膨らむ内部留保 増えない給与 366兆円 最高更新
    
                  東京新聞2016年6月5日 

 企業が余らせた利益に当たる「内部留保」が過去最高になったことが明らかになった。財務省が一日発表した一〜三月期の法人企業統計(金融・保険業を除く)によると、内部留保を指す「利益剰余金」は三月末時点で前年同期比6%増の三百六十六兆円。一方で、従業員の給与は横ばいのままで、企業のもうけを働く人たちの賃金の増加と個人消費の増加につなげようとした政府のシナリオは実現していない。 (吉田通夫)

 内部留保は正式な会計用語ではないが、一般的には、企業の売り上げから従業員への給料や、株主への配当を終えて残った「利益剰余金」の蓄積のことを指す。

 内部留保は安倍晋三政権の発足以降、急増しており、二〇一二年十二月に比べると、34%増えている。日銀による大規模な金融緩和で円安が進み、企業が海外で稼いだ売上高や利益が円に換算すると大幅に増加。その一方で、国内での設備投資や従業員に支払う給与は抑制しているためだ。今年一〜三月期に企業が従業員に支払った給与は二十八兆円と、前年同月比でほぼ横ばい。政権発足時の一二年十〜十二月期と比べると3%減少している。

 企業は内部留保を株式や土地の購入などで運用しているが、手元に残し世の中には出回らない「現金・預金」も積み上がっている。法人企業統計によると、現金・預金は安倍政権が発足してから27%増え、三月末で百八十一兆円と過去最大に上っている。

 働く人たちの賃金が伸び悩んでいるため、個人消費は低迷が続いている。さらに年明けからは急激な円高で企業は景気の先行きを不安視しており、第一生命経済研究所の星野卓也氏は「企業はいっそう(将来のコスト負担になる)人件費にお金を投じにくい環境になっている」と指摘している。

<内部留保> 企業の利益から配当などを差し引いて残る「利益剰余金」を指す。預金や株式での運用などに使われる。過去からの蓄積額で評価することが多い。利益自体が増えたり、経費が減ると内部留保は増える。