●放射線管理区域で暮らせますか? グリーンピース ジャパン 2017年2月21日 |
こんにちは。グリーンピース、放射線防護アドバイザーのヤン・ヴァンダ・プッタです。 全村避難をした福島県の飯舘村の避難指示解除が3月31日と言われています。
東京電力福島第一原発から30キロ以上離れているのに、吹いた風にのって高濃度の放射能が降り注いだ飯舘村。 グリーンピースは、もしいま飯舘村に帰って、事故前と同じように生活したら、どのくらい被ばくするリスクがあるのか、飯舘村の住民の方々のご協力のもと、調査しました。 住民の方のお宅7軒で、2万3080カ所で放射線を測りました。 その結果、もし、これらの方々がいま帰還すれば、生涯(70年間)で少なくとも39ミリシーベルトから183ミリシーベルトの範囲で被ばくする可能性があることが明らかになりました。 「政府はこの先どうなるのか教えてくれない」3年間以上、グリーンピースの放射線調査に協力してくださっている飯舘村村民の安齋さん。 「お役所は、これから先自分がどうなるのかを教えてもくれずに、帰れ、帰れって言うばかり。 グリーンピースは、家もまわりもこまかーく測ってくれて、帰ったらどれだけ被ばくするのか、言ってくれて助かる。帰るか、帰らないか、自分で決めたい」 調査結果の発表に先立って、安齋さんをはじめ、調査に協力してくださった住民のみなさんにご報告にうかがうと、安齋さんはそうおっしゃり、報告内容を聞いてくださいました。 私は、「帰る、帰らないを決めるのは、住民のみなさん自身です。どちらを決めても、その意思を尊重します」とお伝えした上で、ご報告しました。 「放射線管理区域」で暮らせますか?安齋さんのお宅周辺では、平均毎時0.7マイクロシーベルトが計測されました。 これをもとにすると、2017年から70年間の生涯被ばく線量は約90ミリシーベルトになると推定されます。* *下表より、屋外で8時間過ごす場合。レポート「遠い日常」より。空間線量の推移を、放射線崩壊を考慮に入れて予測し、累積線量を見積もった。 これには、高濃度の放射能が飛散した事故直後の被ばくは入っていません。 また、被ばくには、体の外から受ける外部被ばくと、呼吸や食べ物から体内に取り込まれる内部被ばくがありますが、内部被ばくは入っていません。 それから、放射能は、時間とともに弱まっていくのを計算に入れています。しかし、たとえば、除染していない森から流れてくる放射能による再汚染などは入っていません。 つまり、事故直後の被ばくや、内部被ばく、森から流れてくる放射能の再汚染などによって、さらに生涯被ばく量が上がる可能性も考えられます。 チェルノブイリ原発事故の被害を受けたウクライナでは、生涯に70ミリシーベルトを超える放射線を浴びてはいけないとしていますが、安齋さんのお宅では、これをはるかに超えて被ばくしてしまうことになります。 また、毎時0.7マイクロシーベルトというのは、本来、「放射線管理区域*」にすべき線量です。 なお、毎時0.7マイクロシーベルトという数値は、安齋さんのお宅の様々な地点で測った数値の平均です。実際には、安齋さんにお話を伺いながら、事故前の普段の生活で使っていた場所を、この表のようにゾーンごとに測定しています。ゾーンごとに平均を出し、さらにその加重平均の数値が毎時0.7マイクロシーベルトです。 *放射線の不必要な被ばくを防ぐため、放射線量が一定以上ある場所を明確に区別し人の不必要な立ち入りを防止するために設けられる区域。法令により定められている。毎時では0.6マイクロシーベルト以上。 「とても帰れない」また、今回、政府のいう「木造家屋内にいれば、屋外の放射線の6割はカットできる」というのは過大評価の可能性があることも明らかになりました。 家の外と中の線量を比べても、それほどカットできていないことがわかりました。 例えば安齋さんのお宅では、家の外の加重平均値は毎時0.7マイクロシーベルトでした。政府のいうように、6割がカットされるなら、年間換算では2.5ミリシーベルトになるはずです。 しかし、安齋さんのお宅の中に設置した個人線量計*は、年間5.1から10.4ミリシーベルトを計測しています。レントゲン1回が約0.05ミリシーベルトとすると、5ミリシーベルトでは100回分になります。 安齋さん宅も、公衆被ばく限度の年間1ミリシーベルトに下がるまでには、50年かかる可能性があります。 安齋さんは、「とても帰れない」と話されていました。 *個人線量計(ガラスバッジ)は、 個人が受けた放射線量を積算したものがわかる線量計です 生涯にわたって受ける線量を推計するために今回は、4つの手法で放射線調査を行いました。 1)敷地内を10ほどのゾーンに分けて、その中を規則的に歩いて、1秒ごとに計測する このとき、ホットスポットは探さない。1つのゾーンにつき、地上1メートル高さの放射線量を、100から1,000カ所くらい計測する。細かく測った上で平均を出すことで、そこがどれくらいの放射線量なのかわかる。 2) 1つのゾーンで、2つの土壌を採取して、土壌中の放射能を分析する 分析できるのはセシウム。放射能が弱くなるスピードが違うセシウム134とセシウム137の比率を調べる。そのことによって生涯線量を計算するときに使う計算式が実際とあっているかどうか検証する。 3) ゾーンの中のホットスポットを探して測る 平均値ではわからない、特に放射線量の高い場所がわかる 4) 個人線量計(ガラスバッジ)の設置と回収 長期的にどれくらいの被ばくをするのか予測できる。今回は、2つのお家の中と外に、計4つずつ設置しました。 生涯被ばく線量を計算するのに、必要なのは1)と2)。そして、自宅に戻った時にとても気をつけなければいけないのが、敷地内のホットスポット。そして、家の中でどれくらい被ばくするか、がわかる屋内に設置した個人線量計。それぞれが、自宅に戻った時に、どれくらい被ばくするのかを考えるのに、役立ちます。 全くおかしい年間20ミリシーベルト基準国による避難指示解除の条件は、この3つです。 1)年間20ミリシーベルト以下になることが確実であること 2)電気、ガス、水道、交通、通信などのインフラや、医療・介護・郵便などが復旧すること 除染が十分に進捗すること 3)県、市町村、住民との十分な協議 たしかに、今回の調査では年間20ミリシーベルト以下になることがほぼ確実でした。実は、この20ミリシーベルトというのは、避難指示を出す基準でもあります。 しかし、2011年に年間20ミリシーベルトであることと、今、年間20ミリシーベルトであることは全く違います。 事故から6年もたって、年間20ミリシーベルトというのは、それが一般人の公衆被ばく限度の年間1ミリシーベルトに下がるまで、50年をはるかに超える時間がかかるからです。 住民の方の被ばくリスクを考えると、この年間20ミリシーベルト解除基準は、許すことができません。 安心して暮らしたいだけなぜ、被害者の方々が被ばくをがまんしなくてはならないのですか? 住民の方が判断するのに必要な情報提供もしない、十分に意見も反映させない、科学的な分析に基づかない、現在の帰還政策は、被害者の方々の人権侵害です。 被害者の方々の人権をまもり、賠償を続けること、そして、情報をきちんと公開して、住民の方々の戻る・戻らないの決断を自らできるようにすること、避難解除の意思決定に住民も参加させることを日本政府に求めます。 あなたも、国際署名に参加して一緒に声をあげてください。 今回、安齋さん宅以外に、6軒のお宅を調査しました。今年も、来年も、続けて調査していきます。そしてまた、住民のみなさんに、そして全国で被害を受けた地域を気にかけているみなさんに、結果をご報告します。 グリーンピース・ベルギー 放射線防護アドバイザー ヤン・ヴァンダ・プッタ ベルギー出身。オランダ、デルフト工科大学を卒業し、ロシア、ウクライナ、スペイン、ベルギー、フランスで放射能汚染の環境調査に参加した豊富な経験を持つ。放射線防護スペシャリスト。 |