記者会見に臨む連合の神津里季生会長(左)と逢見直人事務局長=21日午後4時17分、東京都千代田区、鬼室黎撮影

 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を条件付きで容認する方針転換を巡り、連合の内部で混迷が深まっている。21日の中央執行委員会でも異論が相次ぎ、執行部は組織内での了解取り付けに失敗。神津里季生(こうづりきお)会長は「方針転換」の意義を改めて訴えたが、記者会見では苦しい説明に終始した。

 「引き続き全体が認識を共有していかなければいけないと私から発言し、全体で確認した」

 中執委の後の記者会見。「残業代ゼロ法案」と強く批判してきた高プロを条件付きで容認する方針に転じ、政府、経団連との間で「政労使合意」を結ぶことへの了解取り付けを見送る判断をしたことについて、神津氏はそう説明した。

 連合の修正要求について、政府が経団連と調整のうえ、受け入れると返答してきたことも明らかにしたが、肝心の組織内を固められなかった。会見中の神津氏の表情は終始硬かった。

 中執委は、傘下の産別や地方組織の幹部で構成される連合の意思決定機関。執行部はもともと、この日の中執委の前に政労使合意を結ぶシナリオを描いていた。

 神津氏は20日夜、民放のテレビ番組に出演した後、当初は19日に予定していた政労使合意を連合側の事情で先送りしたことを記者団に認めた。21日の中執委で組織内の了解が得られれば、合意を結べる環境が整うとの楽観的な見方も示したが、中執委では異論が続出した。

 連合によると、出席者は75人だった。出席した産別幹部らによると、このうち10人以上が高プロの修正案について発言。その多くが「なぜ組織に諮らずに水面下で交渉したのか」などと、方針転換の経緯や執行部の意図をただす内容だった。「政労使合意を結ぶべきではない」という明確な反対意見も出たといい、組織内の意見集約をするにはほど遠い状況だった。このため、執行部は了解の取り付けを見送った。シナリオはもろくも崩れた。

 執行部は方針転換について一任を取り付けてもいないため、組織内の了解を得るには、再び中執委で議論する必要がある。今後、主要産別の幹部でつくる三役会や中執委で議論を重ねたうえで、改めて了解を得ることを目指すとしている。

 中執委の次回の定例会合は8月25日。スケジュールを大きく変えないためには、臨時の中執委を開く必要がある。

 執行部が中執委に提出する議案は、三役会で議論してから提案されるのが通例で、承認されないことはほとんどない。ある産別幹部は「仮に異論が出たとしても、執行部一任で承認されることがほとんどだ。承認されなかったのは極めて異例だ」と話す。

■政労使合意、不透明に

 執行部の説明がわかりにくいのは、高プロ導入や裁量労働制の拡大に反対する方針は変わらないとする一方で、その法案の修正を求めているからだ。

 高プロの新設を盛り込んだ、国会に提出済みの労働基準法改正案と、働き方改革実現会議で合意した残業時間の罰則付き上限規制を盛り込む新しい労基法改正案が一本化される――。連合執行部はこうした情勢認識に基づいて、一本化が避けられない以上、少しでも修正して「実を得たい」と説明する。だが、政労使が修正に合意してしまえば、法案に反対するのは難しいとの見方が多い。

 「反対の姿勢は変わらない。民進党には国会で議論を深めてほしい」。神津氏は繰り返し強調するが、逢見(おうみ)直人事務局長の説明は少し違う。18日に民進党の厚生労働部門会議に出席し、「新しい法案には残業時間の上限規制が入る。もとの法案も、年休取得の義務づけなどは大きな前進だと思う。全体像を見て判断してほしい」と修正への理解を求めていた。

 神津氏は21日の記者会見で、「政労使合意の内容を見極める必要がある」「スタンスについて(組織の内外に)誤解が生じるものであってはならない」と協議を続ける理由を説明。「(合意の趣旨などを説明する)前文は大事だと思っている。私たちの趣旨にかなうものでなければ結べない」とも述べ、合意に至らない可能性に含みも残した。

 閣僚の一人は言う。「むこうから要請しているのにまとまらないって、おかしいよね」(贄川俊、編集委員・沢路毅彦)