耳を傾けねばならない。
辺野古問題がここまでこじれた原因は、有無を言わさぬ現政権の強硬姿勢がある。最近も、埋め立て承認を撤回した知事の判断を脱法的な手法で無効化し、土砂の投入に踏みきった。建設予定海域に想定外の軟弱地盤が広がることを把握しながらそれを隠し続け、今も工期や費用について確たる見通しをもたないまま「辺野古が唯一の解決策」と唱える。
 自分たちの行いを正当化するために持ちだすのが、「外交・安全保障は国の専権事項」という決まり文句だ。たしかに国の存在や判断抜きに外交・安保を語ることはできない。だからといって、ひとつの県に過重な負担を強い、異議申し立てを封殺していいはずがない。
 日本国憲法には、法の下の平等、基本的人権の尊重、地方自治の原則が明記されている。民主主義国家において民意と乖離(かいり)した外交・安保政策は成り立たず、また、住民の反発と敵意に囲まれるなかで基地の安定的な運用など望むべくもない。この当たり前の事実に、政府は目を向けるべきだ。 政府だけではない。県民投票に向けて署名集めに取り組んできた人たちは、沖縄という地域を超え、全国で議論が深まることに期待を寄せる。自分たちのまちで、同じような問題が持ちあがり、政府が同じような振る舞いをしたら、自分はどうするか。そんな視点で辺野古問題を考えてみるのも、ひとつの方法だろう。
 沖縄の声をどう受けとめ、向き合うか。問われているのは、国のありようそのものだ。

(社説)「辺野古」反対が多数 もはや埋め立てはやめよ
                       2019年2月25日   毎日新聞

 辺野古埋め立てへの反対票が多数を占めた。政府はただちに埋め立てをやめ、沖縄県と真摯(しんし)に解決策を話し合うべきだ。
 米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、埋め立ての是非を問う沖縄県民投票がきのう実施された。  この問題の原点は、市街地に囲まれた普天間飛行場の危険除去にあるという政府の主張はその通りだ。しかし、在日米軍施設の7割が集中する沖縄県内に代替施設を引き取ってもらいたいのなら、県民の多くが納得することが条件となる。
 明らかに政府は県民の理解を得る努力を怠ってきた。2度にわたる知事選で「辺野古ノー」の民意が示されても聞く耳すら持たなかった。 外交・安全保障は国の専権事項だから地方は口を挟むなという議論は間違っている。確かに政府が全国的な見地から責任を負う分野ではあるが、基地の立地に自治体が異議を申し立てる権利まで否定するのは暴論だ。住民の反感に囲まれた基地が円滑に運用できるはずがない。  安倍政権は2013年当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事による埋め立て承認を移設正当化の根拠としてきた。だが、仲井真氏は知事選で県外移設を公約して当選し、その後に変節したのであって、埋め立て承認は民主的な正当性を獲得していない。住民投票が政策決定の手段として万能なわけではない。投票率は5割強にとどまった。しかし、民主主義が十分機能しないため、沖縄は繰り返し意思表示をせざるを得なくなったと考えるべきだろう。
 その過程では県民同士が異なる意見にも関心を持ち、ともに沖縄の将来を考えることが重要だ。その意味で政権与党の自民、公明両党が自主投票の立場をとり、県民と話し合う役割を放棄したことは残念だ。  政府は投票結果にかかわらず工事を続ける方針を示している。だが、たび重なる民意無視は民主主義を軽んじることにほかならない。 しかも、埋め立て予定区域に広大な軟弱地盤が見つかり、そもそも辺野古に大規模な飛行場を建設する計画の実現可能性が揺らいでいる。  もはや普天間の辺野古移設は政治的にも技術的にも極めて困難になった。政府にいま必要なのはこの現実を冷静に受け入れる判断力だ。

 (主張)沖縄県民投票 国は移設を粘り強く説け
                     2019年2月25日   産経新聞

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古移設を問う県民投票は、辺野古沿岸部埋め立てに「反対」が過半数を占めた。県や野党などは、辺野古移設の断念をこれまで以上に強く政府に要求するだろう。 だが、移設を進めることができなければ、市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性を取り除くことはできない。中国などの脅威から日本を守る、抑止力を保つことにも反する。沖縄県民を含む国民の安全を損なうことにつながる。投票結果は極めて残念である。
 政府はていねいに移設の必要性を説き、速やかに移設を進める必要がある。
 県民投票条例の規定に基づき、玉城デニー知事は、投票結果を安倍晋三首相とトランプ米大統領に通知する。ただ、県民投票に法的拘束力はない。辺野古移設に代わるアイデアもない。日米両政府に伝えても、現実的な検討対象にはなるまい。人口密集地である普天間から、人口が大幅に少ない辺野古へ飛行場の機能を移し、普天間飛行場返還を実現する。この政府方針のほうが理にかなっている。移設推進を堅持しなければならない。
 知事はこれ以上、移設工事を妨げたり、不毛な訴訟合戦に入ったりすべきではない。普天間飛行場周辺の県民の安全確保と、国民を守る安全保障政策を尊重し、移設容認に転じるべきである。
 投票結果について、いろいろな分析が行われるだろうが、今回の県民投票はその内容にかかわらず、民主主義をはき違えたものであるというほかない。国政選挙などの民主的な手続きでつくられた内閣(政府)にとって国の平和と国民の安全を守ることは最大の責務だ。外交・安全保障政策は政府の専管事項であり、米軍基地をどこに設けるかは、政府以外には決められない。
 移設は県民の問題であるのと同時に、県民を含む国民全体の問題だ。県民の「直接の民意」だけで左右することはできない。
 与党の自民、公明両党は県民投票への「自主投票」を決め、辺野古移設の大切さを十分に説かなかった。腰の引けた対応では移設の必要性が伝わらない。政府・与党は辺野古移設を着実に進めるとともに、日本の安全にとって移設が重要であることを、県民に粘り強く説く責任がある。

(社説)県民投票で反対多数 埋め立て直ちに中止せよ
                  2019年2月25日   琉球新報
 
 名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票で、反対の民意が明確に示された。特定の基地建設を巡り、民主主義で定められた制度によって県民が自ら意思表示をしたのは初めてだ。2月24日は沖縄の歴史の中で特筆すべき日になった。
 法的拘束力がないにもかかわらず、有権者の過半数が投票し、43万人を超える人々が新基地建設にノーを突き付けた。この事実を政府が無視することは断じて許されない。政府はこの結果を尊重し、新基地建設工事を直ちに中止すべきだ。市街地の真ん中にある米軍普天間飛行場は、県内移設を伴わない全面返還に方針を転換し、米側と交渉してもらいたい。まずは県民投票の結果をありのままに米国に伝え、理解を求めることだ。
 地元が反対する場所に基地を置くのは米国にとっても得策ではない。沖縄側の意向をくみ取る方が賢明だ。県民投票をせざるを得ないところまで沖縄を追い込んだのは、米国追従の姿勢を崩さず、知事選の結果さえ顧みない安倍政権だ。その背後には、沖縄に基地を置くのは当たり前だと思い込んでいたり、あるいは無関心であったりする、多くの国民の存在がある。
 県民投票を機に、基地問題を自分の事として考える人が全国で増えたのなら、投票の意義はさらに高まる。
 普天間飛行場の返還が具体化したのは1995年の少女乱暴事件がきっかけだ。米軍基地の整理縮小を求める世論の高まりを受け、5〜7年で全面返還することを日米両政府が96年に合意した。
 当初示された条件は、普天間のヘリコプター部隊を、嘉手納飛行場など県内の既存の米軍基地内にヘリポートを建設し移転することだった。それが曲折を経て大規模な基地建設へと変容していった。 23年前の県民投票で基地の整理縮小を求める強い意思が示された。だが今日、多くの県民の意向に反し、新たな米軍基地の建設が進められているのは由々しき事態だ。
 政府は辺野古移設が「唯一の解決策」と繰り返し述べているが、それは安倍政権にとっての解決策という意味しか持たない。新基地を建設したとしても普天間が返還される確証はない。「5年以内の運用停止」の約束をほごにしたように、さまざまな理由を付けて返還が先送りされる可能性が大きいからだ。
 さらに、建設工事の実現性も大きく揺らいでいる。予定地の軟弱地盤に対応し7万7千本のくいを打つ必要があるが、水深90メートルに達する大規模な地盤改良工事は世界的にも例がない。建設費は県が試算した2兆5500億円よりも、さらに膨らむ。
 沖縄の民意に反するばかりか、膨大な血税を浪費する荒唐無稽な工事と言わざるを得ない。玉城デニー知事は今回示された民意を足掛かりにして、断固たる決意で政府との交渉に臨んでほしい。
 (社説)辺野古反対 沖縄の思い受け止めよ
                           2019年2月25日   東京新聞

 重ねて沖縄の揺るぎない民意が示された。民主主義と地方自治を守るのなら政府は県民投票結果を尊重し、工事を中止した上で県民との対話に臨むべきだ。国民全体で沖縄の選択を重く受け止めたい。
 県民投票結果に法的拘束力はない。だが、今後の事業展開に影響を与えないわけがない。政府は、結果によらず米軍普天間飛行場の移設を名目にした新基地建設を進める考えだ。判断の根底には「一九九九年に知事と名護市長の受け入れ同意を得て辺野古移設を閣議決定した」(菅義偉官房長官)との認識がある。
 しかし、当時の稲嶺恵一知事と岸本建男市長が表明した十五年の使用期限など条件付き容認案は二〇〇六年、日米が沿岸埋め立てによる恒久的な基地建設で合意し破棄された。一三年に仲井真弘多知事が下した埋め立て承認も、選挙を経ての決定ではなかった。
 その後二回の知事選で移設反対を掲げた知事が就任。今回は埋め立ての賛否に絞って問い、五割超の投票率で玉城デニー知事の獲得票を上回る反対票が投じられた。地元同意はもはや存在し得ない。
 技術的には、埋め立て海域に横たわる軟弱地盤の問題も大きい。約七万七千本もの砂杭(すなぐい)を打つ地盤改良は前例がない難工事が予想される。環境への影響も甚大であり、民意を代表する玉城氏は設計変更申請を認めないだろう。
 法廷闘争に持ち込んだとて政府が勝訴するとは限らない。翁長前県政時代の国と県との裁判は国側勝訴が確定したが、知事選などで示された民意を巡る裁判所の判断は賛否どちらともとれないというものだった。今度は状況が違う。 民主主義国家としていま、政府がとるべきは、工事を棚上げし一票一票に託された県民の声に耳を傾けることだ。現計画にこだわるのなら納得してもらうまで必要性を説く。できなければ白紙に戻し、米側との議論をやり直す。
 今回、「賛成」「どちらでもない」に集まった票には普天間の危険性除去に対する思いがあろう。無論、「反対」を選んだ県民もその願いは同じはず。普天間返還はこの際、辺野古の問題と切り離して解決すべきだ。
 国策なら何でも地方は受忍せざるを得ないのか。選挙による民意表明が機能しない場合、住民は何ができるのか。混迷の末に行われた沖縄県民投票は、国民にも重い問いを突きつけた。私たちは政府対応を注視し、民意尊重の声を示してゆきたい。