社説 辺野古移設 「原点」に返って出直せ    朝日新聞 2019年12月26日

 この先さらに十数年にわたって、激しい騒音と墜落・落下物の不安に人々をさらし続けるつもりか。政府は計画の破綻(はたん)を認め、一から出直すべきだ。
 沖縄・米軍普天間飛行場の移設先とされる辺野古沖の基地の完成が、2030年代以降にずれ込むことになった。防衛省が明らかにした。埋め立て海域に広がる軟弱地盤の改良のため、土地の造成期間が大幅に延び、さらに関連施設の整備などに時間を要するという。
 例のない難工事であり、目算通りに進む保証はない。加えて辺野古への基地建設に反対の玉城デニー知事は、政府が設計変更を申し立てても応じない方針で、さらなる混迷は必至だ。
 このような状況を招いたのは他ならぬ政府自身だ。十分に確認しないまま埋め立て申請を急ぎ、その後の調査で軟弱地盤の存在を把握しながら公にせず、昨年末に土砂投入に踏み切った。情報公開請求で真相を知った県の指摘に耳を貸さず、既成事実づくりに突き進んだ。

背信と思考停止。普天間をめぐる政府のこれまでの歩みだ。
 日米両政府が返還で合意したのは96年のことだ。5?7年で実現させるとの話だったが、県内で基地をたらい回しにすることへの疑義に答えられぬまま、計画は二転三転し、返還時期も先延ばしが繰り返された。揚げ句の果ての、民意を無視した埋め立て強行であり、今回の「さらに十数年」の表明である。
 今からでも遅くない。普天間の危険を取り除き、沖縄の過重負担を軽減するという原点に、政府は立ち返るべきだ。
 沖縄に駐留する海兵隊は20年代前半から約9千人が米本土やグアムに移り、約半分の規模に縮小される。兵器や技術の変革に伴い、海兵隊の運用は変化してきている。20年以上前に構想された辺野古に固執する理由はない。格好の攻撃目標になるとして、軍事合理性の観点から沖縄への基地の集中を懸念する専門家も少なくない。
 首相は今年1月の施政方針演説で「世界で最も危険と言われる普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現する」と述べた。だが実際に進んでいるのは、被害の固定化ではないか。
 政府は「19年2月までに運用停止」という県との約束をほごにし、新たな期限の設定に応じない。普天間所属の航空機の事故が相次いでも、米側に形ばかりの申し入れをするだけ。一方で、騒音被害への賠償を命じる判決が積み重ねられる――。
 住宅密集地の上を米軍機がわがもの顔で飛び交う現実に向き合い、県民の生命・人権・財産を守る。その務めに政府は全力で当たるべきだ。

社説 辺野古工事に10年以上 もはや非現実的な計画だ  毎日新聞 2019年12月24日

 米軍普天間飛行場の辺野古移設計画が大幅に長期化するのが確実となった。埋め立て予定区域の軟弱地盤改良工事などに、10年以上かかるとの見通しを防衛省が近く示す。
 政府はこれまで、移設の実現時期を2022年度以降としていた。埋め立て完了後の施設整備に3年はかかることから、移設が実現するとしても30年代以降に大きく遠のく。
 地盤改良工事について防衛省は7万7000本もの砂の杭(くい)を打ち込む工法を検討しているが、全体の工期の見積もりは示していなかった。今後、土木工学などの専門家による「技術検討会」に諮ってお墨付きを得たうえで、沖縄県に辺野古埋め立て工事の設計変更を申請する方針だ。
 しかし、海面から最深部まで90メートルに及ぶ軟弱地盤の施工例はなく、完成後の地盤沈下対策を含め本当に実現可能なのか疑問視されている。
 仮に技術的に可能であったとしても、政治的なハードルは極めて高い。沖縄県民は今年2月の県民投票や、2度にわたる知事選、近年の国政選挙で「辺野古ノー」の明確な意思を繰り返し示してきた。
 軟弱地盤の存在は1416年のボーリング調査で判明していたのに、政府が公式に認めたのは今年に入ってからだ。不都合な情報を隠し、埋め立ての既成事実化を優先する不誠実な姿勢が県との溝を深めている。
 沖縄県の玉城デニー知事が設計変更を承認する見通しはなく、国と県の裁判闘争にもつれ込んで改良工事の着工が遅れる事態も想定される。30年代以降に辺野古移設が実現する保証など、どこにもない。
 普天間飛行場の「5?7年以内の返還」に日米が合意してから既に23年が経過した。さらに10年以上となれば事実上の固定化だ。
 政府が「一日も早い返還実現のため」として工事を強行してきた根拠は崩れている。現行計画はもはや非現実的だと言わざるを得ない。
 日米間で修正を重ねて合意した計画を見直すのは政府にとって重い決断となる。だが、このまま辺野古移設に固執している間に重大な事件や事故が起きれば、日米同盟への不信感が沖縄に広がりかねない。
 沖縄の基地負担を軽減する原点に立ち返り、県や米側との協議を仕切り直すべき時である。
 
 社説 沖縄の住民排除 警察への重い戒めだ   東京新聞 2019年12月24日

 沖縄の基地建設現場での機動隊員による反対派住民の排除は、適法性に疑問がある-。警視庁機動隊の派遣を巡る住民訴訟で、東京地裁が示した判断だ。警察は重い戒めとしなければならない。
 訴訟の対象となったのは、沖縄県東村高江周辺での米軍ヘリパッド建設に伴い、2016年7~12月に行われた約140人の警視庁機動隊員の派遣。約180人の都民が、派遣期間中に支払われた隊員基本給約2億8000万円や特殊勤務手当の損害賠償を求めて16年12月に提訴し、今月16日に判決が言い渡された。
 損害賠償の請求は退けられたが、判決は、東京、大阪、神奈川、愛知など六都府県警から派遣された機動隊員の反対派住民らへの対応に言及。「職務行為が必ずしも全て適正だったとは言い難い」とし、特に16年7月、住民らが建設現場出入り口に置いた車両やテントを強制撤去したことについて「適法性に看過しがたい疑問が残る」との見解を示した。
 根拠法があいまいなまま警察権力が行使されたことに、強く警鐘を鳴らしたものだ。テント撤去以外にも現地では、沖縄平和運動センターの山城博治議長ら延べ十四人もの逮捕、建設車両への警察官同乗、県道の通行規制などが過剰警備として批判されていた。大阪府警隊員による住民への「土人」発言は、大きく波紋を広げた。
 3年にわたる裁判で、警視庁側は、今後の警備に影響するなどとして派遣隊員の人数さえ明らかにしなかった。判決での厳しい指摘は、原告側の陳述や証言、沖縄県警幹部らへの証人尋問の積み重ねにより導き出されたといえよう。
 沖縄で、座り込み住民らの強制排除は、辺野古の新基地建設現場などでも続いている。警察側は、司法の指摘を真摯(しんし)に受け止めて警備に当たるべきだ。法令順守は言うまでもなく、威圧的と受け取られないよう細心の注意を払うことが求められる。
 原告側は、今回の訴訟の最大の争点を「国家が一部地域に国策を押しつけるため、警察権力によって住民らの抵抗を排除することが許されるか」に置いた。抗議活動は平和的に行われており、都府県の機動隊派遣自体が工事推進を目的とした違法なものと訴えたが、その主張は通らなかった。
原告は控訴する方針だ。愛知県でも来年3月、同趣旨の住民訴訟の判決がある。身近な都道府県警察の在り方を通して、沖縄の基地問題が問われている。

  社説 辺野古埋め立て 血税の浪費直ちにやめよ  琉球新報2019年12月24日

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、埋め立てに10年程度を要すると政府が見積もっていることが分かった。軟弱地盤が存在するためだ。
 順調に進んだとしても、普天間飛行場の返還は2030年代になる。辺野古移設が普天間の早期の危険性除去につながらないことは明らかだ。沖縄の民意に反するばかりか、貴重な自然を破壊し、血税の浪費につながる新基地建設は即刻中止すべきだ。
 県は昨年の時点で、地盤改良に5年、埋め立てに5年、施設整備に3年を要し、合わせて13年以上かかると指摘していた。大幅に長期化するという見通しの正しさが裏付けられた格好だ。
 県の試算によると、総工費は最大2兆6500億円まで膨らむ。投入される国費が莫大(ばくだい)な金額になるのは間違いない。だが政府は、埋め立て工事に要する総事業費を「少なくとも3500億円以上」としか説明していない。
 いつ完成するのか、費用はいくらかかるのか、といった肝心の部分を置き去りにしたまま、見切り発車で工事を始めたからだ。政府のやり方は泥縄式であり、ずさんの極みと言うほかない。
 日米両政府が13年に合意した現行の基地返還計画は、埋め立てに5年、施設整備に3年を見込み、普天間飛行場の返還は「22年度またはその後」とされた。
 工事は当初計画よりも大幅に遅れ、埋め立て工事の進捗(しんちょく)率は県の推計で全体の1%にとどまっている。埋め立てに「10年程度」かかるというが、実際はさらに長引く可能性もある。
 大浦湾側に軟弱地盤が存在することは昨年3月、市民が情報開示請求で入手した沖縄防衛局の地質調査報告書によって公になった。防衛省は把握していたが、認めたのは今年1月だ。都合の悪い情報を隠してきたのである。
 地盤の改良が必要な海域は73ヘクタールにも及ぶ。深いところでは海面から約90メートルに達している。砂を締め固めたくいを約7万7千本打ち込む工法が示されている。国内で前例のない難工事である。そもそも実現性さえ疑わしい。
 防衛省は地盤改良工事に入るための計画変更を年明け以降に県に申請するという。県は承認しない構えだ。新基地建設反対は玉城デニー知事の公約なのだから当然である。今後、新たな法廷闘争につながる可能性もある。
 埋め立ての賛否が問われた2月の県民投票で投票者の7割超が反対した。民意の重みをないがしろにし、問答無用で新基地建設を強行するさまは、およそ民主主義国家の振る舞いとは思えない。
 政府は新基地の建設を断念し、県内移設を伴わない普天間飛行場の速やかな全面返還を米国に提起すべきだ。
 この先10年以上も普天間飛行場の脅威が続く事態は断じて容認できない。

  社説 [新基地完成まで13年]工事中止し別の道探れ 沖縄タイムス 2019年12月24日

 「一日も早い危険性の除去」と言いながら、今後十数年かそれ以上、普天間の皆さん辛抱してください、と言っているのに等しい計画である。
 名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府が沿岸部の埋め立て工期を、これまでの「5年」から「10年程度」に見直していたことが明らかになった。
 埋め立て海域東の大浦湾側で見つかった軟弱地盤の改良工事のためである。埋め立ての後、さらに飛行場の整備に3年を見込んでいる。
 仮に工事がスムーズに進んだとしても、米軍普天間飛行場の返還は2030年代半ば以降に大きくずれ込む公算だ。当初予定からは30年以上も遅れることになる。
 全体計画をずたずたにするような大幅な工期延長である。計画は完全に破綻した。
 普天間返還は、1996年の日米合意で「5年ないし7年」とされ、早ければ2001年の見通しだった。だが先送りが繰り返され、両政府が13年に合意した現行計画では、工期を5年と想定した上で「22年度またはその後返還」となった。
 国はこれまで「世界一危険な飛行場」だとし、移転の必要性を繰り返し強調してきた。この期に及んでもう十数年我慢してくれというのは、住民に対する背信行為だ。
 それだけではない。「一日も早い危険性除去」との決まり文句は、実態の伴わない誇大広告になってしまった。
 これ以上、工事を強行し続けることは許されない。
 工期の長期化に伴って、少なくとも3500億円以上としてきた関連経費の大幅な増加が避けられない。
 県は昨年「運用まで13年以上、予算は最大2兆5500億円」との試算を示している。工期に関しては見通しがおおむね裏付けられた形だ。
 新基地を巡って国は環境アセスメントの段階からオスプレイ配備など肝心な情報開示を渋ってきた経緯がある。
 今回、軟弱地盤の存在が明らかになったのは市民団体の情報開示請求によるものだった。国が主体的に公表したものではない。
 7万本以上もの杭(くい)を打ち込む地盤改良工事では、ジュゴンやサンゴなどへの影響が懸念されている。既に本島周辺に生息するジュゴン3頭のうち1頭の死骸が確認され、残り2頭は行方不明のままだ。
 「工期」「工費」「環境保全」のどれをとっても、当初計画とは似ても似つかぬ事業になってしまった。
 国は普天間返還までの十数年かそれ以上の期間、どのような対策を取るつもりなのか。
 今後、取るべき道は、埋め立てを中止し計画を全面的に見直すか、軟弱地盤の改良に伴う環境アセスやジュゴン調査などを実施し、一から埋め立て申請をやり直すか-そのどちらかしかない。
 国は計画が破綻したことを素直に認め、玉城デニー知事が求めている対話に応じるべきである。
 これ以上県民をもてあそぶようなことがあってはならない。