この国に「イージス・アショア」は要らない(1)
 <候補地・秋田> 配備反対闘争の現状
 「イージス・アショア」とは
▽「イージス・システム」とは、相手が発射した弾道ミサイルをレーダー探知して、大気圏外で迎撃し撃墜する「ミサイル防衛システム」のことです。つまりピストルの弾丸をピストルで撃ち落とすと同じ理屈で、強力なレーダー誘導によっても十分な確実性は持ち得ないとも言われています。
▽また、政府は「ミサイル防衛」という“盾”の能力ばかりを強調するものの、実際には巡航ミサイル・トマホークの発射能力を合わせ持ち、明らかに“専守防衛”の一線を超える兵器であり、ロシア・中国が激しく反発しているのはその理由によると言われます。
▽日本は現在「イージス艦(イージス・システムを搭載した自衛艦)」4
艘を所持して日本海海域などでの迎撃態勢を整え、なおかつ間もなく8艘まで増強する計画が進行し、さらに横須賀には米イージス艦16艘が配置されています。それでもなお不十分だとして「陸上配備」を行おうというのが18001000億円といわれる「イージス・アショア」です。「イージス・アショア」はハワイとハンガリーにすでに配置され、ポーランドへの配備も目前ですが、いずれも米軍基地として運用され、東欧配備の全費用は米国が負担しているのです。

 導入計画は「安倍の爆買い」によるもの
▽安倍政権は201712月、突如「北朝鮮ミサイルの脅威」を表向きの理由として「イージス・アショア導入」を閣議決定しました。しかし、その方針は防衛省の意向や要求にもとづくものではなく、「官邸の一方的意向」だったと言われます。内幕は「F35戦闘機」大量購入などと並んで、“押し売りトランプ”に追随した米国製兵器の“アベの爆買い”の一環だったのです。かつて防衛省HPに「ミサイル防衛はイージス艦艘で可能」と明解に書き込まれていた事実は、その動かしがたい証拠です。
▽国会で「機動性のあるイージス艦に比べて、イージス・アショアに有用性はあるのか」と問われた安倍首相が、「陸上イージスなら自宅から通勤できる」という本質をはぐらかす答弁で逃げようとしたことも、戦略なき“爆買い説”の裏付けに他ならないでしょう。
▽そして2018月、地元との事前協議など一切なしに「イージス・アショアの配備先」とされたのが秋田市「新屋(あらや)」と萩市「むつみ」のつの自衛隊演習場です。政府はその選定理由を「秋田・山口への配備で日本海側の列島全域をカバーできる」としていますが、むしろ北朝鮮が発射するミサイルは「ハワイへ向けては秋田上空を、グアムへは萩上空を通過する(米本土へ向けたICBMは日本上空を通過しない)」ことから「米国の前線基地だ」との説が有力で、「安倍と菅の出身地に押し付けた」との説も流布されています。

 なぜ市街地と目と鼻の先の「新屋演習場」に?
▽イージス・アショアがもたらす基地周辺への影響は、@ミサイル発射時の危険、Aレーダー電磁波の生活環境への影響、B基地そのものが相手先制攻撃の標的になること、などが挙げられます。
▽「新屋演習場」は秋田市の西方、日本海に近い場所で面積は約1
平方q、南北2q、東西800mで、けっして広大ではありません。日本海方向の西側隣りに県道が走り、その先は空き地ですが、東側(陸側)の境界から300mほど先には密集する住宅地が広がって市街地へとつながり、1q圏内には小・中・高3つの学校や幼稚園、保育園、免許センターなどがあります。さらに県庁・市役所などの官庁街までq、秋田駅までqという、まさに“県庁所在地の街なか”と言ってよい場所です。それゆえに、近隣住民ならずとも多くの市民が「なぜそんな危険な場所に」との疑念を抱いたのは当然でした。

 イージス基地周辺に及ぶ幾多の危険
▽迎撃ミサイル発射時には高熱の爆風が発せられ、また段目のブースターが近くに落下する危険が生じます。通常は西寄りから垂直方向への範囲に発射されると考えられますが、専門家は「早期迎撃には、水平線に向けて発射される」ことや「追尾すれば東側へ向くこともある」と警告しており、漁業や市街地への直接的な危険性さえも考えられるのです。とりわけ「むつみ演習場」西側に隣接し、「ブースター落下の危険性が高い」とされる山口県阿武町が町ぐるみで、いち早く「設置反対」に立ち上がったのも当然です。
▽ミサイル探知のためにイージス・アショアから24時間発生する強力な電磁波は、近隣住民の健康やテレビ・通信機器などに影響を及ぼすだけでなく、医療機器や航空機にも影響を及ぼし、「ドクターヘリの航行制限は避けられない」と指摘されています。防衛省は「230m離れれば電磁波の影響なし」と説明していますが、「イージス艦では航行中乗員が甲板に出ることが厳禁されている」事実から考えても、誰も納得しないでしょう。また、防衛省がイージス・アショアとは比較にならない小出力の自衛隊レーダーを現地調査に用いて安全性をPRしていたことも、地元住民の大きな不信を招いています。新屋演習場はどう考えても適地になりえません。
▽ミサイル攻撃を意図する側が、「まずは相手のミサイル防衛網を破壊する」と考えるのは当然で、イージス・アショア基地が先制攻撃のターゲットにされることは必然です。よもやの場合には、秋田市街が“戦火を浴びる”ことも避けられなくなります。とりわけ秋田市は、終戦前夜の1945(昭和20)年14日から15日にかけて、“日本最後の空襲”といわれる「土崎空襲」によって多大な犠牲を被った土地柄であり、その悲惨な記憶が「反対運動」を突き動かす大きな原動力にもなっています。
▽すでに稼働中のハワイとハンガリーのイージス基地の実情は、県議団の視察報告や地元紙の調査報道で詳しく紹介されていますが、両基地ともあまりに広大かつ人里離れていて「新屋演習場」とは比較にならず、それでもなお「ブースター落下」や「電磁波の影響」には厳密な対応策が講じられているとのことです。
 
 反対運動の広がり
▽「新屋演習場配備」の計画が明らかになるや、近隣住民は真っ先に立ち上がりました。地元町内会である「新屋勝平地区振興会」はいち早く「配備反対」を決議し、以来学習会の開催や街頭活動、行政や議会への要請行動など、一貫して反対運動の先頭に立ち続けています。その動きは秋田市内中心部の町内会にも及び、反対決議や住民運動の輪が着実に広がりを見せています。
▽各政党や平和団体の動向では、県議会、秋田市議会ともに自民・公明以外の野党会派は一貫して「新屋配備反対」を掲げて議会活動を行ってきました。市民運動レベルでは当初から社民党系「STOPイージス!秋田フォーラム」や共産党系「イージス・アショアを考える県民の会」が発足、その他の市民グループも登場しており、それぞれ街頭行動を含む積極的な反対運動を展開しています。また「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動秋田県実行委員会」としての取り組みも展開され、最近の「戦争法強行採決4年秋田をミサイル基地にするな 9.19秋田県民集会」とデモには150人が参加し、社民・共産に加え立憲民主党代表も参加していました。
▽一方、労働組合の取り組みは「平和労組会議」「全労連」の枠組みでの取り組みが中心ですが、最大のローカルセンター「連合秋田」には残念ながら具体的な運動の動きはなく、今後も予定はないようです。
▽特筆すべきは地元紙「秋田魁(さきがけ)新報」の頑張りです。発行部数24万部、県内割の世帯が購読する同紙は当初から「新屋演習場配備反対」の旗幟を鮮明にし、社長自らが「兵器で未来は守れるか」との論文を1面に掲載するなど、毅然とした姿勢で論陣を張ってきました。「配備計画の問題点」や「海外配備先のルポ」など多面的な調査報道を次々に発信し続け、その努力が遂には防衛省調査の不正を暴く大スクープを生み出しました。一連の報道が高く評価されて「新聞協会賞」「ジャーナリスト会議賞」「むのたけじ賞」などを受賞しましたが、同紙の奮闘は県民世論に大きな影響と勇気を与え続けています。
▽しかし一方で、行政と議会の滑り出しからの動きは鈍く、市民の期待に反するものでした。県議会、秋田市議会は、ともに自民・公明党会派の「防衛省調査の結果が判明するまでは静観」との主張に阻まれ、市民団体の提出した「新屋配備反対の請願」は再三継続審議扱いとなり、県知事・秋田市長も「反対」に踏み込んだ姿勢を見せるには至りませんでした。今年月の統一地方選挙でも自民・公明が過半数の大勢は変わりませんでしたが、当選議員の構成では「新屋配備反対が60%」という状況でした。

                       (2)へ続く