40年超原発、延長を初認可 高浜2基、60年運転 規制委

                           朝日新聞2016年6月21日

 原子力規制委員会は20日、運転開始から40年を超えた関西電力高浜原発1、2号機(福井県)について、60年までの運転延長を認可した。東京電力福島第一原発事故の後、原発の運転期間を原則40年とする制度ができてから初めて。運転延長の審査の「ひな型」ができたことになり、「例外」とされてきた運転延長が他原発でも相次ぐ可能性が高い。

 規制委は高浜1、2号機について、劣化しつつある一部の配管や電気ケーブルの補強や交換を条件にした上で、60年の時点でも安全機能が維持できると判断。1号機は2034年11月、2号機は35年11月までの運転を全会一致で認めた。ただ、関電はケーブルの交換など安全対策工事に3年以上かかるとみており、再稼働は早くても19年秋以降になる見通しだ。

 今の制度では、原発の運転期間は規制委が認めれば1度だけ最長20年延長できる。1、2号機の場合、経過措置で猶予された7月7日の期限までに三つの許認可を受ける必要があった。

 規制委は期限までに許認可がそろわず「時間切れ」で廃炉を迫られる事態を避けるため、他の原発を後回しにする形で審査し、4月に新規制基準に基づく許可を出した。重要設備を実際に揺らして耐震性を確かめる試験を先送りして、今月10日に工事計画を認可した。

 福島の事故後、電力各社は40年前後の老朽原発6基の廃炉を決めたが、35年以上の原発は高浜以外に5基ある。関電は美浜原発3号機(福井県)についても延長を申請しているが、主な審査は終わり、期限の11月末までに認可される可能性が高まっている。(北林晃治)

 ■<解説>抜け道の懸念、現実に

 原発の運転期間を原則40年とするルールは、政府から独立した原子力規制委員会の設置とともに、福島事故の犠牲と引き換えに手にした原発の安全を保つ改革の根幹だ。いずれも民主党政権時に、自民、公明両党も賛成し、法律で定めた。

 老朽原発を廃炉にすることは大事故の危険を減らす。福島第一で炉心溶融した1〜3号機は東電の全原発で最も古い3基だった。事故時に炉心を冷やす装置が旧式だった1号機は、ほとんど冷却できなかった。

 「40年ルール」は原発依存度も確実に下げる。老朽原発から順次廃炉にしていくのは理にかなっている。

 しかし、安倍政権は2030年度の総発電量に占める原発の割合を20〜22%とする計画を決めた。10基程度の老朽原発を40年超運転させないと届かない。

 規制委も、高浜1、2号機の運転延長の審査を、認可の期限に間に合うよう急いだ。政府と関電に対し、期限にとらわれずに安全を貫くという毅然(きぜん)とした姿勢を示せなかった。

 今後、40年を迎える原発は追随して運転延長を申請するとみられる。法の例外規定が「抜け道」になるのではという当初からの危惧が、現実になった。福島の惨禍を教訓に出直したはずの原子力安全の体制が、なし崩しに劣化している。(編集委員・上田俊英)


社説:原発40年規制 運転延長に反対する
                          朝日新聞2016年6月21日

 運転開始から40年を超えた関西電力高浜原発1、2号機(福井県)について、原子力規制委員会が運転延長を認可した。関電は安全対策工事をしたうえで、2019年秋以降の再稼働をめざす方針だ。

 東京電力福島第一原発の事故を経て、朝日新聞は社説で20〜30年後の「原発ゼロ社会」を主張してきた。当面どうしても必要な原発の稼働は認めつつ、危険度の高い原発や古い原発から閉じていくという意見である。

 このままでは、利益をあげられると電力会社が判断した原発について、次々と運転延長が認められかねない。今回の認可に反対する。

 まずは規制委である。

 難題とされた電気ケーブルの火災対策で、燃えにくいケーブルへの交換が難しい部分は防火シートで覆う関電の方針を受け入れた。運転延長後の耐震性を推定するために格納容器内の重要機器を実際に揺らす試験も、対策工事後に回して認可した。

 「1回だけ、最長20年」という運転延長規定は、電力不足などに備えるために設けられた。規制委も「極めて例外的」「(認可は)相当困難」と説明していたのではなかったか。

 より大きな問題は、安倍政権の原発への姿勢である。

 法律を改正し「原発の運転期間は40年」と明記したのは民主党政権のときだった。福島の事故を受け、国民の多くが「原発への依存度を下げていく」という方向で一致していたからだ。

 安倍政権も、発足当時は「原発依存度を可能な限り低減する」と繰り返していた。しかし、なし崩し的に原発温存へとかじを切り、基幹エネルギーの一つに位置づけた。

 「規制委が安全と判断した原発は再稼働していく」。これが最近の政権の決まり文句だ。

 その規制委は個別原発の安全審査が役割だと強調する。避難計画が十分かどうかは審査の対象外だし、高浜原発がある福井県のような集中立地の是非も正面から議論はしていない。

 高浜原発を巡っては今年3月、再稼働したばかりの3、4号機について、大津地裁が運転差し止めの仮処分決定を出した。決定の根底には、原子力行政を専門家任せにしてきたことが福島の事故につながったとの反省がある。

 「原発40年」の法改正は民自公の3党合意に基づく。規制委によりかかりながら、原発依存度低減という国民への約束をなかったことにするのは許されない。政権は40年ルールへの考え方をきちんと説明するべきだ。