民意とメディアを手玉の安倍政権 巧妙化する独裁の進行
              日刊ゲンダイ2017年1月17日


 ホンマかいな? と首をかしげたくなる奇っ怪な数字だ。JNNが14、15両日に行った世論調査で、安倍内閣の支持率が前月から6ポイントも上がって67%になったという。不支持率は5.1ポイント下がって31.5%だった。政党支持率でも、自民党は先月より4.2ポイント増の38.7%。その分、民進党、公明党、共産党、日本維新の会、社民党の支持率が下がった。

 「参議院のドン」と呼ばれた自民党の青木幹雄元参院議員会長が編
み出した「青木率」によれば、内閣支持率と与党支持率の合計値が50%を下回ると政権崩壊が近いとされるが、今回のJNNの調査結果のように合計が100%を上回った場合、政権は安泰で無敵の状態になる。

 67%といえば、民意の3分の2にあたる。この数字が本当なら、国会も、国民世論も、安倍政権は3分の2を押さえたことになるが、一体どこが支持されているのか。

 安倍内閣を「支持する」理由を見てみると、多い順に「安倍総理に期待できる」が32%、「特に理由はない」が27%、「政策に期待できる」が22%で、これには言葉を失ってしまう。「期待できる」って、これまで安倍首相がひとつでも国民にプラスになることをしたか? この1カ月を思い返してみても、外交ではロシアのプーチン大統領には3000億円の経済援助を食い逃げされ、真珠湾訪問は何の意味があったのか分からないし、今回の4カ国歴訪でもフィリピンに1兆円もの支援を約束したのを筆頭に、行く先々で気前よくバラまくしか能がない。その前に自国民の生活を何とかしろよという話なのだが、内政面でもアベノミクスは行き詰まり、トランプ効果による株価上昇に救われていることは周知の事実。まさか、有権者はカジノ解禁や共謀罪に期待できるとでもいうのだろうか。

■「理由がない」のに支持する謎

 「普通は67%も支持があれば、熱狂的で、国民の政治への関心が高くなるものです。ところが、現実はそうなっていない。それは、安倍内閣支持の理由が『特にない』という答えが多いことに表れています。カジノ解禁や原発再稼働など個別の政策では反対意見が多いし、選挙の投票率も低い。それなのに、何をやっても、やらなくても支持率が上がる。安倍政権は数の力を背景に強行採決を繰り返した結果、国民の政治離れを加速させました。現政権の政策に『NO』と言っても無駄だと諦め、国民が政治に無関心になってしまった。それで、支持する『理由がない』と言いながら、消極的な支持率を与えるおかしな事態になっているのです」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)

 野党の不甲斐なさもある。自民党内にも対抗勢力がないから、消去法で安倍内閣を支持するしかないという意見もあるが、「それも大メディアによる情報コントロールの一環です」と、政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。

「大メディアは安倍政権を徹底批判しないという原則に立ち、昨年12月の山口県での日ロ会談も、真珠湾訪問も、大々的に報じていました。思いつきの迷走外交に対する批判は交えず、現地映像を垂れ流して歴史的偉業のように報道するから、結果的に何の成果もなくても、国民には、なんとなく大きな仕事をしているように見えてしまう。だから、世論調査の支持率も上がるのでしょうが、67%という数字を見れば、バンドワゴン効果でますます支持が集まる。戦時中の大メディアも、そうやって情報をコントロールし、国民を洗脳してきた。メディアを掌握すれば、独裁者が民意を手玉に取ることは朝メシ前なのです」

■「ウソも100回言えば…」の言ったもん勝ち

 メディアを使った情報統制の効果を誰よりも理解していたのが、ナチスドイツのゲッベルス宣伝相だった。「大衆は、もっとも慣れ親しんでいる情報を真実だと思う」と考え、イメージ操作と単純なスローガンを繰り返した。排他的な記者クラブ制度を確立させたのもゲッベルスだとされる。彼は会見で「政府と報道記者が協力することは可能だ。情報を受け取る人々は、同時に指示も受ける。政府が報道に協力するのは、政府に協力する報道が欲しいからだ」と語った。

 ゲッベルスさながらの情報コントロールを地で行くのが安倍政権で、パンツ大臣こと高木前復興相の対応は象徴的だった。最近になって、自民党福井県連が「パンツ泥棒で逮捕されたことは事実」と認めたが、高木自身は「そういった事実はございません」とシラを切り続け、逃げ切った。大メディアの記者はみんな“クロ”だと知っていたのに、高木の言い分を垂れ流したからだ。

 これは何も高木に限ったことではない。国会答弁でも平然とウソをつき、都合が悪い情報はメディアを抱き込んで隠蔽してしまう。「ウソも100回言えば真実になる」じゃないが、言ったもん勝ちがまかり通っているのが現状だ。

「日本の大メディアも、トランプ次期米大統領がメディア批判をし、会見で質問への回答を拒否すれば、公然と非難するのです。『メディアの役割は権力の監視』などとシタリ顔で言っている。では、なぜ同じことをしている安倍政権に対しては、批判の声が上がらないのか。この国のメディアが完全に安倍政権に取り込まれてしまったからですよ。わざわざ政権側が協力要請するまでもなく、安倍首相の顔色をうかがい、勝手に忖度して、政権に都合の悪いことは報道しない。公共放送のNHKが政府の広報機関に成り下がっているのだから、話になりません」(本澤二郎氏=前出)

■学習して轍を踏まなくなった

「政権が右と言えば右」の籾井NHK会長は24日にようやく退任するが、後任の元三菱商事副社長・上田良一経営委員も政権の息がかかった人物だ。

 上田氏を選出したNHK経営委員会の石原委員長は、安倍を支持する「日本会議福岡」の名誉顧問を務めていた。昨年、自ら委員長に立候補し、上田会長の道筋をつけたのである。朝日新聞(2016年12月7日)の報道によると、政権幹部は上田次期会長を「妥当な人事だ」と語ったという。この調子では、“安倍サマのNHK”路線は変わりそうにない。

 早大法学部教授で前NHK経営委員会委員長代行の上村達男氏も、日刊ゲンダイのインタビューで「最も重要な政府との関係で不偏不党を貫ける方かというと、むしろ籾井さんを支えてきた人でもありますので、(上田新会長は)政府のゴーサインの枠内でしか行動できないのではないか」と言っていた。

 問題は、籾井の会長就任時は、NHKをコントロール下に置こうとする政権のあからさまな介入が目立ったが、今回は政権に寄り添う会長をひっそりと選ばせた点だ。学習し、手口が狡猾になっている。

「公共放送が権力に都合のいい情報を流していたら、国民が正しい情報を冷静にジャッジする機会が大きく損なわれます。新聞テレビが既得権益の一部になって、国民の知る権利を妨げている。それは民主主義の危機なのに、いろんな権力が一体となって民主主義を破壊し、滅びの道を歩んでいるようにしか見えません」(山田厚俊氏=前出)

 独裁が巧妙化すれば、ますます怖いものナシになってくる。このままでは、秘密保護法、安保法制に続いて、共謀罪も成立する公算が大きい。民主主義が破壊されていることに気づかず、自分たちの平和な生活を脅かす政権に高支持率を与えている日本国民の悲劇は、喜劇的ですらある。