原発のたたみかた 2
 「夢」覚めた研究炉 「ふげん」放射性廃棄物5万トン
 毎日新聞2019年11月28日 東京朝刊

 「もんじゅ」燃料取り出しの流れ

 <科学の森>
 原子炉の開発では、実験炉→原型炉→実証炉→実用炉と段階を踏んで、技術を確立したり経済性の見通しを確認したりする。

「もんじゅ」燃料取り出しの流れ かつて「夢のエネルギー源」と言われたプルトニウムを使うため、技術の実証をする原型炉として建設された新型転換炉「ふげん」、高速増殖炉「もんじゅ」(いずれも福井県敦賀市)でも、今は廃炉が進む。その作業は困難が伴い続ける。【荒木涼子】
 若狭湾に向かって突き出す敦賀半島の先に、日本原子力発電の敦賀原発がある。その奥の日本原子力研究開発機構の敷地に入ると、円柱形の建物が見えてくる。ふげんの原子炉建屋だ。
 通常の原発から出る使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)にして原発で再利用する「核燃料サイクル」。その中で、MOX燃料などを使って燃料を効率的に変化させることを目的とした新型転換炉の実用炉を開発するため、ふげんは1979年に本格運転を始めた。
 しかし、経済性が見通せなくなり、2003年に運転が終了した。08年からの廃炉作業は、4段階のうちの第2段階に入り、原子炉周辺の設備を解体、撤去している。廃炉の費用は約747億円の見込みという。
 10月17日のタービン建屋。運転時には配管があったという床に、切断された配管の破片などが入ったラックが積み上がっていた。「放射能濃度の測定待ちです」。岩永茂敏・技術広報統括は説明した。解体による廃棄物は計約19万トンになりそうだという。うち約5万トンが放射性廃棄物となる。
 ただ、測定して「年間被ばく線量が0・01ミリシーベルト」となる基準値(クリアランスレベル)以下なら、一般の産業廃棄物と同様の扱いになる。放射性廃棄物約5万トンのうち、約4・6万トンは基準値を下回りそうだという。1日に測定できる量は最大約1トンで、10月末までに測定できたのは約150トンにとどまる。今後、測定器や作業員を増やすが、時間はかかりそうだ。
 工程が原子炉本体の解体となる第3段階に進むと、初めての作業も待ち受ける。配管は特殊な構造をしている上、素材は粉末になると空気中で発火しやすいジルコニウムが含まれているため、水中で原子炉を解体することになる。そのため職員は、水中で切断できるレーザーや遠隔操作するロボットなどを使う技術に習熟しなければならない。昨年から、敷地外の別の施設で訓練を実施。原子力機構は22年度、原子炉に解体用のプールや遠隔操作する装置を設置し、1回目の切断を23年度中に始める計画を立てている。

「もんじゅ」は第1段階

                             「ふげん」「もんじゅ」の地図

 敦賀半島には、北西部に「もんじゅ」も建つ。外観に変化は見えないが、廃炉工程の第1段階として昨年8月、核燃料の取り出し作業が始まった。今年9月17日には、原子炉内に残る核燃料を、炉の横にある燃料プールへ遠隔操作で運び出す作業(図の<1>)があった。
 午前10時半、中央制御室近くの操作室にいた職員の一人が、遠隔操作のスイッチを押した。10年に燃料交換装置を炉内に落下させる事故を起こしたため、作業は約9年ぶり。室内には緊張感が漂った。「訓練を積んできたので自信を持ってスタートできた」。原子力機構の伊藤肇理事はそう振り返った。
 もんじゅも核燃料サイクルの一端を担い、使った以上の燃料を生み出す高速増殖炉の開発のため、建設された。一般の原発では炉心を冷やすための冷却材として水を用いるが、もんじゅの場合は液体ナトリウムだ。空気中の酸素や水に触れると発火や爆発の危険性があり、取り扱いが難しい。この日核燃料が運び込まれた燃料プールも、液体ナトリウムで満たされている。
 もんじゅは、94年に核分裂が連鎖的に続く臨界に初めて達したが、その後は95年のナトリウム漏れ事故などトラブルが相次いだ。1兆円の税金がつぎ込まれながら、稼働実績はわずか250日にとどまった。
 廃炉でもナトリウムは立ちはだかっている。最初の山場は、昨年に始まった計530体の核燃料の取り出し作業だ。中でも炉の横にある燃料プールから、水で満たされた「燃料池」と呼ばれる別の燃料プールへの移送(図の<2>~<4>)は、燃料の集合体の表面などに微量のナトリウムが残らないよう、きれいに取り除く必要がある。<1>~<4>は22年度中に完了する予定だが、高放射線量のため、すべて遠隔操作で作業しなければならず困難が伴う。
 ナトリウム自体を取り出すのも課題だ。廃炉計画には取り出す方法や時期は盛り込まれておらず、処分先も決まっていない。そこで原子力機構は、ナトリウムが使われた原子炉の廃炉で先行する英仏両国に、30代の若手研究員を1人ずつ送り出した。トラブルや成功の事例を学び、取り出す時期を探るためだ。原子力機構は22年度中に取り出し方法を決定したいとしている。
 廃炉の完了は47年度の予定。費用は3750億円になる見通しだが、原子力機構関係者の間には燃料の処理を含めると1兆円を超すとの見方もある。
 もんじゅとふげんの敷地は、いずれも廃炉が完了すると更地にされる。地域の振興のため、福井県はもんじゅの敷地に新たな試験研究炉を整備するよう国に求めているが、具体的な話は表に出てきていない。
 かつて、輸入されたMOX燃料の運搬に携わったという男性(79)は「日本のパイオニアは俺たちという自負があった。廃炉の原子炉ばかり並ぶと、やはりさみしいよね」と話した。
「夢」から覚めた今、その後始末の負担がのしかかる。跡地の姿は見えていない。=つづく