(社説)東電の日本原電支援 無理を重ねる原発延命策 毎日新聞 2019年11月14

 福島第1原発事故の賠償・廃炉に責任を負う東京電力ホールディングスが、経営難の日本原子力発電を助ける。無理に無理を重ねる構図だ。
 東電は原電が再稼働を目指す東海第2原発(茨城県)の安全対策工事への資金支援を決めた。原電が自力で工事費を賄えなかったからだ。
 再稼働後に原電から受け取る電気の代金を前払いする形という。支援額を明らかにしていないが、2200億円にのぼる見込みだ。
 東電は支援の理由を「低廉で二酸化炭素排出量の少ない電源として期待できる」と説明した。しかし、東海第2は安全対策工事を終えても再稼働できるか疑問視されている。
 再稼働について、原電は立地する茨城県と東海村以外の周辺5市にも「実質的な事前了解権」を認める安全協定を結んでいる。
 事故時の住民避難計画の策定が義務付けられた30キロ圏内に全国最多の約96万人が居住することが背景だ。計画策定は難航しており、自治体の同意は見通せていない。
 再稼働できなければ、東電は大きな損失を被る。にもかかわらず、支援するのは、筆頭株主として原電の破綻を避けたいことに加え、安全審査を通過した原発が動かない実例を作りたくない思惑がある。
 東電の柏崎刈羽原発(新潟県)も安全審査に合格したが、再稼働が見通せない。東海第2が再稼働できなければ、影響が及びかねない。
 原電は全原発4基のうち2基が廃炉作業中だ。2基が残るが、敦賀原発2号機(福井県)は原子炉建屋直下に活断層がある可能性が指摘され、再稼働は難しい。東海第2が動かなければ、会社の命運が尽きる。
 東日本大震災後に全原発が止まった原電の経営は、東電などが原発の維持・管理を名目に払う年1000億円の基本料金で支えられてきた。
 原発再稼働を推進する政府は東電の原電支援を黙認している。だが、無理を重ねて原電や原発の延命を図ろうとしても、世論や地元の理解が得られるとは思えない。
  原電は1966年に日本初の商業炉を稼働させたパイオニアだ。しかし、原発の新増設が困難な中、「発電会社の使命は終えた」と指摘されてきた。国は廃炉専門会社化など抜本的な再生策を検討すべきだ。