写真は、連合の神津里季生会長(左)と逢見直人事務局長

 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を「残業代ゼロ法案」と強く批判してきた連合が、条件付きで導入の容認に転じたことが組織内に波紋を広げている。方針転換を主導した次期会長の有力候補の「独走」に、傘下の労働組合が冷めた視線を注いでおり、今秋の会長人事にも影響しそうだ。

 高プロの修正を求めて安倍晋三首相と会談してから一夜明けた14日午前、都内で開かれた産別のOBでつくる団体の定期大会に連合の神津里季生(こうづりきお)会長の姿があった。

 同席した民進党の蓮舫代表らを前に神津氏は、高プロの導入を条件付きで容認した理由についてこう釈明した。「共謀罪法案は与党が強引に成立させた。高プロも、ずさんな健康管理態勢のもとで制度が入れられるのではないかと考え、やむにやまれず、せめて年間104日以上の休日は義務づけるべきだと申し出た」

 しかし、高プロを含む労働基準法改正案は、野党や連合が「残業代ゼロ法案」などと猛反発し、2年以上にわたって一度も審議されずにたなざらしにされていたものだ。加計(かけ)学園問題などで安倍内閣の支持率が下がり、都議選で自民党は大敗。政治情勢が変化する中で、秋の臨時国会で政府・与党が改正案の審議入りを決めれば、批判が再燃する可能性もあった。主要産別出身のある連合幹部は「要請内容はどれも根本的な修正ではない。政権が弱っている中、わざわざ塩を送るようなまねをするなんて、政治的センスを疑う」と突き放す。

 今回の要請は、逢見(おうみ)直人事務局長や村上陽子・総合労働局長ら執行部の一部が主導し、3月末から水面下で政府と交渉を進めてきた。直前まで主要産別の幹部にも根回しをしていなかったことから、組織内には逢見氏らの「独走」への不満がくすぶる。

 逢見氏は連合傘下で最大の産別「UAゼンセン」の出身。事務局採用で、産別の会長まで歴任し、2015年10月から現職。村上氏は、連合の事務局採用の職員から幹部に昇進してきた。

 逢見氏は事務局長に就任する直前の15年6月、安倍首相と極秘に会談し、批判を浴びたこともある。労働者派遣法や労基法の改正案に連合が反対し、政権と対立が深まるなかでの「密会」だった。当時も、組織内から「政権の揺さぶりに乗った」と厳しい指摘が出た。

 ■今秋人事に影響か

 逢見氏は、10月で任期満了を迎える神津氏からバトンを引き継ぐ有力な会長候補だ。神津氏が新執行部の体制を検討する「役員推薦委員会」に対し、異例の1期2年で辞任する意向を伝え、後任人事は逢見氏の昇格を軸に進んでいた。

 しかし、逢見氏ら執行部の突然の「変節」に対し、傘下の産別からは「組織に諮らずに、こんなに重要な方針転換を決めるのはあり得ない。会長になったらどれだけ独断で決めていくかわからない」といった批判が噴き出している。

 労組の中央組織のリーダーとしての逢見氏の資質を疑問視する声も出始めており、会長人事の行方も流動的になってきた。もともと逢見氏の会長就任に慎重な意見があったことに加え、神津氏の留任を望む声もあり、今後の調整には曲折も予想される。逢見氏らの「独走」を追認した神津氏の責任を問う声もある。ある連合幹部は言う。「会長の立場なら止められたはずだ。主導した責任もあるが、それを許した責任も重い」

 ■経団連は歓迎

 経団連の榊原定征会長は14日、連合が「高プロ」の導入を条件付きで容認する姿勢に転じたことについて、「できるだけ早く(連合と)考え方をまとめていきたい」と語り、歓迎する姿勢を示した。首相官邸で記者団に語った。