原発のたたみかた
 [東海、進まぬ廃炉 当初見通しは「17年度終了」
 毎日新聞2019年10月24日 東京朝刊

 <科学の森>
 東京電力福島第1原発事故から8年半余りが過ぎ、各地の原子力施設の「廃炉」が相次いで決まっている。これまでに経験のないことで大きな壁が立ちはだかっており、商用原発で初めて解体に取り組んだ日本原子力発電(原電)の東海原発(茨城県東海村)を手始めに、「廃炉時代」の課題を探る。
【岩間理紀、斎藤有香、荒木涼子】

 ●国内初の商用
 太平洋岸に建つ東海原発。心臓部の原子炉建屋内は、原子炉を囲むように4基ある熱交換器の一部や配管が撤去され、がらんとしている。
 廃炉作業が始まったのは2001年12月だ。「キーン」。00年代初頭には、防護服を着た作業員が電動ノコギリで金属製の部品を切断する甲高い音が建屋内に響いていたという。
 当時、解体していたのは使用済み核燃料を格納していた冷却プールの設備だった。巨大な傘立てのような形をした高さ約2メートルのラック30個ほどを一つずつクレーンでつり上げ、除染してから取り壊した。
 原電の元取締役で、専門家らが廃炉などを考える「原子力デコミッショニング研究会」事務局長の佐藤忠道さん(68)は、そのころの作業に携わった。「廃炉は、管理しづらい『液体』の部分から片付けるのが鉄則。(その片付けが進み)がらんとなったプールを見た時は感無量だった」
東海原発は1966年7月、国内で初めて運転した商用原発でもあった。出力は16万6000キロワット。「夢のエネルギー」の象徴だったが、炭酸ガスを活用するガス炉で発電効率などが悪かったこともあり、98年3月に運転を終えた。

 現在の廃炉の進め方は、電力会社がまず、解体の工程を示した廃止措置計画を原子力規制委員会へ提出する。計画は4段階に分かれ、「第1段階」は使用済み核燃料の取り出しや汚染状況の確認など解体前の準備をする。次の「第2段階」では、原子炉周辺の設備などを解体する。
 「第3段階」になって、放射能レベルを10年ほどかけて下げた原子炉の中心部などを取り壊す。最後の「第4段階」で、建屋をばらして更地に戻す。開始から完了までの期間は、30~50年という長い時間がかかる。
 こうした廃炉の流れは、規制委が12年に発足する前もほぼ同じだ。東海原発は現在、第2段階に入っている。

 ●探せぬ処分場
 廃炉の完了予定について原電は当初、17年度としていた。しかし、10年になって「3年延長する」と発表するなど、これまでに3回も変更。現在は、最初の計画より13年遅れて30年度としている。
 なぜ先延ばしされたのか。背景には、廃炉の各段階で出る放射性廃棄物の問題がある。放射性廃棄物は、放射能のレベルが高い順に「L1~3」と区分される。例えば、制御棒などの「L1」や圧力容器といった「L2」は主に計画の第3段階で、原子炉につながる配管などの「L3」は主に第2段階で生じる。
 東海原発で発生する放射性廃棄物の総量は、計2万6900トンに上る見通し。そのうち、「L1」分の約1600トンは、規制委の方針で「10万年後まで深さ70メートル以上の安定的な地下に埋めなければならない」と示されている。東海原発を含めた「L1」の廃棄物をどこで処分するかは、電力大手でつくる電気事業連合会(電事連)が中心になって処分場を探す方針だ。
 しかし、規制委は「L1」の処分場に関する規制の基準作りをまだ終えていない。そのため、電事連は処分先を探すのもままならない。「L2」については基準こそあるが、こちらも処分先は未定だ。
 このため、原電は「L1」や「L2」の廃棄物が出る「第3段階」に進めず、終了予定を延期せざるを得なかった。「L3」は東海原発の敷地内に埋めることにしている。「L1」「L2」の処分場を確保できなければ、解体しても行き場のない大量の「ごみ」であふれ、作業が滞りかねない状況だ。

 ●原子炉は手つかず
 行き場のない「ごみ」は、商用原発だけではない。63年に国内で初めて原子力発電に成功した日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の試験炉「JPDR」は、76年に運転を終えて96年に廃炉を完了させた、としている。しかし、廃炉で生じた放射性廃棄物約3770トンは、今も敷地内に残ったままだ。
 一方、商用原発の廃棄物の場合、電事連の試算によると各地に建つ全57基が廃炉になると、その総量は計45万トンと見込まれる。今後、処分場の規制基準が決まっても、処分先の選定には地元自治体の了解が必要で、処分場の建設には規制委の審査も通過しなければならない。
 東海原発では現在、残った熱交換器の解体が検討されている。ただ、同じ敷地内にある東海第2原発で働く40代の男性作業員は「最近は(作業のために)東海原発に人が入っているのをあまり見ないなあ」と話した。原子炉が手つかずで残る東海原発の姿は、廃炉の足踏みを物語っているかのようだ。=つづく

 ●廃炉予定は4割の24基
 出力の小さい原発など、国内で「廃炉」が増えているのは、老朽化したり、福島第1原発事故を契機に安全対策費がかさんだりしているためだ。廃炉予定の計24基は、国内に建設された全57基の4割に当たる。事故後、運転期間が原則40年に制限されたことも廃炉を後押しした。廃炉が完了した原発はまだない。
 原子力規制委員会による「廃止措置計画」の審査を受けているのは、関西電力の大飯(おおい)1、2号機(福井県)や、四国電力伊方2号機(愛媛県)など計5基。規制委に認可され、計画の「第1段階」に入ったのは、関電の美浜1、2号機(福井県)など計5基になる。
 第1段階を終え、原子炉の周辺にある設備などを解体する「第2段階」に進んでいるのは、原電の東海(茨城県)のほか、中部電力の浜岡1、2号機(静岡県)や原電敦賀1号機(福井県)の計4基。浜岡の1号機は76年、2号機は78年にそれぞれ営業運転を始めたが、老朽化などにより、いずれも09年1月に運転を終えた。その年の11月に始まった廃炉作業は、ともに36年度までの予定だ。
 中部電によると浜岡原発では、廃棄場所が決まっていない「L1~3」の廃棄物は約2万トン出る見通しで、当面は建屋内で保管する。放射性廃棄物以外も含めたごみの総量は45万トンになり、廃炉にかかる費用は841億円を見込んでいる。
 解体中の原発のうち、原子炉の本体を解体する「第3段階」になった施設はない。順調に進んだとしても、多くは20年代半ば以降になる見通しだ。東電福島第2の1~4号機の廃止措置計画は、これから申請される。
 一方、事故を起こした福島第1の1~4号機は、核燃料などが溶け落ちた「燃料デブリ」の存在や、地下水が原子炉建屋内に流れ込んで増加する汚染水の対策などの要素があり、通常の廃炉工程とは全く異なる。このため、政府と東電が決めた工程表に基づいて作業が進んでおり、11年12月から30~40年後までに廃炉を完了するとしている。
 ただ、汚染水を処理してタンクにたまり続ける処理水は、今年9月現在で約116万立方メートル。廃炉に向け、前途多難な状況が続いている。