<社説>辺野古土砂投入1年 工事断念し普天間閉鎖を  琉球新報 2019年12月14日

 政府は沖縄の人々を国民と見なしているだろうか。そんな疑問が湧くほど傍若無人極まりない。
 名護市辺野古の新基地建設に向け、辺野古沖に政府が土砂投入を始めてから14日で1年となった。その約2カ月半前には、建設に反対する玉城デニー氏が相手候補に約8万票の差をつけて当選したばかりだった。その民意を無視した土砂投入は民主主義国家にあるまじき暴挙だ。
 投入後のこの1年も県民は諦めず建設反対の民意を示し続けた。極め付きは2月の県民投票である。知事選の結果は多様な政策選択の表れだとして建設反対の民意を軽んじる政府に対し、辺野古埋め立ての賛否だけを問い、投票総数の7割が反対の意思を示した。直接民主制の方式を使った決定的な民意だ。しかし政府は一顧だにしなかった。
 県民投票後も、4月には名護市を選挙区に含む衆院沖縄3区補選、7月には参院選で、いずれも建設に反対する候補が勝利した。これらの結果も無視された。この状況は国際的に見ても異常で、恥ずべき事態だ。真の民主主義国家なら沖縄の民意を踏まえて建設を断念し、普天間飛行場を即時に閉鎖するはずだ。
 しかし政府は異常と考えていないようだ。対話を求める県の「待った」をねじ伏せるかのように行政手続きを進め、工事を強行している。このため二つの訴訟が進行中だ。
 国土交通相は4月、県の埋め立て承認取り消しを取り消す裁決を下した。このため県は7月、国を相手に裁決の違法性を主張し提訴したが、高裁は県の訴えを却下した。県は上告している。一方、県の埋め立て承認撤回は適法であり、撤回を取り消した国の決定は違法だとして、県は8月に国交相の裁決取り消しを求める裁判も起こしている。
 国と争う県の姿勢の背景には、建設に反対する多くの県民の強固な民意がある。辺野古移設は政府が言うような負担軽減ではなく、滑走路をはじめ弾薬庫や軍港も新たに整備される機能強化だとの認識が県民の間で定着している。
 米中ロが核戦力を拡大させる新冷戦時代に入り、核弾頭搭載可能な中距離ミサイルを米国が沖縄をはじめ日本に配備する計画もある。沖縄は日本復帰前と同様、核戦争の最前線に置かれる恐れがある。ミサイル配備とともに新基地建設は「敵国」から標的にされる危険を増す要因になる。
 ミサイル配備阻止を含め、新基地建設を断念させる広範な世論を起こさなければならない。埋め立て工事は、軟弱地盤の影響で完成は見通せない。その間、普天間の危険性が放置されることは許されない。
 工費は県試算で最大2兆6500億円に上る。社会保障費の確保がままならない中、膨大な血税の投入に見合う基地なのか。疑問だらけだ。全工程で見れば工事の進捗(しんちょく)はわずか1%だ。建設を断念させることを諦めてはいけない。

 社説[辺野古土砂投入1年]沖縄県独自の検証委設置を   沖縄タイムス 20191214

 名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局が海に土砂を投入し始めてから、きょうでちょうど1年になる。
 その前から続く米軍キャンプ・シュワブゲート前での反対派による抗議行動は、きょうで1987日を数える。
 この間に知事選、国政選挙、県民投票があり、いずれの投票においても反対の民意が明確に示された。だが国の強引な手法は少しも改まっていない。
 海域東の大浦湾側に広がる軟弱地盤の改良工事のため、政府は早ければ来年1月にも、県に対し、設計変更を申請する考えだ。
 6月には県議選が予定されている。辺野古問題は司法の場で争われている訴訟の最高裁判決を含め、年明けから重要事案がめじろ押しだ。
 土砂投入に至る過程で明らかになったのは、さまざまな関連法規が国の一方的な解釈によって骨抜きにされ、県との事前協議なしに、県の合意もないまま、作業が進められてきたことである。
 埋め立て承認の際の留意事項は「実施設計について事前に県と協議を行うこと」などのほか、「ジュゴン、ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと」を求めている。
 ところが防衛局調査で本島周辺に生息することが明らかになったジュゴン3頭のうち1頭が死んでいるのが見つかり、残る2頭は行方不明のままだ。
 国際自然保護連合(IUCN)はついに、南西諸島のジュゴンを絶滅の危険度が最も高い「絶滅寸前」の種に引き上げた。
 日本自然保護協会は11日、政府に対し、埋め立て工事を一時中止し、環境への影響を再評価するなど緊急対応を求める声明を発表した。
 私たちはこの声明に全面的に賛同する。留意事項を誠実に実行する意思があるのなら、ジュゴンの絶滅を防ぐための対応こそ急ぐべきだ。
 政府は、専門家でつくる環境監視等委員会のアドバイスを受けながら作業を進めている、と言うが、いま必要なのはその委員会の公正性、中立性の検証だ。
 軟弱地盤の改良工事にあたっても、政府は土木工学などの専門家による技術検討会を発足させた。
 有識者からお墨付きを得て客観性をアピールし、政策を推進する-その手法は安倍政権の特徴である。
 しかし委員会の透明性は不十分で、説明責任も尽くしたとは言えない。
 県には、政府による設計変更申請を待つのではなく、内外の専門家による検証委員会の立ち上げを提案したい。
 環境監視委や技術検討会で配布された資料と委員発言の全てを公開させた上で、科学的根拠に基づいた評価がなされているのか、独自に検証し、設計変更申請に対する判断材料にするのである。
 琉大名誉教授だった故東清二氏が環境監視委の副委員長を辞任したのは、この委員会では環境は守れないとの理由からだった。受け身の対応では事態は打開できない。