原発のたたみかた 3
 核のごみ、どう処分 研究施設、恒久化の懸念も
    毎日新聞2019年12月26日 東京朝刊

 <科学の森>
 原発の廃炉でも生じる使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地中に埋める「地層処分」に関連して、ごみの保管方法を研究する地下350メートルの施設がある。北海道幌延(ほろのべ)町の「幌延深地層研究センター」。実際には核物質を持ち込まない約束で運営されている。ただ地元では「施設がそのまま最終処分場になるのでは」との心配が根強い。【斎藤有香】

  ●低レベルまで10万年
 使用済み核燃料を再利用するための過程で、
放射能レベルの高い廃液が発生する。それを高温のガラスに溶かして固体にしたものが、核のごみになるガラス固化体だ。

 放射能レベルは高いままで、レベルが下がるのに10万年かかるとされる。人が近づけない場所で保管する必要があり、2000年に定められた特定放射性廃棄物最終処分法により、地下300メートル以上の深い地層に廃棄すると決められている。フィンランドでは、地下400メートル超に埋める最終処分場「オンカロ」が建設中で、20年代初めにも稼働する。しかし、国内では処分場の選定が難航している。
 そうした中、日本原子力研究開発機構は地層処分の技術的な検討をするため、01年に「幌延深地層研究センター」、02年に「瑞浪(みずなみ)超深地層研究所」(岐阜県瑞浪市)を設置した。







同センターの地下350メートルにある地下坑道。放射性物質を閉じ込める「人工バリアー」の性能試験が、右の壁の奥で実施されている=北海道幌延町で
 原子力機構によると、日本の地質は大まかに、海底が隆起し泥岩や塩水を含む軟らかい「堆積(たいせき)岩」と、マグマが冷えて固まった花こう岩を含む硬い「結晶質岩」に分けられる。瑞浪では結晶質岩の地質に関して研究し、目標を達成したとして原子力機構は今年、埋め戻す方針を決めた。
 一方、幌延では、実際の核物質を持ち込まず研究期間を01年から20年程度とし、その後は埋め戻す協定を00年、北海道、幌延町と原子力機構の3者で結んだ。研究では、堆積岩の地層で処分方法などを調べている。研究期間の終わりが迫っていたが、鈴木直道知事は19年12月10日、研究期間を28年度末ごろまで延長する原子力機構の計画案を容認すると表明。研究は続けられる見通しとなった。

 ●地下350メートル試験続く

同センターにある「人工バリアー」の模型=北海道幌延町で
 
 記者は11月下旬、国内最北端の稚内空港から吹雪の中、南へ約1時間車を走らせ、幌延の研究センターを訪れた。施設内には、地下に続く直径約6・5メートルの立て坑がある。円柱状のエレベーターに乗ると約5分後、地下350メートルに到達した。気温は8度で地上よりやや高かったが、空気は冷たい。コンクリートのトンネルの壁の一部が、染み出た地下水が垂れないようビニールシートで覆われている。
 「この坑道の奥で、放射性物質を閉じ込める『人工バリアー』の性能を確認する試験をしています」。佐藤稔紀・深地層研究部長(53)がコンクリートの壁を指した。
 壁の奥には垂直に掘った穴があり、粘土でできた緩衝材(厚さ70センチ)に覆われた金属容器(高さ約170センチ、直径約80センチ、重さ6トン)が置かれている。実際の処分場では、金属容器にガラス固化体を収納することを想定しているが、ここではガラス固化体から出る熱を模して約100度のヒーターが収められている。
 佐藤さんの足元には、人工バリアーに地下水を送り込むポンプの設備がある。地下水が人工バリアーに与える影響を調べるためだが、研究は予定通り進んでいないという。「現状では、長期保管に関する模擬実験をするためのデータが十分得られていないんです」と佐藤さんは説明する。
 今回、研究期間が延長される見通しになり、今後は地下水による影響に関するデータを集めるほか、地下の有機物や微生物から影響を受けないかなどを調べるという。

 ●「約束守れない組織」
 ただ、研究期間の延長に地元の思いはさまざまだ。
 北海道と同じく幌延町も延長を容認している。岩川実樹・副町長(58)は「東京電力福島第1原発事故の後、廃炉や地層処分は喫緊の課題。今後、どこかで地層処分が決まった時の先行研究なのだから、しっかりやらないといけない」という。
 人口約2300人の酪農の町は過疎化が進んでいたこともあり、原子力関連施設の誘致を進めてきた。研究センターを誘致してから、年間約1億5000万円の交付金が国から町に納められている。岩川副町長は「国策に協力し、地域振興にもなるならいい話だと思う」と話す。
 一方、11月下旬に町内で開かれた研究期間の延長に関する住民説明会を取材すると、「なし崩し的に最終処分場の誘致となるのでは」という声を聞いた。「このままでは再延長が無限に続く可能性もある。協定にあぐらをかいていると『穴が開いているなら処分場に』となるかもしれない」という訴えもあった。
 背景には、国内で核のごみの最終処分場が決まっていないことがある。幌延町の元町議、鷲見(すみ)悟(さとし)さん(66)は「日本のように火山が多い所での地層処分は無理がある。政策は、立ち止まってやり直せるものでないと間違いが起こる。このままだと核のごみの押し付け合いが起こる」と指摘する。
 原子力施設の誘致に反対してきた、幌延に隣接する豊富町の酪農家、久世薫嗣(くせしげつぐ)さん(75)は原子力機構への不信感を隠さなかった。「20年で研究を終える約束だったはず。約束を守れない組織は信用できない」=つづく