伊方原発運転差し止め、「火山影響評価ガイド」厳格に適用

社説:伊方原発差し止め命令 噴火リスクへの重い警告

伊方原発運転差し止め、「火山影響評価ガイド」厳格に適用


 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを広島、愛媛両県の住民が求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁(野々上友之裁判長)は13日、申し立てを却下した今年3月の広島地裁決定を覆し、四電に原発の運転差し止めを命じる決定を出した。野々上裁判長は「阿蘇山(熊本県)の火砕流が敷地に到達する可能性が十分小さいとはいえない。立地として不適」と断じ、重大事故で「住民の生命・身体への具体的危険がある」と認めた。差し止め期限は来年9月末とした。高裁段階の差し止め判断は初めて。

 伊方3号機は今年10月から定期検査で停止中。仮処分はすぐに効力が生じ、今後の司法手続きで決定が再び覆るまで運転できない。四電は近く保全異議、仮処分の執行停止の申し立てを同高裁にする方針だが、予定していた来年2月の営業運転再開は困難な状況だ。

 伊方3号機は2015年7月、国の原子力規制委員会が東日本大震災後に作成した新規制基準による安全審査に合格し、昨年8月に再稼働した。

 決定で野々上裁判長は、規制委の内規「火山影響評価ガイド」を厳格に適用し、半径160キロの火山で今後起こる噴火の規模が推定できない場合、過去最大の噴火を想定すべきだと指摘。伊方原発から約130キロ離れた阿蘇山について「9万年前の最大噴火で火砕流が敷地に到達した可能性が十分小さいと評価できない。原発の立地は認められない」と述べた。地質調査などを基に「火砕流は到達せず安全」としていた四電の主張を退けた。

 阿蘇山の噴火に伴う火山灰などの噴出物についても、四電が想定した九重山(大分県、伊方原発から約108キロ)の2倍近くになると指摘。「四電による降下物の厚さや大気中濃度の想定は過小」とした。

 その上で「新規制基準に適合するとした規制委の判断は不合理」と批判し、事故で放射性物質が放出され、住民の生命や身体に危険が及ぶ恐れがあると認定した。

 一方、火山災害以外は、新規制基準に基づく基準地震動(地震時に想定する最大の揺れ)の設定などを「合理的」と容認した。

 運転差し止めの期限は、広島地裁で別に審理中の差し止め訴訟の判決で「異なる判断をする可能性もある」として来年9月30日までとした。

 東日本大震災後、差し止めを認めた判決・決定(異議審含む)は、関西電力高浜原発3、4号機(福井県、3号機は当時稼働中)を巡る昨年3月の大津地裁の仮処分など過去4例。いずれも地裁の判断だった。

 伊方原発3号機を巡る仮処分申請は、高松高裁、山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中。【東久保逸夫】

 【ことば】伊方原発

 九州へ延びる佐田岬半島(愛媛県伊方町)の瀬戸内海側に立地する四国電力唯一の原発。3号機(出力89万キロワット)は1994年に運転を開始し、2010年から国内2例目のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を始めた。1号機(運転開始77年)は昨年5月に廃炉。2号機(同82年)は12年から停止中で四電は再稼働、廃炉の判断を示していない。

社説:伊方原発差し止め命令 噴火リスクへの重い警告

原発の安全性への疑問が、司法界に広がっていることの証しだ。国や電力会社は重く受け止めるべきだ。

 昨年再稼働した四国電力伊方原発3号機(愛媛県)について、広島高裁が運転差し止めを命じる仮処分決定を出した。高裁では初となる。

 伊方原発から約130キロ西に阿蘇がある。四電は噴火で約15センチの火山灰が積もると想定したが、決定はこの想定を過少だと判断した。

 そのうえで、伊方原発を安全審査で合格させた原子力規制委員会の判断は不合理だと結論付けた。

 世界有数の火山国である日本は、原発と共存することができるのか。そんな根本的な問いかけが、司法からなされたと言えよう。

 東京電力福島第1原発事故を受けて定められた新規制基準に基づき、電力会社は、原発から160キロ圏の火山の影響調査を義務づけられた。原発の運用期間中に噴火が起きて、火砕流や溶岩流が到達する恐れがあると評価されれば、立地不適格で原発は稼働できない。

 阿蘇は約9万年前に巨大噴火(破局的噴火)を起こし、世界最大級の陥没地形(カルデラ)ができた。

 四電は、より小規模の噴火を想定し、火砕流などが阿蘇から到達する可能性は十分に低いと評価した。規制委も認めた。

 一方、広島高裁は、現在の火山学には限界があり、過去最大規模の噴火を想定すべきだと指摘。原発の敷地に火砕流が到達する可能性は低いとは評価できない、と判断した。

 この決定に従えば、現在稼働中の九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)も停止の対象となるだろう。

 周辺には、阿蘇のほか鹿児島湾など、複数のカルデラがあり、巨大噴火の影響を受ける危険性が全国の原発の中で最も高いとされる。九電は四電と同様に、運用期間中にそうした噴火が起きる可能性は十分低いと評価し、規制委も了承していた。

 日本で巨大噴火が起きるのは1万年に1回程度とされている。だが、頻度が低いからといって対策を先送りすれば、大きなしっぺ返しを受けることを、私たちは福島第1原発事故で学んだはずだ。

 政府や電力会社は、原発の火山対策について、さらに議論を深めていく必要がある。

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