NHK世論調査 憲法改正「必要ある」27% 「必要ない」31%
    
                  NHK2016年5月2日 

 
 NHKは先月15日から3日間、全国の18歳以上の男女に対し、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行い、2425人のうち62.8%に当たる1523人から回答を得ました。なお、地震活動が続いているため、熊本県では調査を行わず、大分県では調査を途中で取りやめました。

憲法の改正

 今の憲法を改正する必要があると思うか聞きました。
 「改正する必要があると思う」が27%、「改正する必要はないと思う」が31%、「どちらともいえない」が38%でした。
去年の同じ時期に行った調査と比べると、「改正する必要がある」は、ほぼ同じ割合だったのに対し、「改正する必要はない」は増え、「どちらともいえない」は減りました。
 NHKは平成19年からことしまで、合わせて5回、同じ質問を行っていますが、憲法を「改正する必要はない」と答えた人の割合は、今回、最も多くなりました。

 憲法を「改正する必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「日本を取りまく安全保障環境の変化に対応するため必要だから」が55%と最も多く、「国の自衛権や自衛隊の存在を明確にすべきだから」が20%、「アメリカに押しつけられた憲法だから」と、「プライバシーの権利や環境権など、新たな権利を盛り込むべきだから」がそれぞれ8%でした。

 憲法を「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「戦争の放棄を定めた憲法9条を守りたいから」が70%と最も多く、「すでに国民の中に定着しているから」が11%、「憲法の解釈や運用に幅を持たせればよいから」が10%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が4%でした。

憲法9条 集団的自衛権

 「憲法9条」について、改正する必要があると思うか聞きました。
「改正する必要があると思う」が22%、「改正する必要はないと思う」が40%、「どちらともいえない」が33%でした。
3年前の同じ時期に行った調査では、憲法9条について改正が「必要」という人と「必要はない」という人の割合はほぼ同じ程度でした。その翌年のおととしからは、それぞれ「必要はない」という回答が「必要」という回答を上回っています。

 憲法9条を「改正する必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「自衛力を持てることを憲法にはっきりと書くべきだから」が55%、「国連を中心とする軍事活動にも参加できるようにすべきだから」が23%、「自衛隊も含めた軍事力を放棄することを明確にすべきだから」が10%、「海外で武力行使ができるようにすべきだから」が5%でした。

 憲法9条を「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「平和憲法としての最も大事な条文だから」が65%、「改正しなくても、憲法解釈の変更で対応できるから」が15%、「海外での武力行使の歯止めがなくなるから」が12%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が4%でした。

 ことし3月、安全保障関連法が施行され、日本が集団的自衛権を行使することが可能になったことについて賛成か反対か質問したところ、「賛成」は25%「反対」は27%、「どちらともいえない」は40%でした。

立憲主義

 今の憲法の基本的な考え方である「立憲主義」について聞きました。
「政府の権力を制限して国民の人権を保護する」という立憲主義を知っていたかどうか尋ねたところ、「知っていた」が16%、「ある程度知っていた」が37%、「あまり知らなかった」が30%、「まったく知らなかった」が11%でした。
NHKはおととしも同じ項目の調査を行っていますが、立憲主義を「知っていた」「ある程度知っていた」という人の割合はいずれも増加しています。

 憲法解釈や憲法改正を議論するにあたって、立憲主義の考え方を重視すべきかと思うか聞いたところ、「重視すべきだ」が69%、「重視する必要はない」が12%でした。これはおととしの調査結果とほぼ同じ程度で、回答したおよそ7割の人が「立憲主義を重視すべき」だと考えていることが分かりました。

憲法を考えたり話し合う機会

 ふだん、憲法について考えたり話し合ったりすることがどの程度あるかを聞きました。
「よくある」が5%、「ときどきある」が36%、「あまりない」が38%、「まったくない」が15%で、合わせて半数以上が「ない」と答えました。
 こうした機会を増やしたいと思うかどうか聞いたところ、「大いに増やしたい」が10%、「ある程度増やしたい」が50%。「あまり増やしたくない」が24%、「まったく増やしたくない」が6%で、憲法について考えたり話し合ったりする機会を増やしたいと考える人が回答の6割に上ることが分かりました。

憲法学者は

 憲法改正に向けた議論を進めるべきだという立場の九州大学の井上武史准教授は、「憲法が70年間変わっていないことは、その間の社会の変化を憲法がまったく捉えていないということで、改正の必要性を常に考える必要があると思う」と話しています。
一方で、憲法を改正する必要はないと思うという回答が、これまでの5回の調査で最も多くなったことについて、「政府がやや強引に安全保障関連法を成立させたことで、憲法に関してはもう少し慎重にみるべきだという国民の声が現れたのではないか」と分析しています。そのうえで、「憲法を誰が読んでも分かるような形に変えるというのは、立憲主義の観点からも望まれるものだ。9条だけでなく、私たちの生活や政治に関する具体的な問題により対処できる憲法になるよう議論をしてほしい」と話しています。

 今は憲法を変えるべきではないという立場の東京大学の石川健治教授は、「今回の調査結果は、憲法を巡る議論の盛り上がりのなかで憲法を改正することへの危機感や批判意識が高まっていることを示していると思う。日本がこの70年間培ってきた立憲主義を損なうことになるのではないかということに、多くの人が気づき始めたのだと思う」と話しています。
そのうえで憲法改正については、「今の憲法に全く欠陥がないということはありえず、憲法が目指していながら実現していないものもあり、一切変えるべきでないとは考えていない。しかし、立憲主義が失われようとしているという危機感が、現在の国民の間に高まっているということは、公布から70年がたっても憲法を変える土壌ができあがっていないという現状を示している」と話しています。