(社説)憲法70年 際立つ首相の前のめり 
    
          朝日新聞 2018年1月23日

通常国会が開会した。安倍首相は自民党の両院議員総会で、こう呼びかけた。

 「わが党は結党以来、憲法改正を党是として掲げてきた」「そしていよいよ実現をする時を迎えている。皆さん、その責任を果たしていこう」

 3月25日の党大会までに、党としての改憲原案をまとめたい――。首相に近い党幹部からはこのところ、そんな発言が相次いでいる。

 だが目下の政治情勢は、首相らの前のめり姿勢とは程遠い。

 焦点の9条について、自民党内ですら意見は割れている。1項と2項を維持して自衛隊を明記する首相案に対し、戦力不保持をうたう2項を削除して自衛隊の目的・性格をより明確にするべきだという議員もいる。

 連立を組む公明党も慎重姿勢だ。山口那津男代表は「国会で議論を尽くして国民の理解、判断が成熟する。ここを見極めることが重要だ」と語っている。

 野党はもちろん、与党内も意見はまとまらず、国民的な議論も深まっていない。そんな中でなぜ首相はアクセルを踏み込み続けるのか。

 自ら昨年5月に打ち上げた「2020年の新憲法施行」に間に合わせるためだ。言い換えれば、安倍氏自身が首相でいるうちに改憲したいからである。

 来年は統一地方選や天皇陛下の退位、新天皇の即位などが続く。夏には参院選があり、国会発議に必要な3分の2超の勢力を維持できるかは見通せない。

 つまり「20年改憲」のためには、9月の党総裁選で首相の3選を決め、年内に国会発議し、来春までに国民投票を終えておきたい、ということである。

 忘れてならないのは、改憲は首相の都合で決めていいものではないということだ。

 首相はきのうの施政方針演説で「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法だ」と述べた。これに対し、立憲民主党の枝野幸男代表は「憲法は国民が公権力を縛るためのルールだ」と反論。首相が間違った前提を改めなければ、「まっとうな議論はできない」と指摘した。

 改憲の是非を最終的に決めるのは、主権者である国民だ。

 重要なのは、国民がその改憲を理解し、納得できるような丁寧な議論を積み重ねることだ。

 首相は施政方針演説で、国会の憲法審査会で与野党が議論を深めることへの期待を述べた。

 だが首相の前のめり姿勢は、これに逆行する。

 国会議員の数を頼み、強引に押し切るようなふるまいは、国民に分断をもたらしかねな

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