朝日新聞社説:美浜原発延長 不安と疑問がつきない
    
                   朝日新聞2016年8月4日

 古い原発の運転延長が、またもや認められようとしている。

 今年11月末で運転開始から40年を迎える関西電力美浜原発3号機(福井県)について、原子力規制委員会が延長認可の前提となる審査書案を了承した。あと二つの認可で、最長で20年寿命を延ばすことができる。

 「40年を超える古い原発は、不測の事故を予防するためにも閉じていく」という法律の趣旨に基づき、延長はあくまで例外だったはずだ。にもかかわらず今年6月、稼働から40年超の高浜原発1、2号機(福井県)の延長が決まった。立て続けに美浜3号機も認めるのか。

 原発に依存しない社会をできるだけ早くつくる――いまも苦難が続く福島での事故から得たはずの教訓が、こうも簡単にないがしろにされていいのか。

 美浜3号機には、固有の問題も少なくない。

 まず、原子炉が断層に近い。このため規制委は地震の揺れ想定について、関電が当初考えていた基準値より1・3倍大きい値に引き上げた経緯がある。

 審査手順も納得できない。基準値の見直しに伴い、新たな安全対策に時間を要するとする関電からの要請を受け、規制委は重要設備の耐震性の最終確認について先送りを認めた。高浜1、2号機でも適用された手法だが、本来は先に確認しておくべきであり、疑問が残る。

 関電は美浜1、2号機については廃炉を決めた。3号機だけ運転延長を申請したのは、原発とともに歩んできた地元自治体への配慮に加え、出力が比較的大きく、追加対策にお金をかけても採算がとれるとにらんだからだ。

 だが、ここにも黄信号がともる。耐震性を強化するための関電の安全対策費は当初見積もりから400億円近く増えた。工期も2年延び、20年3月までかかるという。となると、運転できるのは最長でも16年だ。費用や工事は今後も増える可能性があり、稼働期間はさらに短くなるかもしれない。

 裁判所が原発の安全性に疑義を呈し、運転を認めない判断を示す例も続いている。美浜3号機が運転再開となれば、反対する住民からの差し止めの仮処分申請や提訴が避けられまい。想定通り稼働できなくても、見込んだ利益を確保できるのか。

 美浜3号機は04年、高温の蒸気が噴出する事故を起こし、11人の死傷者を出してもいる。40年ルールの根っこにある「原発に伴う様々なリスクを最小限にしていく努力」を思い起こし、延長方針を見直すべきだ。