(社説)「連合」結成30年 存在感をどう取り戻すか  毎日新聞 2019年11月18
「連合」結成30年 存在感をどう取り戻すか

 主要な労働組合の全国組織、日本労働組合総連合会(連合)が今週、結成30年を迎える。
 この間、バブル経済が崩壊しデフレが長引いた。グローバル化の進展も重なり、雇用環境は激変した。
 最大の変化は、経済界が求めた規制緩和などを受けた非正規労働者の増加だ。2018年に2120万人に上り、働く人に占める割合は30年弱で約2割から約4割に増えた。
 だが連合は、時代の変化に十分対応できなかった。
 春闘では、雇用が危ぶまれるような状況に、ベースアップ要求さえ掲げられない時期があった。一方、安倍政権が経済界に賃上げを要請する異例の対応に乗り出し、連合の存在感が低下した。
 組合員数は発足時の約800万人を下回る約700万人になった。組織率の低下が指摘されている。
 連合は大企業の正社員が主導し、特権的な「正社員クラブ」とも皮肉られてきた。08年のリーマン・ショック後の「派遣切り」を機に、非正規労働者の加入を進めてはきたが、道半ばだ。
 政治的な影響力も薄れてきている。かつては、連合が支持する非自民勢力による政権交代を目指し、細川連立政権や民主党政権の誕生に一役買った。
 だが、自民党が政権を奪回すると民主党は分裂した。連合傘下の労組の支持は立憲民主党と国民民主党に分かれ、股裂き状態だ。原子力発電などの政策面でも、意見の統一を図れていない部分がある。
 労働組合の意義自体は今も変わらない。過労死は続くが、政府主導で成立した働き方改革関連法では、残業時間の上限が過労死の労災認定基準レベルだ。職場内外のハラスメントや若者らのブラックバイトなど、働く人が直面する問題は多い。
 こうした課題に対応できなければ、ますます存在意義を失う。
 連合は30周年を機に、非正規に加え、フリーランス、外国人労働者らの相談に応じる「フェアワーク推進センター」を新設した。関係するNPOなどとの連携も大切だ。
 存在感を取り戻すには、「弱い立場の働く人を守る」という原点に立ち戻り、組合員以外の人も支援する活動を広げなければならない。

 (社説)連合結成30年 次代の運動模索を       茨城新聞 20191118

 民間と官公の労働組合が結集した全国中央組織の連合が今月、結成から30年を迎える。だが経済成長が停滞する中、賃上げ交渉で存在感を示せず、正社員組合員の減少で組織拡大も難航。政策実現のための政治活動でも民進党分裂後は支持政党を絞れないままだ。
 連合の神津里季生会長は15日、日本記者クラブで会見し「一人一人の働く者と結び合う」と打開に向け非正規雇用、外国人、フリーランスとも連帯を強化する考えを強調した。労働者の生活改善の諸課題は尽きない。次代の労働運動を模索する取り組みに期待したい。
 官公労組が中心の旧総評と民間労組が軸の旧同盟などが大同団結し、連合は19891121日に組合員数約800万人で発足した。1千万人への拡大を目標に掲げたが、2007年には665万人にまで減少。非正規労働者の加入増加で今春、17年ぶりに700万人台まで戻したが、伸び悩みは明らかだ。
 日本全体の労組組織率についても、連合は発足時に「30%台回復」を目指したが、昨年は17%まで減少。これはパートや有期雇用、派遣といった非正規労働者が働く人の約4割にまで増えたのが要因だ。「正社員クラブ」とされた連合は非正規対応が後手に回った。
 08年のリーマン・ショック後に「派遣切り」で非正規労働者が大量解雇され社会問題化。非正規支援が正社員の労働条件悪化につながることを懸念した連合は対応が遅れる。これが社会の批判を浴び、連合は存在意義をかけて09年春闘から非正規関連の要求も盛り込むように転換した。
 日本の企業は新卒一括採用、終身雇用を慣行としてきた。これに合わせ労組も欧米のような産業別組合ではなく企業別組合が中心だ。非正規雇用の増加などで終身雇用が揺らぐ中、労組の在り方も問われざるを得ない。
 同様に春闘も曲がり角だ。連合が賃上げ要求方針を定めて主導する春闘交渉は従来一定の役割を果たしてきた。その中心は賃金体系全体を引き上げるベースアップ要求だが、00年代は不況で見送る年が多かった。これに対し、デフレ脱却を掲げる安倍政権が産業界に賃上げを求めて介入する「官製春闘」が続いた。

 さらに言えば、残業規制、同一労働同一賃金など安倍政権が取り組む働き方改革は、労組が労使交渉を通じて経営側から勝ち取るのが本来の姿との見方もできるだろう。政府が立ち上げた「全世代型社会保障検討会議」に経済界の有識者がいる一方、労組側が加えられなかったこともあり、存在感を発揮できていない現状を連合は謙虚に受け止めるべきだ。
 一方、連合は労働者の利益になる政策を実現するため、発足時から政治に積極関与してきた。1993年の非自民8党派連立による細川護熙内閣、2009年の民主党による鳩山由紀夫内閣発足という二つの政権交代を連合が組織的に支えた。
  しかし12年に民主党政権が倒れた後は、同党が衣替えした民進党が17年に分裂。今年7月の参院選では立憲民主党と国民民主党に、連合傘下の産別組織の支持が別れ、政治的影響力が十分行使できないでいる。これには、脱原発か再稼働容認かで連合内部が割れていることも影響している。30年たっても大同団結は、連合にとってなお重い課題である。

 (社説) 働く人を守る 労働組合を活用したい  東京新聞 2019年11月21日

  労働条件の改善を求め働く人たち自らが労働組合を結成する動きが目立つ。働き方が多様化する時代、労働者の権利や健康をどう守るのかが大きな課題になっている。もっと労組を活用していい。
 17%。最近の労働組合の推定組織率だ。換言すれば8割以上の職場に労組がないことになる。
 経営側に対峙(たいじ)する労働者の「盾」のような存在と言うには心もとない数字だ。
 一方、注目すべき動きがある。
 米配車大手ウーバー・テクノロジーズが日本で展開する「ウーバーイーツ」の配達員が10月、労組を結成した。
 配達員たちは雇用されている従業員ではなく「個人事業主」だ。個人事業主は法的には「労働者」ではないため労災や雇用保険、最低賃金などの規定が適用されない。配達員たちは特に事故時の十分な補償を求めている。
 まだある。東京電力の関連企業で各家庭の電気メーターの交換業務を請け負う人たちが昨年12月に労組を結成した。請負契約打ち切り問題で団体交渉を求めている。請負で働く人も個人事業主だ。
 個人事業主でも労組は結成できる。それは労働組合法が失業者も含め雇用されていなくても広く労働者と認めているからだ。プロ野球の選手らが労組をつくり球団と交渉する例もある。
 個人事業主だが、実態は取引先から指示を受けるなど事実上労使関係にある働き方をしている人もいる。雇用形態に関係なく働く側は企業より立場は弱い。幅広く働く環境を改善せねばならない。
 労働運動は下火となったが、団体交渉などで企業と交渉できる労組の役割は今も小さくない。
 雇用される従業員でも今後は兼業や副業に挑戦する人や、フリーランス、外国人労働者も増える。どんな働き方をしても頼れる労組の存在はさらに重要になる。
 11月に発足30年を迎える連合もこの課題に直面している。
 今後は、こうした多様な働き方への支援に乗り出す。労組を結成できない人の連合加盟も認めるという。日本最大の労組の中央組織として当然の対応だ。
 連合は大企業で働く組合員が中心で「正社員クラブ」ともやゆされてきた。パートなど非正規労働者への対応が後手に回ってきたことは否めない。同じ轍(てつ)を踏むべきではない。
 「働き方改革」は労組のあり方の再考や意識改革も迫っていると自覚してほしい。