(社説)沖縄県民投票 国のあり方考える機に                                              2019年2月15日   朝日新聞

 沖縄県民投票が告示された。米軍普天間飛行場を移設するために辺野古の海を埋め立てることの賛否を、県民に直接問う。結果はもちろん、これまでの経緯、そして運動期間中に交わされる議論や関係者の動きにも目を凝らし、この国のありようを考える機会としたい。
 投票のための条例は昨秋の県議会で制定された。当初の選択肢は「賛成」「反対」だけだったが、それでは県民の複雑な思いをすくえないなどと批判した5市が不参加を表明。「どちらでもない」を急きょ加えて、全県での実施にこぎつけた。
 市民から一方的に投票権を奪う行いは到底許されるものでないし、「どちらでもない」の解釈をめぐって、この先、混乱が生じる懸念も否定できない。
 だが、「沖縄の基地負担を減らすために沖縄に新たに基地を造る」という矛盾に、答えを出しかねる人がいるのも事実だ。3択にせざるを得なかったことに、沖縄の苦渋がにじみ出ていると見るべきだろう。 この間も政府は工事を強行してきた。昨年12月の土砂の投入に続き、先月には新たな区域で護岸造りに着手。既成事実を積み上げるのに躍起だ。
 一方で、移設予定海域に広がる軟弱地盤については、ようやく存在を認めたものの、どう対処するのか、そのためにどれほどの工期と経費がかかるのか、一切明らかにしない。「普天間の早期返還のためには辺野古が唯一の解決策」と唱えながら、あまりに無責任ではないか。
 投票行動にも影響する重大な問題である。県民が適切に一票を行使できるよう、政府はていねいに説明すべきだ。
 知事選や国政選挙で「辺野古ノー」の民意が繰り返し表明されたにもかかわらず、一向に姿勢を改めない政府への失望や怒りが、県民投票の原動力になった。しかし菅官房長官はきのうの会見でも、辺野古への移設方針に変化はないと述べ、投票結果についても無視する考えであることを宣言した。
 一度決めた国策のためには地方の声など聞く耳持たぬ――。こうした強権姿勢は、他の政策課題でも見せる安倍政権の特徴だ。同時に、基地負担を沖縄に押しつけ、それによってもたらされる果実を享受する一方で、沖縄の苦悩や悲哀は見て見ぬふりをしてきた「本土」側が底支えしているといえる。24日に示される沖縄県民の意思は、民主主義とは何か、中央と地方の関係はどうあるべきかという問題を、一人ひとりに考えさせるものともなるだろう。

縄県民投票 基地問題の混迷を憂慮する
                                       2019年2月15日    読売新聞 

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の危険性を除去することが、基地問題の原点である。県民投票は長年の取り組みへの配慮を欠く。対立と混迷が深まるだけではないか。
 普天間飛行場の移設問題で、名護市辺野古沿岸部の埋め立ての賛否を問う県民投票が告示された。24日に投開票される。住宅地に囲まれた普天間は、住民を巻き込む事故の危険にさらされている。騒音被害も大きい。
 厳しい安全保障環境の中、抑止力を維持しつつ、住民生活に配慮する。辺野古移設は、この観点から、政府が米国と協議してまとめた実現可能な唯一の案である。県民投票は、埋め立てについて「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択で問う。
 条例は、最も多い選択肢が投票資格者総数の4分の1に達した場合、知事は結果を尊重し、首相と米大統領に通知する、と定めているが、法的拘束力はない。
 住民投票は本来、市町村合併などの課題について、その地域の有権者の意見を聞くのが目的だ。
 安保政策は、国民の生命、財産と国土を守るため、国際情勢と外交関係を勘案し、政府が責任を持って進めるべきものである。住民投票にはなじまない。
 条例制定を主導した政治勢力は、4月の衆院沖縄3区補欠選挙や夏の参院選を前に、移設反対派の結束を固めたい、という思惑があるのではないか。
 基地問題を二者択一で問うことへの批判が高まると、場当たり的に選択肢を増やした。だが、本質的な問題は何ら解消されない。
 肝心なのは、普天間の固定化を防ぐことである。
1995年の米兵による少女暴行事件を受け、当時の橋本首相と大田昌秀沖縄県知事が協議し、普天間の返還や沖縄振興を進める方針で一致したのが出発点だ。
 長年にわたり、政府と県は互いの立場を尊重しながら、移設計画に取り組んできた。この努力を無駄にすることは許されまい。
 玉城デニー知事は、普天間の危険性除去を求める一方、辺野古移設に代わる現実的な案は示していない。県政をあずかる立場として、無責任ではないか。幅広い民意をまとめて、政府とともに基地負担軽減を目指すべきだ。
 政府は県民投票の結果に左右されず、安全を考慮しながら、埋め立てや護岸工事を粛々と進める必要がある。様々な機会を活用して県と対話を重ね、丁寧に理解を求めていく努力も不可欠だ。

辺野古問う沖縄県民投票 民意を熟成させる10日間
                              2019年2月15日 毎日新聞 

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を問う沖縄県民投票が告示された。24日に投開票される。 沖縄に集中する米軍基地の負担をどう考えるか。地域にとって何が最も利益になるのか。ともに沖縄で暮らす県民同士が話し合い、異なる意見も尊重しながら、民意を熟成させる10日間にしてもらいたい。
 「辺野古ノー」の民意は2回の知事選で示されている。ただ、党派間の対立が前面に出る選挙はしばしば住民の分断を生んでしまう。
 県民投票は選挙とは違う。特定の地域課題について一人一人が党派を離れ、自由な立場で意思表示できる貴重な機会として活用すべきだ。
 1996年に行われた米軍基地の整理・縮小などへの賛否を問う県民投票では賛成が9割を占める一方、投票率は6割にとどまった。基地関係で収入を得る人が少なくないなど、賛否の2択で割り切れない複雑な民意が棄権の動きに表れた。
 今回は辺野古埋め立てに「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択となった。一時、宜野湾市など5市が不参加の方針をとったのは、賛否2択では複雑な民意をすくえないというのが大きな理由だった。  例えば、普天間飛行場を抱える宜野湾市民には早期返還を求める思いが強いだろう。県内移設には反対だが普天間返還が遅れるのも困るという人はどうすればよいのか。  賛否だけでなく、「どちらでもない」の票数や投票率からも多様な民意を丁寧にくみ取る必要がある。
 県民投票条例は、最も多かった回答の票数が投票資格者全体の4分の1に達すれば、知事はその結果を尊重しなければならず、首相と米大統領に通知するものと定める。
 政権与党の自民、公明両党は自主投票を決めた。組織を動員して賛成や棄権を呼びかければ、かえって反発を買うと考えたのだろう。
 しかし、政府は県民投票の結果にかかわらず辺野古の埋め立て工事を続行する方針だ。菅義偉官房長官は告示日のきのう「基本的にはそういう考え方だ」と明言した。
 投票結果に法的な拘束力はない。だからといって、結果を見る前から無視を決め込むのは、懸命に民意をまとめようとしている沖縄の努力を軽んじる態度にほかならない。

県民投票の告示 与党は移設の意義を語れ
                                         2019年2月15日    産経新聞 
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を問う県民投票が告示された。
 「賛成」、「反対」に「どちらでもない」の3択方式で、24日に投開票される。法的拘束力はないが、最多得票の選択肢が有権者の4分の1に達すれば、玉城デニー知事が結果を安倍晋三首相とトランプ米大統領に通知する。
 共産党や社民党などでつくる「オール沖縄」ほか移設反対派は反対多数の結果を得て、移設阻止運動に弾みをつけたい考えだ。
 改めて指摘したいのは、今回の県民投票は行うべきではなかったということだ。
 投票実施を評価するのは民主主義のはき違えである。日米安全保障条約に基づく米軍基地の配置は、政府がつかさどる外交安全保障政策の核心だ。国政選挙や国会における首相指名選挙など民主的な手続きでつくられた内閣(政府)の専管事項である。
 特定の地方自治体による住民投票で賛否を問うべき事柄ではない。沖縄県を含む日本の安全保障を損なうだけだ。
 市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性を取り除くことにつながらないという問題点もある。 代替施設への移設がなければ普天間返還は実現しない。県民投票には、普天間周辺住民の安全確保の視点が依然欠けている。
 宜野湾市議会は昨年12月に採択した意見書で、県民投票で「宜野湾市民が置き去りにされ」ていると指摘した。普天間固定化という「最悪のシナリオ」に懸念を示した。この疑問が解消されたとはいえない。菅義偉官房長官は記者会見で、県民投票の結果にかかわらず政府は移設工事を進めるのかを問われ、「基本的にはそういう考えだ」と述べた。普天間の危険性除去と日米同盟の抑止力確保のために辺野古移設は必要だ。菅氏が示した政府方針は妥当だ。
 投開票日に向けて、移設反対派は運動に力を入れるだろう。
 一方、国政与党の自民、公明両党は自主投票を決めた。特定の選択肢への投票を呼びかける運動を予定していないという。4月の統一地方選などへの悪影響を考えているとすれば筋違いだ。本来望ましくない県民投票だが、実施される以上は静観はおかしい。自民、公明両党は、辺野古移設の意義を県民に丁寧に説く必要がある。

 [県民投票きょう告示]沖縄の将来像を語ろう
                                        2019年2月14日         沖縄タイムス
 「ようやく」という言葉がふさわしいのかもしれない。名護市辺野古の新基地建設を巡る県民投票が、24日の投開票に向け、14日、告示された。
 国が進めている埋め立ての賛否を問うもので、「賛成」「反対」「どちらでもない」の三つの選択肢の中から、いずれかに「○」を記入する。
 1996年に実施された県民投票は、米軍基地の整理・縮小と日米地位協定見直しの賛否を問うものだった。
 辺野古埋め立ての賛否を問う今回は、結果次第では、沖縄の民意を反映した「実質的な負担軽減」を求める声が国内外で高まる可能性がある。 政府は「辺野古が唯一の選択肢」だと繰り返し主張してきた。辺野古では今も、連日のように土砂投入などの埋め立て作業が続いている。
 今さら法的拘束力もない県民投票を実施する必要がどこにあるのか−そんな声は今もある。だが、県民投票を実施する最大の理由は、まさにそこにある。
 「他に選択肢がない」という言い方は、政策決定によってもっとも影響を受ける者の声を押しつぶし、上から目線で「これに従え」と命じているのに等しい。実際、選挙で示された民意はずっと無視され続けてきた。 県民投票は、戦後74年にわたる基地優先政策が招いたいびつな現実を問い直す試みでもある。  軟弱地盤の改良工事のため、当初の予定を大幅に上回る工期と建設経費がかかることも明らかになってきた。状況が変わったのだ。
 米軍普天間飛行場の一日も早い危険性除去をどう実現すべきか。辺野古の自然環境は果たして保全されるのか。
 埋め立ての賛否を考える上で避けて通れないのは、この二つの論点である。
 自民党県連や公明党県本は、積極的に運動することはせず静観の構えで臨むという。
政党としての立ち位置を明確にするためにも自公両党にはそれぞれの考えを示し、積極的に県民投票にかかわってほしい。  選択肢が2択から3択に変わったのは、与野党がぎりぎりの段階で歩み寄った結果である。
 3択になったことで「どちらでもない」という選択肢の結果をどう評価するか、という新たな難題を抱えることになった。
 「賛成」よりも「反対」よりも「どちらでもない」の選択肢が多かった場合、玉城デニー知事は、後ろ盾を失うことになる。知事にとっては大きな痛手だ。
 県民投票に法的な拘束力はない。どのような結果になっても計画通り工事を進める、というのが政府の考えである。
 しかし、「反対」が多数を占めた場合、玉城知事は辺野古反対を推し進める強力な根拠を得ることになる。
 県民投票によって、疑う余地のない形で沖縄の民意が示されれば国内世論に変化が生じるのは確実だ。  政府が辺野古での工事を強行しているのは、県民投票を意識している現れでもある。