東京電力福島第一原発事故の損害賠償費用は、原発を持つ東電以外の電力会社も一部を負担している。家庭の電気料金でまかなっている7社について、朝日新聞が取材を元に国の家計調査を当てはめて試算したところ、1世帯(2人以上)あたり年約587〜1484円を負担している概算となった。家庭の負担額は料金内訳が書かれた検針票には示されておらず、利用者の目には届かない。

 国の試算で、賠償費用は7・9兆円にのぼる。うち5・5兆円分について、東電の負担に加え、他の電力会社も「一般負担金」として、原発の出力などに応じて負担している。

 7社は東京、北海道、東北、中部、関西、四国、九州の各電力。朝日新聞の試算では、家庭向けの電気料金で回収している一般負担金は1キロワット時で約0・11〜0・26円だった。

 関電と中部電が取材に対し、家庭向けの1キロワット時の概算を出していることを明らかにした。この方法を元に朝日新聞が他社分も試算。全社がこの試算の考え方に誤りがないことを認めている。

 これに各家庭の使用電力量をかければ負担額がわかる。国の家計調査を元に1世帯(2人以上)あたりを計算すると、最高は四電の1484円だった。次いで関電が1212円、東電が1159円、九電が1127円、北電が1034円、東北電が774円、中部電が587円となった。

 電気料金は、電気をつくって届けるのに必要な費用をすべて回収できる仕組み(総括原価方式)になっている。7社が2012〜14年度に値上げした際、一般負担金を料金算定に使う「原価」に盛り込んだ。このため家庭の電気料金に直接転嫁されることになった。

 7社以外の北陸電力と中国電力も一般負担金を払っているが、福島の事故後に値上げしておらず原価に含んでいないため電気料金には直接反映されていない。

 政府は20年から送電線の利用料にも2・4兆円分の賠償費用を上乗せする方針だ。国の試算では、賠償費用を含め、廃炉や除染などといった事故対応費用は21・5兆円にのぼる。東電が負担する費用以外に、税金も投じられる見通し。(西村圭史)

■一人一人の負担が見える形に

 〈全国消費者団体連絡会の河野康子事務局長の話〉 福島第一原発事故後の混乱の中で深い議論がないまま制度ができて、本来は東電が負担するべき賠償費用について多くの消費者が自覚のないまま一般の電気料金から回収されている。一方で、福島の事故で困っている人がいるのも事実。消費者が原発事故の問題に向き合うためにも、国や電力会社はもっと一人一人の負担が見える形にするべきだ。

     ◇

 〈一般負担金〉 本来は原発事故全般の賠償に備えて事前に資金を積み立てるのが目的だが、現状では積み立てた資金は福島第一原発事故の賠償費用に使われている。国が事故後の2011年に設立した認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を通じて東電に賠償資金を貸し、原発を持つ大手電力9社と日本原子力発電、日本原燃の計11社が機構に払う形で返済している。額は原発の出力などで決まり、11〜15年度で計約6713億円。東電は別に特別負担金(15年度までに計1800億円)も払っている。